これから企業に求められるのは、高い労働生産性の実現によって、従業員一人ひとりの負担を削減する発想だ。これまで多くの日本企業では「期間あたりの生産性」が評価の軸だった。査定期間内に多くの成果・実績を出した人が評価されるので、働き方に制約のない社員が高い評価を得ることができた。これでは、育児や介護などで働き方に制約のある社員は、そもそも競争のスタートラインに立つことができないし、モチベーションも上がらない。
それに対して、多くの欧米企業では「時間あたりの生産性」を評価の軸に置いている。EU加盟国では勤務間インターバル制度が義務付けられ、1日の労働時間が決まっている。そのため、企業は短い時間で高い成果・業績を出す社員を評価する。日本でも今後、働き方に制約のある社員が増えることが予想される中、高いモチベーションを持って働いてもらうには、「時間あたりの生産性」による評価が欠かせない。まさに今、「量」から「質」へと評価軸の転換をすすめ、高い生産性を実現できるしくみが求められている。
では、具体的にどのような取り組み方があるのか。近年、企業で行われている例を紹介する。
【生産性向上のための取り組み(例)】
情報の共有化 | 日本における企業と社員の関係は、入社した企業の一員となることが大きな意味を持つ「メンバーシップ型」。職務要件は明確ではないが、お互いに協力し合うことによって、全体の完成度を高めていく仕事のやり方のため、生産性の向上には社員同士の情報の共有化が不可欠となる。そこで、社内イントラネットから社内勉強会、オフ会など、さまざまな取り組みが行われている。 |
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ICTの活用 | ICT(通信情報技術)活用による生産性向上は、すでに多くの場面で検証されている。例えば地方支店を抱える企業では、Web会議が一般的になっており、担当者の移動時間や交通費の大幅な削減を実現している。また、ICTの活用で情報漏えいのリスクや労働時間管理など、テレワークも円滑に実施できるようになった。さらに、育児・介護などの理由で働き方に制約がある社員も、フルタイム正社員とそん色ない成果を上げることが可能になっている。 |
業務仕訳 | 不要な業務や価値の低くなった業務を洗い出す「業務仕訳」は、即効性があり、削減できる労働時間も長いため、生産性向上には非常に効果的だ。 |
多様な働き方 | 今後、育児・介護などの理由で、働き方に制約のある社員が増えている。また、若者は残業の少ない職場を好むなど、働き方に対する意識が変わってきている。そのため今後は、社員の働き方がますます多様化することが予想される。自分の希望するワークスタイルを実現することで、従業員の仕事に対するモチベーションは上がり、生産性の向上につながる。その結果、例えば「短時間正社員」「地域限定正社員」「週休3日正社員」など、社員の生産性向上に向けた新しい働き方を導入する企業が、どんどんと増えている。 |
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