新入社員教育(研修)の実務:内製化、外注化

1)新入社員教育(研修)の内製化
最大のメリットは、自社に合った新人教育ができる
近年、自社の状況に適した新入社員教育(研修)を実施するために、自社でプログラムを企画・作成し、社員が講師を務めるケース(研修の内製化)が増えている。このように限られた教育研修予算を最大限に有効活用し、新入社員の成長を促そうとする方向性は正しいものである。
一方で、講師役の社員が日常業務を離れることによる機会損失や、運用コストが発生するおそれもある。それらの見えないコストを考慮に入れて、費用対効果のバランスを勘案しながら、内製化を進めていくことが大切なのは言うまでもない。
新入社員教育(研修)を内製化するに当たってのメリット・デメリットは、以下のように整理できる。
メリット |
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デメリット |
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一番大きなメリットは、自社に合った教育ができることである。教育ベンダーが提供する汎用的な教育プログラムと比べて、自社の新入社員の教育(研修)ニーズに沿った内容にすることができるからだ。また、前年度の反省を生かしたり、受講生の反応を見ながら教える内容を変えるなど、柔軟に対応しやすい。
講師となる社員が成長する点も見逃せない。人に教えることが、一番の学びとなるからだ。講師を任された社員は、教えるために自ら学び直し、また教えることによって深い理解を得ることができる。さらに、研修の内製化を進めることは、組織風土の改革にも結び付く。熱意のある先輩社員が講師を務めることはロールモデルの提示にもなり、新人の成長意欲を高めていく。また、「次は自分が講師となって、後輩を育てよう」という気持ちをかき立て、育成の連鎖を生むことになる。講師を経験した社員が人を育てる喜びに気づき、職場に戻った後も、人材育成の意識を持ち続けることになるのだ。
このように、教育・研修の内製化を進めていくことで、相互に学び、育て合う風土が醸成される。特に新入社員教育(研修)は、多くの人が関係するので、より大きなインパクトをもたらすことができる。
内製化するに当たってのポイント
外部ベンダーを活用する場合と違い、新入社員教育(研修)を内製化する際には、いくつか注意すべき点がある。以下に、そのポイントを整理してみた。
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内製化と外注化の線引きをする
コスト(費用対効果)や時間(手間暇)、社内人材の実情(都合)などを元に、内製化した方がいい部分と、外部に出した方がいい部分を事前に想定し、しっかりと線引きしておく -
柔軟な対応を取る
初めから全てを自社内で企画、運営しようとはせず、外部の教育ベンダーの協力を得たり、著作権フリーのプログラムを活用するなど、柔軟な対応を心がける -
社内のキーパーソンを講師にする
講師は、できるだけ社内のキーパーソンに依頼する。それにより、新入社員が「あの人のようになりたい」などと、ロールモデルを意識するようになる -
社内事例を使う
一般論でなく、社内の事例を扱うことで、新入社員の興味・関心を引くことができる -
講師の公募には一定のステップを踏む
社内講師を公募する場合には、「書類審査」→「面接」→「認定試験」など、一定のステップを踏んだ方が、講師がモチベーションを維持することができる -
講師選出に偏りを持たせない
講師には、新入社員に近い人を意識して招くなど、ベテラン・経験者だけでなく、バラエティーに富むようにする(テーマにふさわしい人を講師にする) -
常にブラッシュアップする
受講者の声・評価をフィードバックし、次回に生かせるよう、内容のブラッシュアップを欠かさない
2)新入社員教育(研修)の外注化
自社にない専門性、専門分野に特化した講師を活用できる

近年、人事・教育関連分野においては、外部ベンダーのサービスを活用(外注化)するケースが目立つ。その分野の専門家に企画立案から運用までトータルに(あるいは一部分を)委託することで、本来の業務(コア業務)に集中することができるからだ。費用対効果の面でも良く、近年、外部ベンダーが質・量ともに充実してきていることも大きいと思われる。
人事・教育関連分野で外注化が進む中でも、代表的なのが新入社員教育(研修)だ。新卒採用を定期的に行っている企業では、人材育成方針の下、これまで新入社員教育(研修)を実施してきた一定の実績がある。その経験値・ノウハウがあるため、他の業務と比べて新入社員教育(研修)を外部ベンダーに委託しやすい。一方、振興ベンチャーなど最近新卒採用をスタートさせた企業は、新入社員教育(研修)に関する経験・ノウハウが蓄積されていないことが多く、どう対応していいのかよく分からないケースが少なくない。そのため、経験と専門性を持った外部ベンダーを活用する方が、効果的である。
外部ベンダーを活用するメリットを整理すると、以下のような点が上げられるだろう。
- 自社の状況(課題)に合った企画を提案、研修を遂行してくれる
- 自社にはない、専門性を活用できる
- 優秀な講師(専門分野に特化した講師)を活用できる
- 外部の施設を活用できる
- 教育(研修)コストを削減できる(固定費を変動化できる)
- 本業(コア業務)に専念できる
- 教育に要する人員を省力化できる(人材不足を解消できる)
まず、何を外注化するのか(何を自社に残すのか)を決める
外部ベンダーを活用する場合、まずは自社の持っている強み(経験値・ノウハウ、体制)と人材(講師候補)を見極めることだ。そして、人材育成を推し進める方向性の中で、何を外注化し、何を自社に残すのかという視点から、新入社員教育(研修)に関する業務を洗い出し、確認・チェックしていく。その際、自社が以下のような状況だったり、問題を抱えているような場合には、外注化を検討する必要があると思われる。
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定型化したノウハウがない
教育(研修)に関する仕事の進め方が確立されていない。経験値がなく、その都度対応するということが多い -
人が足りない
絶対的なマンパワーが不足している -
時間がない
日常業務に追われて、教育(研修)に手が回らない -
人材がいない
教育(研修)に関わる人材が育っていない。人が入れ替わる度に、教育(研修)問題が発生する -
自社では限界を感じる
外部のノウハウを使って、より人材のレベルを向上させたい。人材育成のスピードアップを図りたい
外部ベンダーを決める際のポイント
新入社員教育(研修)に限らないが、優れた外部ベンダーをパートナーとすることが、外注化の重要なポイントになる。いくら自社で外注化する対象業務や具体的な内容をリストアップしても、それに対してきめ細かく対応してくれて、信頼できる外部ベンダーがいなければ、意味をなさないからだ。
また、外部ベンダーを選定する場合、何を外注化するかにもよるが、自社に適したパートナーかどうかを確認することも大事である。以下に、外部ベンダーを決める際にポイントとなる点をまとめてみた。
- 自社の求める人材像、人材育成方針を正しく理解している
- 自社と“協力・協同関係”を築いていこうとする姿勢が強い
- 新入社員教育(研修)に関する高い実績、ノウハウがある
- 講師陣が充実している(専門性が高い、人数が揃っている)
- 担当者の熱意を強く感じる
- 費用が適正範囲にある(あまり安過ぎない、高過ぎない)
- 顧客数が適正である(あまり多過ぎない)
- 機密保持に関する信頼性が高い
- 情報共有化の仕組みができている
- コスト削減に対する対応策を持っている
これらの条件以外にも、積極的に外部ベンダーの情報を収集し、担当者との面談・交渉を重ね、見極めていくことが大切である。