求められる役割が多様化、複雑化している近年の管理職であるが、大切なのは自社の管理職に対して具体的に何を求め、何を目的とした研修を行うのかを明確にし、プログラムを企画することである。以下、目的を絞り込んだ管理職研修のケースを紹介する。
「新任管理職研修」は、新しく管理職に就いた社員を対象に行う研修である。管理職になると、「労働基準法」が適用されなくなり、一般社員から管理職へ(プレーヤーからマネジャーへ)と身分・立場が変更となり、求められる役割・能力が大きく異なってくる。そこで、A社(電機メーカー)では、新しく管理職に就いた社員に対して、就任する際に管理職としての心構え、役割を理解させ、管理職としての基本スキルを学んでもらうことを主目的に「新任管理職研修」を実施している。
管理職の役割は、部下の力を引き出していくことで組織力を高め、組織として高い成果を出すことにある。このような管理職への意識改革を行うと同時に、A社では「部下を育成することが大きな任務」であることを自覚してもらうことを重要視し、新任管理職研修を実施している。
「どのようにすれば部下が育っていくのか、組織をどのようにマネジメントしていけばいいのかなどについて、新任管理職研修では徹底して伝えていくことを目的として、自らが体感できるプログラムを組んでいきました」(人材開発部担当者)
具体的にA社が実施したプログラムは、以下の通りである。一見して分かるのは、「講義」よりも「グループワーク」「ロールプレイング」「実習」など、身体を動かし、皆で議論していくアプローチを採用したことである。
「新任管理職としての心構えや役割を理解し、管理職としての基本スキルを学ぶには、理論も大切ですが、そのことが “腹落ち”できるかどうかが重要です。単に話を聞くだけではなく、自分で考え、他の人と意見を交わし、フィードバックを受け、また自分なりに考える。そうした能動的なワークをできるだけ多く取り入れました」(人材開発部担当者)
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研修前と後とでは、受講者の“腹落ち”度合いが大きく異なっているようだ。事実、研修終了後のアンケートには、受講者から以下のようなコメントがあった。A社のように、意識づけを中心に置いた「新任管理職研修」では、皆で話し合う機会を持ち、それを受けて自分で考えるための “仕掛け”を用意することが、とても大切である。
管理職に求められる重要な役割として、職場における成果向上がある。その実現のために必要不可欠なのが、経営課題・方針から導き出された「職場のビジョン作り」と具体的な「目標設定」である。近年、このテーマを管理職研修の中心に置く企業が増えているが、全国に多店舗展開を行っているB社(サービス業)でも管理職を一堂に集め、グループワークやディスカッションを中心とした「職場のビジョン作り」と「目標設定」を行い、成果向上を図っている。
全国に数多くの異業態の店舗を有しているB社だが、地域や店舗(業態)間によるマネジメントのレベル(考え方)が統一できないという問題を抱えていた。当然のことながら、シナジー効果などは望むことはできず、グループ全体としての成果向上が図られていないのが実状だった。そこで、全国の店長クラス(課長職相当)を一堂に集め、経営課題・方針から導き出された「職場のビジョン作り」と「目標設定」を行うための「管理職研修」を実施することになった。
研修では、B社のグループ全体として抱える経営課題について、トップマネジメントからの状況説明があった。そのうえで、各地域、各業態でどのような戦略を取っていくべきか、現場の責任者である店長自らが考えて欲しいというミッションが与えられた。地域・業態を織り交ぜてグループ分けを行い、外部のファシリテーターの指導の下、以下のような流れで経営課題・方針から導き出された職場のビジョン策定に取り組んだ。
【職場のビジョン作りの流れ】
1.経営課題・方針の下、店舗・職場を取り巻く内外の状況(問題点)を分析する
↓
2.中期的な見通しに立って、達成を目指す重点課題を設定する
↓
3.その実現に向けた方策を検討する
