新入社員教育(研修)の実務:教育計画の構成と種類・内容

1)新入社員教育(研修)の構成
ここからは、実際に新入社員教育(研修)をどのように進めていけばいいのか、具体的に見ていくことにする。一般的に、新入社員教育(研修)の全体像は、次のような構成(フレーム)となっている(業種・業態、従業員規模などによって一部異なる。あるいは簡略化されることがある)。以下、各教育の種類について、基本的な考え方と内容について紹介する。
種類 | 担当部門 | |
---|---|---|
入社 | 入社前教育 | 人事・教育部門 |
導入教育 | 人事・教育部門 | |
基礎実務教育(共通部分) | 人事・教育部門 | |
配属 | 現場実習 | ライン部門(現場) |
個別実務教育(職場教育:OJT) | ライン部門(現場) | |
フォローアップ教育 | 人事・教育部門 | |
継続教育計画 | 人事・教育部門 |
入社前教育
入社前教育は、入社前の不安を取り除くとともに、会社生活への期待を強化するために行う。採用難の昨今は、内定者フォロー(内定辞退防止)という目的も大きい。基本的な考え方として、その後の導入教育と関連付けておくこと、内定者にあまり負担をかけ過ぎないことが重要である。採用予定者には、労働契約が成立していないため、参加を義務付けることができないからだ。
内容としては、以下のようなものが一般的である。
- 通信教育(eラーニング)によるもの…業務関連の知識や資格、語学
- 集合させて講習や講義を行うもの…業務関連の知識やマナー研修
- 旅行形式のもの…内外の会社の視察、市場見学
- 課題によるレポートを提出させるもの…読書感想文や製品の感想
導入教育
入社後の導入教育は、入社前教育と同様の内容を、頭ではなく体で覚えることを中心に実施する。職場で働くことを現実としてとらえ、自信を持ってもらうためには、「動機づけ」を図ることが重要だ。全員を対象とするために集合研修が基本となるが、ロールプレイングなどの体験学習を用いるなど、参加意欲を高める工夫が求められる。具体的には、以下のようなプログラム(メニュー)が多い。
- 会社概要(歴史、方針、経営理念など)
- 組織、制度(方針、部門業務)
- 事業、商品、サービス内容(主力商品・サービス、ビジネスモデル、新事業、海外事業など)
- 会社諸規定
- 労使関係
- 健康、安全管理
基礎実務教育(共通部分)
基礎実務教育は、導入教育と同時に実施することが多い。新入社員全員に求められる知識やスキル、ビジネスマナーなどを学ぶために行う。盛り込むべき内容は、以下のような事項である。
-
仕事に関する基本理解
挨拶、言葉遣い、身だしなみなどの基本マナー -
基礎実務のスキル
報連相、メール、ビジネス文書、電話、面談の流れ、プレゼンテーションの流れ、情報活用、ICTツール -
自分の役割
仕事の責任、目標設定 - 職場の人間関係とコミュニケーション
- 自己啓発の進め方
現場実習
現場実習では、担当が人事・教育部門から現場のラインへと移る。新入社員は自社にどのような事業(仕事)があるのかを“実感値”で理解するため、各現場で一定期間、実務を行う。メーカーなどでは、工場で数ヵ月に及ぶ実習を行うこともある。また最近は、喫緊の課題となっているグローバル展開を想定し、海外での現場実習を実施するケースもある。
個別実務教育(職場教育:OJT)

