ここからは、「働き方改革」の推進に向け、代表的な施策・対応(同一労働・同一賃金、長時間労働の是正、労働生産性の向上、テレワーク、副業、育児・介護と仕事の両立)について、その目的・課題と、実務上のポイントを整理する。
「同一労働・同一賃金」とは、「職務・職責の度合いが同一の労働者に対し、同一の賃金を支払うこと」。さらに、正規雇用・非正規雇用間の格差、性別、障がいの有無、国籍などを理由とする差別的な取り扱いを禁止する人権保障の観点から、すべての労働者に公正な賃金であることも意味する。そして、同一労働同一賃金の実現に不可欠なのは、「職務(役割)」の基準を明確にし、賃金を職務内容や役割、貢献度に応じて支払うしくみである。その際、基準となる職務(役割)は、経営目標を実現するための行動規準を定義した「職務(役割)基準書」でなければ、職務遂行が経営目標の達成につながらない。
また、多様な働き方を実現するためには、業務内容とその業務を遂行するための職務(役割)を、あきらかにすることが重要だ。これにもとづいて賃金が決定されることで、同一労働・同一賃金が実現する。また、「職務(役割)基準書」によって賃金が決められるため、働き方(雇用形態)をスムーズに移行することができる。
日本の労働慣行では、終身雇用や年功序列、頻繁な人事異動によって職務が限定されず、賃金は属人的に決定(職能資格制度)されることが多い。そのため、欧米のように同一労働・同一賃金の環境が整っていないのが実状だ。また多くの企業において長期にわたって雇用され、正規雇用労働者と同等、もしくはそれ以上の働きをする非正規雇用労働者が活躍しているにもかかわらず、正規雇用労働者と非正規雇用労働者の「格差」が大きいのも事実。両者が担う職務(役割)の基準が明確ではないのに賃金に格差を設ければ、非正規雇用労働者の働くモチベーションは当然低下する。
非正規雇用労働者にやる気も持って働いてもらうには、正規雇用労働者と比べたときに「責任の度合い(範囲)」など、職務に関して「差」があることが重要だ。例えば同じ職務に従事していても、現場で突発的な対応と責任を求められるのは正規雇用労働者であり、日々、創発的に発生する業務を担うのも正規雇用労働者であるから、その「区分け」は必要である。このように職務に「差」を設ける以上、それに応じて賃金に格差が生じるのは必然である。それと同時に、仕事の「差」を超えて、賃金に格差が生じないためのルールの策定が必須となる。
人材不足に対応するには、正規・非正規の区分によらず、多様な労働力を受け入れていくことが不可欠である。そのためにも、同一労働・同一賃金のルール策定は、今や待ったなしの状況と言えるだろう。
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