新入社員教育(研修)の実務:教育担当者の心構え

1)新入社員教育(研修)を実施する際のポイント
新入社員教育(研修)を実施する際、どのような点に留意したらいいのか、以下にそのポイントをまとめる。
「座学」はなるべく避ける
最近の若者は、自分に興味のない話を我慢して聞こうとしない傾向がある。また、新入社員は会社生活について何も経験していないので、どんなに上手に話しても、興味を引き付けることが難しい。そのため、集合研修方式の「座学」は、最小限に抑えるべきである。それよりも「体」を動かし、「頭」を使う体験学習方式の方が、学習効果が上がる。
どうしても「座学」にならざるを得ない場合には、「視聴覚教材(DVDなど)を使う」「質問を投げかけて答えさせる」「小グループによる討議を盛り込む」など、 “受動的”にただ聞かされているだけの状態から、抜け出すための工夫が求められる。
「実践」を通して学ばせる

「体験学習」と呼ばれる「実践」を通しての学びが、新人の場合には効果的だ。例えば、「グループ討議発表」「演習」「ロールプレイング(役割演技)」「現場実習」「先輩訪問」「課題研究」「ゲーム学習」「自主的合宿」などである。
電話の応対や接遇の基本動作の体得には、講師が口で説明するよりも、「ロールプレイング」が最適である。また、会社の理念や方針に関して、経営幹部や人事が話すだけでなく、新人たちがチームを組んで先輩からヒアリングを行い、その結果を全員の前で報告させることも有効である(先輩訪問)。あるいは、「自主的合宿」なども実践的な取り組みの一例だ。合宿のプログラムは指導員が作成しても構わないが、実行は全て新人が自主的に役割分担して実施するようにする。そこで、チームワークや規律を「身体」で覚えることになる。さらに副次的な効果として、新人相互の密接な関係が生まれ、相互援助や相談などが行われることで、新人の会社適応にも役立つことになる。
年齢の近い「先輩社員」を参加させる
新入社員と年齢の近い20代の先輩社員を社内講師として、業務内容や知識を教える際の指導に当たらせる。年齢が近い分、新入社員も話しやすいからだ。やり方としては、グループ単位、あるいはマンツーマン方式で、その都度きめ細かく対応する。講義形式と違って、気軽に質問することができ、実際の仕事とどう関わっているのか、実務に則した知識やスキル、対応の仕方を学ぶことができるからだ。また、新入社員だけでなく、先輩社員自身の教育効果も期待できる。
「議論」の場を設ける
集合研修の多い新入社員教育(研修)では、できるだけ「議論」する場を設けるようにする。グローバル展開が進む中、自分の意見をはっきりと言えるビジネスパーソンが、これからは求められているからだ。そのためにも単にミーティングや話し合いを行うのではなく、一定の条件下で、賛成派・反対派を分けて議論を進める「ディベート」などを行い、常に自分の意見とその背景となる事項を意識させることが大切である。
全社的な体制の下、実施する
新入社員教育(研修)は、人事部や能力開発部だけが行うものではない。特に、内製化が進んでいる企業では、現場の社員の協力が不可欠である。また、配属後もOJTやメンター制度など、現場の人たちの協力が必要となる。新入社員教育(研修)に関しては全社的な体制を敷き、新入社員を育てるのは会社にいる全員の仕事であるという意識を持たせることが重要である。
教育効果を測り、常に見直しを行う
教育には、費用対効果の検証が欠かせない。それは、新入社員教育(研修)でも同様だ。そのため、ポイントとなる段階でアンケート調査を行い、教育効果(学習効果)を測定する必要がある。測定は毎年必ず行い、結果によっては、内容の見直しや外部ベンダーの導入(入れ替え)なども考える。
2)「ゆとり世代」への考え方、対応
良い面も含め、「ゆとり世代」の特徴に合わせた育成の仕方が求められる

