アルバイト・パートなどの短時間労働者の契約期間や勤務時間、勤務条件、職責などを、正社員よりも緩やかに定めている企業は少なくない。しかし、会社と従業員の法律上の関係でいえば、アルバイト・パートは正社員と全く変わらない。また、労働関係の法令(労働基準法、最低賃金法、労働安全衛生法、男女雇用機会均等法、育児・介護休業法、雇用保険法、労災保険法など)は、アルバイト・パートにも基本的に適用される。このような法的な観点からも、アルバイト・パートに対する適正、かつきめ細かな人事・労務管理が求められる。
アルバイト・パートは、採用や退職、勤務時間の変更などが頻繁にある。さらに、採用手続きや労務管理なども現場の事業所に任されていることが多いため、労働条件を明確に取り決めず、勤務させているケースも見られる。アルバイト・パート従業員とのトラブルを起こさないためにも、必須事項を定めた労働契約書を取り交わす、あるいは労働条件通知書(賃金・労働時間など会社と従業員との間の約束事を記載する書類)を確実に本人に渡すことが、企業側には求められる。
労働基準法により義務付けられている事項 | ・労働契約の期間 ・仕事をする場所、仕事の内容 ・勤務時間、残業の有無、休憩時間、休日・休暇、交替勤務の場合のローテーション ・賃金の決定、計算と支払の方法、締切りと支払い時期 ・退職に関すること、解雇事由 |
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パートタイム労働法により義務付けられている事項 | ・昇給の有無 ・退職手当の有無 ・賞与の有無 |
アルバイト・パートの現場では、高校生など満18歳未満の者が働くケースも少なくない。このような場合、以下の点に十分な留意が必要である。なお、中学生以下(満15歳に達した日以降の最初の3月31日まで)の者を労働者として働かせることは、映画や演劇の事業(子役など)を例外として、原則禁止されている。
原則として禁止 | ・深夜(午後10時~午前5時)に働かせること ・1日8時間、1週40時間を超えて働かせること |
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禁止 | ・重量物を取り扱う作業に就かせること ・高さ5メートル以上で、墜落の恐れがある場所で行う作業に就かせるなど、危険・有害な業務に従事させること |
雇用形態にかかわらず、所定労働日数の8割以上を出勤した時は、その所定労働日数に比例した有給休暇が与えられる。アルバイト・パートに対しても、採用から6ヵ月を経過した日とその後1年を経過するごとに、以下のような日数の有給休暇を与えなくてはならない。
週所定労働時間 | 週所定労働日数 | 1年間の所定労働日数 | 勤続期間 | |||||||
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6ヵ月 | 1年6ヵ月 | 2年6ヵ月 | 3年6ヵ月 | 4年6ヵ月 | 5年6ヵ月 | 6年6ヵ月以上 | ||||
30時間以上 | / | / | 10日 | 11日 | 12日 | 14日 | 16日 | 18日 | 20日 | |
30時間未満 | 5日以上 | 217日以上 | ||||||||
4日 | 169~216日 | 7日 | 8日 | 9日 | 10日 | 12日 | 13日 | 15日 | ||
3日 | 121~168日 | 5日 | 6日 | 8日 | 9日 | 10日 | 11日 | |||
2日 | 73~120日 | 3日 | 4日 | 5日 | 6日 | 7日 | ||||
1日 | 48~72日 | 1日 | 2日 | 8日 |
なお、有給休暇を取得した日の賃金は、就業規則・労使協定などの定めるところにより、以下のいずれかの方法で計算する。
・平均賃金(過去3ヵ月間における1日当たりの賃金)
・通常の賃金(所定労働時間労働をした場合に支払われる賃金)
・標準報酬日額(健康保険法による)
労働者を雇用した場合の最低賃金は、試用期間や研修期間中である場合や年齢、性別、雇用形態などにかかわらず、全ての従業員に適用される。最低賃金には、各都道府県に一つずつ定められた「地域別最低賃金」と、特定の産業に従事する労働者を対象に定められた「特定(産業別)最低賃金」の2種類があり、金額の高い方を当てはめる。また、最低賃金は毎年10月に見直されるので、最新の金額を厚生労働省のWebサイトなどで把握し、その額を下回らないようにする。なお、最低賃金は「時間給」で表示されるため、「週給制」「月給制」を用いている場合は時間給に換算して、最低賃金を上回ることが必要となる。
