アルバイト・パート採用においては、入口であるアルバイト・パートの「採用基準」を、どのようなところに置いて選考していくかが重要である。また、「採用基準」については、「最低限必要な条件」としての採用基準と「自社が求める人材像」としての採用基準がある。そして、その理想と現実の“ギャップ”を明確にすることによって、その後のフォロー(指導・教育研修・評価)をどうするかも決まってくる。
人材の流動化、雇用ミックスが進んでいる現在では、アルバイト・パートに店長などを任せることが一般的になっている。ただそれは、採用側が積極的にアルバイト・パートを活用していこうという前向きな戦略があって、初めて実現できることだ。そのためには、「アルバイト・パートは補助的な業務を担当する」という考えをいったん、脇に置くことが大切である。
アルバイト・パートを正社員並みに「基幹労働力」として位置付けるために重要なのは、優秀でやる気のあるアルバイト・パートに対して、働く場や機会をどんどんと提供していくことである。問題は、アルバイト・パートの担い手となる「学生」「主婦」「若年フリーター」「高齢者」「外国人」など、さまざまな属性の人たちをミックスした上で、店舗・職場での基幹労働力化を実現しなければならないこと。つまり、各々の志向や置かれた立場を考え、仕事の役割分担を決めなければならないのだ。そのためには、単なる人数合わせの採用ではなく、ターゲット(担当する仕事・期待する役割)を絞った採用選考を行うことが重要となる。アルバイト・パート採用時に最も大切なのは、どういうレベルの人を採用するか、その基準を明確にすることである。
これまでは採用基準をあまり明確にせず、とりあえず採用してから教育していくことでよしとしていたケースが多かった。あるいは、過去にその職種を経験したことがあれば即採用、といったケースもよく見られた。このようなやり方はミスマッチにつながり、人材が定着しなくなるという悪循環を招く。採用する側が何の基準も持たず、育てていくうちに何とかなると漠然と考えているようでは、決してやる気のある人材、戦力となる人材は育てられない。
アルバイト・パート採用で重要なのは、採用した人がなるべく早く一人前になり、できるだけ長く働いてくれる(契約期間を全うしてもらう)ことだ。そうすることで、たとえ人が入れ替わっても、新しい人がすぐに一人前になれる強固な体制が作られていく。それを実現するための第一歩が、採用基準を作成し、面接に当たることである。
採用基準を考えるとき、「最低限必要な条件」としての最低基準と、「自社が求める人物像」としての採用基準の二つの方向性がある。前者は仕事をする上で、一般的に求められる「必要条件」であり、「面接チェックシート」などで確認する類のものである。後者は自社独自の人材要件であり、例えば「コンピテンシー(仕事ができる人の行動特性)」などを用いて、人材採用を行うものである。
面接をする際のチェックシートがあっても、項目が抽象的で使いにくいというケースは少なくない。採用の基準となる項目が具体的なレベル(態度・行動など)に落とし込まれていなければ、実際の面接では活用できないのだ。面接時に最低限押さえておきたい採用基準には、以下のようなものがある。
1.「態度」「言葉遣い」は良いか(丁寧か) | Yes | No |
---|---|---|
2.「身だしなみ」「服装」に問題はないか | ||
3.「髪型」「化粧」に問題はないか | ||
4.「笑顔」が自然か | ||
5.「挨拶」「はい」の返事が、はっきり出ているか | ||
6.「動作」「態度」がきびきびしているか | ||
7.「やる気」「意欲」を感じるか | ||
8.店(仕事場)の従業員としての「協調性」はありそうか | ||
9.本人が希望している「職種」や「条件」が合っているか | ||
10.「通勤」や「時間帯」に問題はないか | ||
【寸評】 |