「ゼロ成長経済(不況)」「物質的成熟社会」「高度情報社会」といった時代背景の下で育った「ゆとり世代」に対する評価は、「モノへの強い欲求がない」「失敗や不安を極力回避しようとする」「情報の影響を受けやすい」「競争に慣れていない」など、あまり良いイメージではない。
確かに、荒削りで野性的なエネルギーが出ることはないが、一方で、非常に知的だ(賢い)とする評価も多い。なぜなら彼ら・彼女たちは、自分たちよりも古い世代と比べて、比較にならないほど多くの情報に触れているからだ。想像以上に冷静に物事を見ているのが、表面的には分かりにくいため、大人たちが正しく認識できていないのである。そのため、彼ら・彼女たちの良い面も含めた「特徴」に合わせた育成の仕方が、若者を育てる立場にある人には求められる。
- 「物欲・消費欲」が低い~心から欲しいと思うモノが少ない
- 「安全志向」が強い~リスクのある挑戦をしようと思わない(言われていないことはやらない)
- 「情報感度」が高い~情報の影響を受けやすい(情報はあるのが当たり前と思っている)
- 「観察力」が高く、比較するのが好き~感覚よりも、理論的に見極める(合理的な思考をする)
- 「仲間意識」に敏感~周囲の評価を常に気にしている(叱ると、めげやすい)
以下、「ゆとり世代」の特徴を踏まえた対応について、整理してみた。ポイントとなるアプローチは、弱みの改善ではなく強みを活かす、上司・先輩社員が育てられてきたように育てては逆効果である、ということである。
「考え」を引き出す
ミーティングで振り返りを行い、「自分でやらなければいけないこと」と、実際に「自分がやったこと」の差異を確認させ、その原因を同時に考えさせる。その繰り返しの中から、若者たちの考えを知ることができ、彼ら・彼女たちもまた「自分の考えを理解してくれる」と感じ、信頼を置くようになる。
「当事者意識」を持たせる
「当事者意識」を持つことの重要性を、若者に伝えなければならない。そのために、いろいろな機会をとらえて、本人の口から「今、自分のできること」を言わせる。それを繰り返すことにより、当事者意識が育まれる。
「建前」でなく、「本音」で語る
頭の良い若者は、本音を隠して建前を言うと、すぐに見抜く。そうすると心を通わすことなく、表面的な態度・行動を取る。だからこそ、本音を語る必要がある。まず、日ごろ感じていることを、オープンに言うことだ。正直に心の内を語る人に、彼らも共感する。そして、信頼の置ける人として接するようになる。
「答え」を断定せず、問い掛ける
若者を育てる際に、真っ先に教えなければならないのは「ビジネスでは、答えは一つではない」こと。そして、「その答えは、自分で作るものだ」ということ。そのため仕事を教える時も、一通りのやり方を教えるだけで終わらせず、「もっといい方法がないか、考えてみて」と問い掛けるほうがいい。指示する時も、「この仕事をするために、どんなことが大事で、何が必要だと思うか?」と問い掛けることである。このような問い掛けを繰り返しながら、自分なりの答えにたどりつく訓練を行うことが大切である。
「承認」の場を意識して作り出す
若者にとって、認められることは非常に重要だ。「仕事の進み具合いや体調」「良くなっている部分や成長が見られる部分」「アドバイス」など、声をかける場(機会)は日常的にたくさんある。声をかけてくれる人には、若者も親しみと信頼を置くようになる。その上で、若者が発した言葉や態度を、しっかりと受け止めることである。
「新しいこと」を教える
若者に仕事を指示する時、仕事の全体像を教えずに、やり方だけを教えがちになる。しかし、今の若者は情報が豊富にあることに戸惑うことはない。むしろ、情報が少ないことに不安を感じるのである。まだ社会人として不十分だと思っても、どんどんと新しいことを教えることによって、彼らの視野が広がっていく。その上で、できるだけ早く全体像をつかませることを優先していくようにすることだ。
