少子高齢化が一段と進み、多くの企業で労働力不足が問題となっている。そのため、大企業では従来の長期継続雇用を前提とした新卒一括採用方式の見直しが本格的に行われている。一方、人的資源が不足している中小企業やベンチャー企業では、採用は常に重要な課題であり、今後もそれが変わることはないと思われる。
このような状況を受け、短期的な業績の良し悪しにかかわらず、多様な雇用形態を取り入れる動きが加速している。言わば、必要な時に必要な人材を採用する“オンデマンド型”の採用である。中途採用をはじめとして、パート・アルバイトなどの短期・短時間労働者や高度な専門能力を持ったプロフェッショナル契約社員の採用、派遣・アウトソーシングの活用が進んでいるのは周知の事実だろう。採用手法としては、新卒を含めた通年採用が注目を集めている。
終身雇用慣行が薄れていくに従い、転職することに対して抵抗感がなくなるなど、働く人の意識は大きく変化している。例えば学校を卒業後、定職に就かないフリーターを選択する若者は珍しくなくなった。ビジネスパーソンには、キャリアアップ転職やヘッドハンティングに対して肯定的な考えを持つ人が増えている。ベンチャー企業志向が高まり、年俸制などプロフェッショナル志向も増加。育児期間を終えた主婦の専門能力や経験を活かした復職も目立つようになり、ダブルワークやテレワークなどに対するニーズが高まるなど、近年、働く人の就労意識は大きく変化している。
昨今では、経営を取り巻く環境が大きく変化する中、従来の新規学卒者の一括採用を起点とする長期雇用慣行と年功主義、集団的管理をベースとする賃金・人事制度から、多様な雇用形態、短期・成果主義、個別管理へと人事マネジメントのあり方が移り変わろうとしている。雇用においてもそれは同様で、さまざまな側面で多様化が進んでいる。では、多様化が進展する中で、中途採用の持つ「意義」とは何なのか?
採用対象 | 外国人、留学生、第二新卒、経験者、出戻り社員(再入社・再雇用社員)、障がい者 など |
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雇用形態 | パート・アルバイト、契約社員、出向社員(レンタル移籍)、ダブルワーク(副業・兼業) など |
非雇用契約 | 派遣社員、業務委託・委任・IC(インディペンデント・コントラクター)、アウトソーシング など |
就業場所 | 在宅勤務、サテライトオフィス、テレワーク、モバイルワーク、バーチャルカンパニー など |
時間管理 | フレックスタイム制、事業場外労働・裁量労働の「みなし」、短時間勤務 など |
雇用管理 | 一日~終身、定年制廃止 など |
賃金・報酬 | 時給~年俸制、成果給、多額な業績賞与、ストックオプション など |
募集方法 | 秋採用、通年採用、オーダーエントリーシステム、インターンシップ など |
募集手段 | 就職サイト、自社採用ホームページ、ソーシャルメディア、人材紹介、紹介予定派遣 など |
近年、新卒マーケットにおける求人倍率が上昇し、売り手市場が続いている。その結果、新卒採用で十分な人材を確保できない企業が続出し、中途採用へのニーズが高まっている。中堅・中小企業のみならず、従来は新卒重視の考え方を取ることが多かった大企業、有名企業の多くも、中途採用に本格的に取り組むようになった。
大手企業、中堅・中小企業が入り乱れての中途採用戦線となった理由の一つに、中堅・中小企業で、人材不足がいっそう深刻化していることが挙げられる。知名度などの点で、新卒採用では不利な立場に立たされてきたこともあり、以前から中途採用を活発に実施してきた中堅・中小企業は多かった。そこに大手企業が本格的に中途採用戦線に参加してきたため、より積極的に活動するようになったのである。
一方、大手企業が中途採用を積極的に行う理由は、それとは異なる。一つは、新規事業分野に進出する企業が増加し、その事業を担う専門性の高いキャリアのある人材を採用する必要性が出てきたから。もう一つは、組織の活性化・イノベーションを図るため、他社で経験を積んできた人材を採用し、自社にはいない異文化や経験の導入によって、社内に刺激を与えようとしたからだ。このような背景から、新卒採用だけに限らず、中途採用を定期的に行うようになった企業は多い。特に、次代の経営を担う人材を外部から採用しようと考える企業に、そうしたケースが目立つ。
新卒採用とは異なる中途採用のメリットは、以下のように整理できる。
多様な採用マーケット | 就社の要素が強く、基本的にはポテンシャル採用である新卒採用に対し、中途採用は多様な雇用契約、労働条件の提示が可能。また、マーケットにおける求職者も多様だ。採用する際も、多様な採用方法・募集手段があり、採用ターゲットや目的に応じて使い分けることが可能である。 |
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即戦力の獲得 | 最先端の技術、知識を持った人材が社内に不足している場合、その技術、知識を保有する者に的を絞った、ジャストフィットの採用が可能になる。中小企業はもちろんのこと、成果や業績志向を強める大企業においても、中途採用者は即戦力となる。 |
採用の通年化 | 新卒採用では、ほとんどが3月末卒業の4月入社だが、この形態が効果的である側面(教育や配置など)と、そうでない側面(主に人件費などのコスト)とがある。欠員補充への即時対応だけではなく、例えば店舗の新設・増設など、計画的な事業展開に合わせてオンデマンドで採用していこうと考えた場合、中途採用を中心とした通年採用が効果的である。 |
組織の活性化 | 新しい人材が入社することで、組織には新たな風を吹き込まれる。また、採用された人材が他社で身に付けた組織運営のノウハウや経験などを、全社的に活かすことができる。 |
育成する手間を省く(時間を買う) | 異業種や新規事業に進出しようとしている企業に適材がいない場合、既存社員を新たに育成するのは時間がかかる。M&Aほどではないが、中途採用なら育成期間の短縮が可能である。中途採用の場合、人材への投資を育成ではなく、採用へとシフトすることになる。「育成する手間を省き、時間を買う」という考え方だ。 |
イメージアップ効果 | 大企業における中途採用の公募の増加は、求人ニーズの増大と転職の一般化を象徴するものと言える。その結果、中途採用のイメージは「新卒採用や育成の失敗や定着率の低さ」などの否定的なニュアンスから、近年は「積極的な事業展開、オープンで活性化された組織人事風土」など、肯定的なものへと大きく変わっている。 |
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