例えば、「髪型」「化粧」は男女を問わず、問題となりやすい事項である。面接時に、ハウスルール(職場規則)などで定められている「身だしなみ・服装」基準などに問題があった場合、応募者に具体的に指摘して、採用後に髪型や化粧を直せるかどうかを確認するようにする。それができない場合は、採用しないのが賢明である。また、挨拶や返事も重要である。面接時に声が小さいようであれば、採用後に自分から進んで挨拶したり、大きな声を出したりすることは少ないだろう。事実、声の大きさは、応募者の活力や快活さを表現する指標でもある。
一方、「労働条件」に関する項目については、応募者の要望をしっかりと聞き出し、対応していかなければならない。ここでの対応をおろそかにしていると、採用後に当初の約束と違うなど、トラブルを引き起こす原因になりかねない。また、他のアルバイト・パート従業員への悪影響にもなる。
大切なのは、自社(自店)用に、独自のチェック項目を作成し、評価すべきポイントを決めておくこと。採点は「Yes」「No」で判断するが、「評価欄」に「寸評」を残しておくと、採否を決める選別の際に、当人を思い出しやすくなる。
近年、仕事ができる人の行動特性であるコンピテンシーを評価の基準として、採用に活用する企業が増えている。この傾向はアルバイト・パート採用でも同様で、中には「コンピテンシーがない場合は、なるべく早く辞めてもらうことがお互いのためになる」と言い切る採用担当者もいる。それだけ、コンピテンシーの有無が、採用後のアルバイト・パートの仕事ぶりに与える影響が大きいからだ。
本来ならば、自社の高業績者に対して聞き取り調査を行い、自社独自のコンピテンシーを作成するのが望ましいが、そのための時間やコストを掛けられないのが実情である。そうした場合、他社事例や文献調査などで確認されている「コンピテンシーモデル」を元に、アルバイト・パートを採用するための簡易版コンピテンシーを活用するのも一つの方法だ。
以下にその例を示したが、面接でコンピテンシーを確認する場合には、これらを応募者が答えやすい文章に直すことが必要である。例えば、「親密性・ユーモア」では「親しみやすく、話しやすい」とあるが、これを「人に『他人に対して暖かく愛想がよく、やさしいね』と言われたことがある」「自分にはユーモアのセンスがあると思う」といった具合に言い換える。あるいは逆の文例として、「自分は人付き合いが苦手である」とするのでも構わない。
このように自社なりのコンピテンシーを適用した「文例」を加えることで、採用基準の明確化、徹底化を図っていくことが重要だ。文例をいくつか用意し、チェックしていけば、「最低限必要な条件」としての採用基準と合わせ、自社のあるべき人材像にマッチした人材を採用する確率が高くなる。
コンピテンシー | 文例 |
---|---|
誠実さ:仕事や他人に対して、真面目で真心がこもっている | 自分のミスを、人のせいにしない |
几帳面さ:物事に対して隅々まで気を付け、きちんとしている | スケジュールや時間、約束、ルールを厳守する |
徹底性:一度決めたことは途中で投げ出さない | 自分やチームで決めてことは、最後まで継続してやり遂げる |
思いやり:相手の立場や気持ちを理解しようとしている | 他人の業務上、私生活の問題に気を遣う |
柔軟志向:状況変化に効果的に対処している | トラブルや不確定なことに、うまく対応している |
素直さ:相手の意見や指摘を、まずは受け入れる | 失敗した時、自分のやり方が間違っていなかったかと考える |
親密性・ユーモア:親しみやすく、話しやすい | 他人に対して温かく愛想がよく、やさしい |
第一印象度:最初に会ってすぐ、他人に対して好印象を与える本人の言動・態度 | 声が大きく、きびきびした動作をしている。明るく、礼儀正しい挨拶をしている |
チーム精神の発揮:効果的に仕事を遂行するために、自ら苦労を買って出る | 自分の仕事をこなした上で、さらに他人の仕事にも協力している |
ムードメーカー性:本人の存在や言動が、組織・職場を目標達成意欲にみなぎらせている | 彼、彼女がいると、職場の雰囲気が明るくなる |
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