3)先輩社員のOJT指導法
OJTを実施する際の留意点
OJTは、仕事の場を通じてマンツーマン方式で行う教育であり、新入社員の早期戦力化にとって、極めて効果的である。しかし、OJTを実施すれば必ず効果が上がるというものではない。実施する際には、次の点に留意する必要がある。
誰が誰を教えるかを決める
できるだけ新入社員と年が近く、面倒見がよく、話がよく合う者をOJT担当者に選ぶようにする
OJT担当者に「新入社員に何を教えるか」を示す
販売の方法、報告書・伝票の書き方、お客への挨拶・対応の仕方など、できるだけ具体的に指示する。
OJT担当者および新入社員に、OJTの期間を伝える
期間は無理のない範囲で合理的に決める。長過ぎると戦力化が遅れ、会社にとっても人件費負担が重くなる。短過ぎると、双方の負担がきつくなり、会社に対する不信感を発生させることになる。
OJT担当者に、OJTの進捗状況を報告させる
「一日どの程度OJTを行っているか」「新入社員の取り組み姿勢、態度」「仕事の習得状況」などを報告させる。報告の内容によっては、必要な対策を講じる。
OJT担当者の心構えと指導のポイント
先輩社員が新入社員に対してOJT担当者として指導する際、以下の点に留意する必要がある。
仕事を一つずつ教える
新入社員には仕事の経験がない。簡単で単純なものから、一つずつ教えていくことをOJTの基本とする。一日5項目をまとめて教えるより、五日間にわたって1項目ずつ丁寧に教える方が効果がある。
分かりやすく、具体的に教える
仕事とは、一定の理論や理屈を実践することである。しかし、それを知らない新入社員に理論や理屈を並べても、時間の無駄である。それより、仕事をよく知らない最初の段階は、できるだけ分かりやすく、具体的に教えることが必要である。分かりやすい教え方に努力しない者や、具体的な指導ができない者は、OJT担当者としての資質(適性)に問題がある。
能力、意欲に合わせて教える
予め新入社員の能力・資質や熱意・意欲をよくチェックした上で、仕事を教えていくことが望ましい。新入社員の能力や意欲に合わせてOJTを行うことにより、相手との信頼関係が形成され、OJTの実効性が高まる。
責めたり、非難したりしない
OJT担当者からすると、新入社員の仕事の上達ぶりがもどかしく見えることだろう。そこで「何回同じことを言わせるのか」「まだ覚えないのか」と口走ったりするケースを見かけるが、責めたり、悪口を言うのは禁物である。かえって自信をなくしてしまうことになるからだ。自信を喪失すると、OJTの教育効果はさらに悪くなる。OJTは粘り強く、根気よく行わなければならない。
明るくさわやかな態度、口調で接する
OJTはマンツーマンという方法を取るため、教える側の態度によって教育効果が大きく左右される。厳しい態度も時には必要だが、基本的にOJT担当者は、できるだけ新入社員に対して明るくさわやかな態度、口調で接することが大事である。そうすれば新入社員も「仕事を早く覚えよう」という気持ちになり、教育効果もそれだけ高まる。
日頃からコミュニケーションを取る
OJTは仕事の場で日常的に行われるため、双方の人間関係が極めて重要となる。OJT担当者は新入社員との間で人間的な信頼関係を形成するため、気軽に話し掛けたり、相談に乗るなど、日頃のコミュニケーションを密にしておくべきである。ただし、私生活やプライバシーに深く立ち入るようなことは避けなければならない。
OJTの重要さを意識する
OJTは、会社の将来を担う新入社員を育成するために実施するものである。OJT担当者は、自らに課せられた使命の重要性をよく認識し、OJTに積極的・意欲的に取り組む必要がある。辞令を出す側も、その旨をOJT担当者によく説明をした上で、「使命感を持ってOJTに当たること」「OJTを成功させるために全力を尽くすこと」「OJTのゴールのイメージを示すこと」などを伝えるようにする。