等級制度の実際
(1)等級制度の意義・目的
社内序列のしくみを作り上げる

「等級」とは、社内の序列(ランク)のことで、等級によって処遇が異なる。等級のしくみ(特徴)は、人事評価の「対象」を何にするかによって決まる。例えば、年齢や経験といった「年功」を評価対象にすれば年功の序列、職務の遂行に期待される「能力」を評価対象にすれば能力の序列、そして業績や実勢を重視した「成果」を評価対象にすれば「成果」の序列となる。何を評価対象とするのかは、各社の人事戦略(ポリシー)はもちろんのこと、過去の経緯などによって異なるため、どれが良い、悪いというものではない。
通常、これら序列は「1等級」「2等級」「3等級」といった形で示されることが多い。その際、「等級基準書」や「等級要件書」などに定められた等級ごとの基準や要件を満たしているとの評価を受けたうえで、「1等級」から「2等級」、「2等級」から「3等級」へと序列の階段をステップアップする。このしくみが「等級制度」である。
なお、等級から導き出される報酬のしくみは、以下の二つが一般的である。一つは、等級ごとに一定額の基本給や年俸を決めるもので、「単一給」「シングルレート」などと呼ばれる。もう一つは、等級ごとに定められた成果責任の達成度評価で昇給額を変動させるものであり、「範囲給」「レンジレート」などと呼ばれる。
(2)等級制度の種類
等級制度にはいくつかの種類があるが、近年の日本企業では「職能資格制度」「職務等級制度」「役割等級制度」の三つが代表的なものである。
職能資格制度:能力評価であるが、実際は年功主義となるケースが多い
1970年代、それまでの年功型賃金から職能資格制度への移行が始まり、多くの企業で「職能給」が採用されることになった。職能資格制度は、「仕事をするために必要な能力(職務遂行能力)」をベースにした制度で、職務遂行能力をレベル化(ランク付け)し、昇進・昇格、賃金、能力開発などを決定・運用する。レベルは参与、参事、主事、主査などと呼ぶことが多く、レベルに応じて賃金を決める。
本来は、それまでの年功序列による管理職の肥大化を回避するために作られた制度であったが、運営していく中で年齢とともに半自動的にレベルが上がり、合わせて給与も上がっていくという、実質的に年功的運用となり、総人件費が高くなってしまった。このような経緯から、現在では職務等級制度や役割等級制度へと移行する企業が増えている。
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職務等級制度:職務で評価するので明快な反面、運用が難しい
職能資格制度に替わる等級制度として台頭してきたのが、職務等級制度と役割等級制度だ。職務等級制度は、職務分析の結果をもとに「職務記述書」を作成し、その記述書に書かれた基準に対する結果を点数化し、評価を決定する方法である。職能資格制度は評価基準が全社一律で、昇格基準があいまいだが、職務等級制度は職務ごとに明確に(具体的に)記述・定義していることから、年齢に関係なく明快な評価を行うことができる。このような職務評価に従って賃金を決めるのが「職務給」で、欧米では、多くの企業で導入されている。
しかし、職務給のしくみは、膨大な職種と職位のクロスで細かく策定することになるので、手続きが非常に煩雑となる。さらに、経営環境の変化にともなう事業内容の変化・新設に対して手続きが追いつかず、結局は人事の固定化を招くことになり、当初の期待ほど日本企業での普及は進んでいないのが実情である。
また、職務記述書で与えられた職務をこなせば一定の評価が与えられるため、一部では、従業員が受け身になり、新しいことに取り組むチャレンジ精神が薄れる、といったデメリットも生じている。このような職務等級制度が構造的に抱える問題点を背景に、近年、導入が進んでいるのが役割等級制度である。
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役割等級制度:経営ビジョン・経営戦略から導かれる役割を等級化。ただし処遇面で激変するケースも
役割等級制度では、経営ビジョンや経営戦略などと連動した「仕事の基本的役割」を調査し、「役割価値」を明確にする。それをもとに、従業員はみずから目標とする「役割」を決め、さらに個人の「チャレンジ目標」(成果責任)を付加し、評価基準とする。その評価によって賃金を決めるのが「役割給」である。
実際の運用の仕方としては、「管理職層」と「一般職層」という大きな職群に分け、その中の職位ごとに役割を決定するのが一般的だ。硬直的な評価に陥りがちな職務等級制度と異なり、役割等級制度では役割というある程度大きなくくりとしたこと、さらにみずからの目標を評価基準として付加することによって、弾力的な評価を行うことができる。なお、ここでの役割とは、各社の企業戦略から事業部、さらに事業部内の各組織単位への戦略へブレークダウンし、最終的に個人の役割を引き出したものである。
ただ、役割等級制度を導入すると、処遇面が激変するケースも多い。従業員への影響を考え、従来の制度との併用を行い、処遇に関してソフト・ランディングを図るなど、激変に対する配慮や運用面での工夫が求められる。また、実際の導入に際しては従業員や組合と話し合いの機会を持ち、しっかりと説明して社内での理解と納得を得たうえで、実施することが大切である。
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