原則として、1年以上の継続雇用が見込まれ、または1年以上継続している場合で、1週間の所定労働時間が常勤従業員の4分の3以上であるアルバイト・パートには、健康診断を行わなければならない。
社会保険の適用事業所に勤めるアルバイト・パートは、一般従業員の所定労働時間・所定労働日数の概ね4分の3以上である場合、社会保険(健康保険・厚生年金)の加入対象となる。
1週間の所定労働時間が20時間以上であり、1年以上引き続き雇用されることが見込まれる場合は、アルバイト・パートであっても雇用保険の対象となる。ただし、学生や満65歳を超えて雇用された人は、対象外である。
労災保険は、雇用形態にかかわらず、全ての従業員が対象となる。週1日だけの勤務であっても、必ず労災保険に加入しなければならない。
給与所得者は年収に応じて課税されるが、アルバイト・パート本人に課税されるか否か、また配偶者控除を受けられるか否かは、アルバイト・パート本人の所得金額によって決まる。アルバイト・パートの年収額とその課税対象、および配偶者控除の関係は以下の通りである。
アルバイト・パートの年収額 | 本人 | 本人の配偶者 | ||
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課税対象 | 控除を受けられる対象 | |||
所得税 | 住民税(所得割) | 配偶者控除 | 配偶者特別控除 | |
100万円以下 | × | × | 対象 | × |
100万円超103万円以下 | × | 対象 | 対象 | × |
103万円超141万円未満 | 対象 | 対象 | × | 対象 |
141万円以上 | 対象 | 対象 | × | × |
仕事や責任などが正社員とほとんど変わらない働き方なのに、賃金や待遇が見合っていないため、アルバイト・パート従業員が労働意欲を失ってしまうケースがある。「パートタイム労働法」は、こうした問題を解決し、適正な労働条件の確保や福利厚生の充実など、公正な待遇を実現するために、雇用管理の改善などを目的に設けられた。
特に、アルバイト・パートで働く多くの人たちは、仕事と家庭(学業)の両立を考慮し、生活のリズムに合った労働時間を選んで応募する。そのため、企業側が一方的に労働時間を変更したり、残業を命じたりすることのないようにすることが求められる。パートタイム労働法には、アルバイト・パートに関する人事・労務管理上の留意点はほぼまとめられているので、アルバイト・パートを雇用する際には、内容を十分に理解しておくことが望まれる。
待遇の原則(第8条) | 雇用主が、短時間労働者の待遇と正社員の待遇を相違させる場合は、職務の内容、人材活用の仕組み、その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。 |
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差別的扱いの禁止(第9条) | 契約期間の有無にかかわらず、パートタイマーの職務内容と人材活用の仕組みが正社員と同じである場合には、全ての待遇についてパートタイマーであることを理由に、差別的に取り扱うことは禁止されている。 |
バランスの取れた待遇を(第10、11、12条) | 正社員と同視すべきパートタイマーでなくても、教育訓練を実施し、賃金(基本給、賞与、役付手当等)は職務内容、成果、能力、経験などを勘案して決定するように努め、福利厚生施設の利用等についても配慮することが必要である。 |
雇い入れの際、労働条件の文書明示を(第6条) | パートタイマーを雇い入れた時は、労働条件を文書の交付により明示しなければならない。パートタイム労働法では、書面明示しなければならない必須項目に加え、「昇給の有無」「退職手当の有無」「賞与の有無」「相談窓口」についても、書面での明示を義務付けている。 |
雇い入れたら、待遇の決定について説明を(第14条) | パートタイマーの中には、通常の労働者との待遇の格差について不満や疑問を抱く人がいるかもしれない。待遇について、パートタイマーに説明を求められたら、雇用主は待遇の決定にあたって考慮した事項について、説明する義務がある。 |
正社員へ転換するチャンスを(第13条) | 雇用主は、通常の労働者(正社員)を募集する場合は、すでに雇っているパートタイマーにも応募の機会を与えるなどの措置を講じなければならない。 |
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