近年の新入社員教育(研修)の傾向と課題

1)新入社員気質、経営環境の変化に対応した新入社員教育(研修)
教育を通して会社そのものを見るために全社的なコンセンサスを図り、担当者に徹底させる

経営を取り巻く環境の変化は、企業にとって必要な人材像を変貌させている。また、社会環境の変化とともに、若者の価値観やライフスタイルも変化する。そのような状況下、新入社員教育(研修)の方向性も変化を余儀なくされている。今まさに、新たな時代に対応した教育・研修のあり方が求められているのだ。
実際に、若者気質の変化に対応した新たな内容を盛り込むなど、教材やプログラムを工夫する企業が多く見られる。例えば、従来型の座学中心の研修スタイルから、グループ学習、ゲーム的要素を取り入れた参加型・自発的な学習へと移行するケースが増えている。また、教育担当者として、新入社員と親和性の高い若手社員を登用し、新人と会社の距離を縮めようと努力する企業も目立つ。なぜなら、新入社員にとって入社当初の教育内容は、その後の会社との距離を決定する重要な要素になるからだ。それがうまくできなければ、入社前のイメージが教育期間中に崩れてしまい、退職につながるケースも十分にあり得る。逆に教育内容が充実していれば、ソフトランディングがスムーズに運び、定着率が高まることになる。
ただし、これは教育内容や方法論だけで決まることではない。その背景にある会社の理念やビジョンが大きな影響を与えることを、忘れてはならない。新入社員の場合、入社当初は教育を通して会社そのものを見ることが多い。教育内容から「この程度の会社なのか」「これなら、社員はあまり大したことはないな」などと判断するか、「ここまでしてくれる会社なのか」「こんなにすごい人がいるのか」と思うようになるかでは、その後のモチベーションが大きく違ってくる。
実際、同じようなカリキュラムの教育を受けても、どのようなシチュエーションにあるかで、受け止め方が異なることは少なくない。本人の意識の問題と同時に、会社の姿勢、直接的には教育担当者それぞれの熱意・情熱が、違いへとつながる可能性があるからだ。そういう意味でも、教育に対する全社的なコンセンサスを確立し、直接指導に当たる担当者には、その意味や意義を徹底して理解してもらう必要がある。
教育体系の中における新入社員教育(研修)をどう位置付けるか
自社の教育体系の中で、新入社員教育(研修)をどのように位置付けるのかは、重要課題の一つだ。そのためには、単に若者の変化に対応するだけでなく、企業サイドのニーズも十分に考慮し、自社の次代を担うにふさわしい人材像を確立するためにどのような教育が求められるのか、改めて整理する必要があるだろう。
現代は、終身雇用を保証できる時代ではなくなっている。それなのに従来型の“会社人間(組織依存)”タイプの人材を育てていては、長期的に企業の活力を損なうことになる。社員も、会社頼みの自律できない人材となってしまう。もちろん、愛社精神があり、高い労働意欲を持ち、能力の高い人材を育成する必要があることは昔も今も変わらない。重要なのは、自分自身の成長と会社の成長をリンクさせて考えることのできる人材、人と組織をWin-Winの関係に置き換えて対応できる人材の育成であり、それが今、新入社員教育の段階から求められているのだ。近年、「キャリアデザイン研修」を新入社員の段階からプログラムに設ける企業が増えているのも、このような流れを受けているからだ。
2)まず、新入社員教育(研修)のサイクルを確立する
採用活動から配属後のフォローまで、一貫した体制作りが急務に
人材不足が深刻化し、新卒の採用難が続く中、選考段階で人材を十分に吟味できていない企業は多い。また、入社後に十分な教育を行わないまま、すぐに戦力として新入社員を現場に投入するケースもある。このように対応されると、新人は入社前に描いていたイメージとのギャップを感じるようになり、「こんなはずではなかった」と困惑することもある。会社への信頼感も薄れてくるだろう。転職することへの抵抗感が少なくなっている現在、ミスマッチが明らかになれば、新入社員があっさりと転職してしまうことも十分あり得る。何より今の若者の多くは、自分と会社の関係を極めてドライに捉えていて、転職は当たり前という意識が定着している。

このような状況を受けて、どんな新入社員教育(研修)を実施すれば、定着率は向上するのか。個別の各種施策はもちろん大切だが、最も重要なことは内定フォローから入社後の配属まで、一貫した体制で新入社員の教育を捉えていく視点ではないだろうか。
例えば、採用ホームページで謳っている内容や面接時の説明と、入社後の対応が違っていれば、新人は会社に対して不信感を抱くことになる。採用プロセスの各段階においても同様だ。最近は採用難の中で採用予定数を確保することに傾注するあまり、その後のフォロー、入社後の対応が不十分であるケースが見られる。まずは、こういった状況を改善する必要がある。
そのためには、人事部内の各担当業務(採用/教育・研修/人事)を明確化し、各担当業務間の有効な情報伝達・共有と連携体制を確立するなど、一貫した方針で新人に対応する必要があるだろう。こうしたシステムがなければ、採用体制だけをいくら充実させても、入社後の定着は実現できない。また、教育体制がいくら充実しても、その前段階のフォローが十分でなければ、教育成果を上げることは難しい。