導入研修を終えた後、新入社員は各職場へと配属(仮配属)される。この段階から現場での個別実務教育、いわゆるOJTがスタートする。職場への適応のほか、実務に対する自信を付けさせることが重要である。
忙しい現場ではOJTが無計画になりがちなので、新人の場合は綿密な指導計画を立てて、実施することを心がけなくてはならない。指導計画は、全社共通項目と部門別項目に分けて対応する。また、個人ごとの固有ニーズに基づく指導項目を加え、指導項目を日程表に組み込んで、フォローできるようにしておく。また、指導項目ごとに、実施マニュアルを作っておくといいだろう。新人が安心すると同時に、OJT指導員もそれに基づいて指導手順を考えることができる。
フォローアップ教育
配属されてから一定期間が経った後、フォローアップ教育を行う。人事・教育部門によって行われるのが一般的だ。現場に配属されて、実際に仕事をしてみた上で感じたこと、悩みや課題を俎上(そじょう)に上げ、人事・教育部門との面談や同期の新入社員などとの話し合いを行ったり、フィードバックやアドバイスを受けたりする。そのうえで自分の今後の課題や方向性を明確にし、行動プランを作成して、現場に戻っていく。
継続教育計画
人事・教育部門は、OJTおよびフォローアップ教育の結果を受けて、今後(2年目以降)の教育計画を現場の上司と各新人にフィードバックする。
2)形式
集合研修、自己啓発(e-ラーニング)、OJTが三本柱
新入社員教育(研修)を実施する形式としては、集合研修、自己啓発(e-ラーニング)、OJTが一般的だが、特徴を整理すると、以下のようになる。それぞれの特徴を生かし、三つの形式をうまく回して新入社員に必要な知識・スキル、能力を身に付けさせていくことが重要である。
集合研修 |
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自己啓発 (e-ラーニング) |
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OJT |
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3)求められる能力(社会人基礎力)
基本となる能力がないと、知識・スキルも身に付かない
図表1は、「知識」「スキル」と「能力」および「気質・価値観」の関係性を示したものである。仕事をするには、そのために必要な「知識」「スキル」を身に付ける必要があるが、「能力」はそう簡単には身に付くものではない。基本的に知識やスキルなどは能力の上に成り立つものであり、能力が十分に開発されていないと、後天的に習得可能な知識やスキルも身に付けるのに時間がかかってしまう。能力のベースがしっかりとしていなければ、有用に機能しないのだ。能力は、知識やスキルを有効に使うためのOS(基本ソフト)に相当するものと捉えることができるだろう。そういう意味でも、新入社員の頃から能力を伸ばすための教育・研修を行うことは、とても重要である。
近年、さまざまな研究機関などがビジネス現場で求められる「能力」について発表しているが、特に経済産業省が発表している「社会人基礎力」は、新入社員にとって早期に習得が望まれる能力要素と言えるだろう(図表2)。
4)教育効果を高める方法・アプローチ
参加意欲を高めるための工夫
効果的な教育を行うには、教育内容を随時見直していかなければならない、近年行われている中で代表的な方法・アプローチには、以下のようなものがある。
- 研修全体に参加型意識を高め、自主性を尊重するカリキュラムとする
- 導入研修の内容を、理論的なものから実践的なものとする
- 導入研修で、講義中心から実習、体験学習をベースとしたプログラムに変更する
- 導入研修とフォロー研修の集合研修を、一貫して実施する体制とする
- OJT教育の期間を延長する
- 先輩やトレーナーとの討議による相互理解を増やす
- 脱落者を出さないよう、フォロー面談の頻度、回数を増やす
- 個別に指導する体制を設ける
5)早期からの「キャリアデザイン」(自律型人材育成に向けて)
新入社員の頃から、意識して取り組ませる

近年、自律型人材の育成に向けて、キャリアデザインを描くことの重要性が叫ばれている。言われたことをそのまま実行するだけの受動的な働き方ではなく、一人ひとりが「自分らしく働きたい」「変革にチャレンジしたい」「自らの成長を実感したい」という意志を持ち、「キャリアデザイン」を主体的に描くことが、会社と個人の持続的な成長を実現させていくからだ。新入社員の頃から、意識して取り組ませることが大切である。
人間は自分にとって価値があると思うことを実践・体感することにより、生きがいを感じ、自己実現・充実感を覚える。そしてさらに努力し、成長していこうとする。そのため、キャリアの「節目」には立ち止まり、これまでのキャリアや出来事を振り返り、担当している業務を見つめ直し、将来をデザインする必要がある。このようなアプローチを新入社員の頃から意識することで、自らのキャリアを自らの手で作り出すことのできる、自律型人材が育っていくのである。