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1. ワーク・ライフ・バランスとは何か

正しく理解されていないワーク・ライフ・バランス

イメージ企業による社員のワーク・ライフ・バランス支援が、人材マネジメントにおいて不可欠な取り組みと考えられるようになってきている。特に、次世代育成支援対策推進法や育児・介護休業法などが相次いで改正された2000年代後半からは、多くの企業がこれらの法律に沿ったさまざまな支援制度を整備し、ワーク・ライフ・バランスという言葉は一般に広く知られるようになっていった。

しかし、その考え方が正しく理解されているかというと、まだ十分ではないのが実状だろう。企業による社員のワーク・ライフ・バランス支援に疑問を投げかける意見も多く聞かれる。例えば、ワーク・ライフ・バランスに関する誤解には、以下のようなものがある。

【ワーク・ライフ・バランスに関する誤解】

  • 仕事はほどほどにして余暇を楽しむこと
  • 仕事と仕事以外の生活を同程度に重視すること
  • 既婚女性の子育てと仕事の両立を支援する少子化対策
  • 経営にゆとりのある企業による新しい福利厚生

いずれも、言葉のイメージだけで何となく理解したつもりになっていたり、考え方のごく一部だけを拡大解釈したりした結果によるものである。企業がワーク・ライフ・バランス支援の考え方を取り入れた人材マネジメントを推進しようとする時に、このような誤解が定着していたなら大きな障害になるだろう。

ワーク・ライフ・バランス支援を実のあるものにするには、人事部門だけでなく経営トップから管理職層、一般社員までがその意味を正しく認識していなければならない。本稿では、ワーク・ライフ・バランス支援の正しい意味と、企業が積極的に取り組むことの意義を確認するとともに、取り組んでいく上で重要となるポイントを整理していくことにする。

ワーク・ライフ・バランスの定義

イメージワーク・ライフ・バランスが実現できている状態とはどのようなものだろうか。一般的には、「働く人が、仕事上の責任を果たすと同時に、仕事以外の生活でやりたいこと、やらなくてはならないことに取り組める状態」と定義される。

その反対に、仕事上の責任を果たそうとして、仕事以外の生活でやりたいこと、やらなくてはならないことが十分にできていない状態を「ワーク・ライフ・コンフリクト」という。つまり、ワーク・ライフ・バランスが実現できていない状態である。

この定義を踏まえた上で、ワーク・ライフ・バランスを正しく理解するには、以下のポイントが重要になる。

1)仕事をおろそかにするものではない

ワーク・ライフ・バランスは、仕事を犠牲にしてそれ以外の生活を充実させるものではない。むしろ、限られた時間内で同等かそれ以上の成果をあげるために、仕事の質を向上させていこうという考え方である。

2)仕事以外の生活とは出産・育児だけを指すのではない

産休・育休の制度が普及してきたため、ワーク・ライフ・バランス=出産・育児支援と考えられがちだが、それだけが対象ではない。介護、自己啓発、通学、社会貢献、ボランティア、治療、通院、スポーツ、趣味、家庭など、生活していく上で必要なさまざまな事柄と仕事との両立を目指すものである。

3)一人ひとりによって異なり、変化する

ワーク・ライフ・バランスは、企業が「うちの会社ではこうだ」と一方的に決めることができるものではない。仕事以外の生活に対する考え方や状況は従業員一人ひとり異なるため、100人の従業員がいれば、100通りのワーク・ライフ・バランスが存在することになる。

また、ライフステージや置かれている状況によっても、大きく変化する。「今は仕事のスキルを身につけることが最優先だ」という人にとっては、寝る時間以外は100%仕事という状態でも問題ない。しかし、同じ人が今度は「資格取得のための学校に通いたい」と考えるのであれば、仕事と通学とのバランスをいかにとるかが重要になってくる。

ワーク・ライフ・バランスが注目される背景

企業がワーク・ライフ・バランスを意識しなければならなくなった背景には、仕事の時間に制約のある従業員が増えてきたという現状がある。高度成長期に代表される、かつての日本的な働き方は、全従業員のフルタイム勤務を原則とし、必要があれば残業や休日出勤も可能という前提に立つものだった。しかし、1990年代以降はこの状況が大きく変化している。

1)女性戦力化の動きと共働きの増加

イメージ1990年代以降、急速に進んだのが女性を戦力化する動きだ。男女雇用機会均等法の考え方が一般化してきたこともあるが、同時に少子化によって若年労働者数が減ってきたこと、女性向けの商品やサービスが企業にとってますます重要になってきたこと、IT技術の進歩や産業のサービス化が進んで女性が活躍できる職場が増えたことなどが大きな要因だ。それに加えて、デフレの定着により、家計を支えるためには共働きが当然と考える夫婦が大幅に増えてきた。こうした状況を受け、「仕事は続けたいがフルタイム勤務や残業は困難」という従業員をいかに活用していくのかが企業にとって重要な課題となっていったのである。

2)中高年世代は介護の必要に迫られる

介護と言えば、かつては専業主婦が夫の親の面倒を見ることが多かったが、少子化の進展と共働きの増加により、今後は、働きながら親の介護をする人たちが急速に増えることが予想される。出産・育児が一段落した中高年世代が、今度は高齢化した親を介護しなければならないケースが出てくるのだ。企業にとって、従業員の介護と仕事の両立支援策は、今後の重要な課題と言える。

3)企業をとりまく環境と価値観の変化

かつては企業が終身雇用を保証し、従業員は年功序列型の昇給を期待できた。しかし、今やその状況は大きく変化している。長引く不況など、経済環境の大きな変化により十分な報酬が約束されない状況の中、従業員が企業に求めているのはワーク・ライフ・バランスによる「時間」や「働き方の自由度」と言える。出産・育児や介護だけでなく、自らのスキルを伸ばすための自己啓発や資格取得のための勉強、大学院などへの通学、社会貢献や地域活動、ボランティア、さらにはスポーツ、趣味、家庭など、従業員がワーク・ライフ・バランスを重要視する理由も幅広くなっている。


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