最初のテーマである「経営課題・方針の下、店舗・職場を取り巻く内外の状況(問題点)を分析する」では、まず外部状況として、「顧客のニーズの変化」「競合の動向」「トップの経営方針」「関連する他部門からの要請」などに関して、事例または所属する店舗・職場を対象に、さまざまな角度から検討した。一方、内部状況では、店舗・職場における人・モノ・金・情報などの経営資源の強み・弱みの分析を行った。現状を多面的に検討し、どこに経営資源を集中し、高い成果を上げることができるのかを決定することが、現場をマネジメントする管理職にとって非常に重要な課題であるからだ。さらに、内外の状況分析に加えて、職場の使命(役割)を検討していった。
「内外の状況を踏まえた上で重点課題を設定し、その実現に向けた方策として、『全メンバーが順守すべき規範・行動指針・価値基準』『職場における分業と権限の体系』『メンバーが今後開発すべき能力やノウハウ』『重点課題解決のために管理者が行うメンバーへの直接的働きかけ』などを、参加者同士のディスカッションを通じて検討していきました」(人事部責任者)
職場のビジョンを作った後は、それをいかに個人の具体的な目標へと置き換えていくかを考えなければならない。ここでは、成果の向上に直結する「目標による管理」の考え方を理解させ、目標設定方法を習得させることを主目的に置いた。管理者は自らの目標設定も大切だが、より重要なのは部下の目標管理に積極的に関与していくことだからである。
「そのためにも、職場の成果に結び付く目標設定を達成するにはどのようなことが必要か、意欲の向上につながる目標設定はどのようにすればいいのかなど、職場の重点課題を具体化していきました。部下の目標として、できるだけ具体的に展開していくような内容を研修では扱っています」(人事部責任者)
このような取り組みを行うことによって、成果向上に向けたより具体的で、効果的な目標管理が日常的に回せるようになっていくというわけだ。
【目標設定に向けての流れ】
1.職場の重点課題と目標の設定
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2.部下へのブレークダウン
↓
3.部下の意欲を喚起する面談のあり方
↓
4.目標達成過程における進捗管理と支援方法
その他、目的を明確にしたことで話題になった管理職研修を、以下にまとめる。
管理職には、現場で日々発生する問題の解決が求められる。職場の活性化とは、そのような職場の集団面へとアプローチし、職場のプロセスや風土の問題を解決していくことである。「職場の活性化研修」では、職場内に存在する目に見えにくい問題を発見し、その解決を図ることによって、活力ある職場を実現し、職場の機能面と共同体的側面の両方を健全にしていくことに狙いを置く。
実際のプログラムは、「問題の発見と共有化」からスタートする。ここで、職場のあるべき姿を明らかにし、現場の状況を把握し、そのギャップである問題を把握する。その上で、「問題の明確化」を行う。原因を究明するとともに障害を予測し、問題のポイントを明確化する。そして、解決の対象とすべき課題や原因を選定する。その次が、「問題の解決策作り」だ。選定した課題(原因)解決のためのアイデアを考え、それらをもとに解決策を立案する。そして最後が、「問題解決策の準備・実施・評価」。問題解決策をスケジュール化し、実施に移っていく。一定期間後、結果を評価する。このプロセスを繰り返すことによって、活性化した職場を実現していくのである。
管理職にとって、自分の職場の現状は見えにくいので、研修では事前にメンバーからアンケート形式で取った職場診断などを使用することが多い。その職場診断の結果を見て、職場の状況を把握したり、管理職としての自らのマネジメント行動を振り返ったりすることで、問題解決の方法を探っていく。
管理職は、部下を通じて職場の成果を向上させる役割を担う。部下とのコミュニケーションを促進することは、部下の目標達成行動を促すとともに、部下の指導・育成にも必要不可欠な行動である。また、部下を意欲的にするための動機づけにも、コミュニケーションの促進は欠かせない。昨今、部下に対するコミュニケーションの手段・アプローチが少ないと言われている管理職に対して、コミュニケーションの持つ重要性、効果・効用を体感させる内容で行うケースが多くなっている。
コミュニケーション研修の大きな特徴は、部下が自らの意志で自発的に考え、行動を起こす「内発的動機づけ」を大きな狙いとしていることである。コミュニケーションそれ自体は、管理職になる前から行ってきたものだが、研修の中で「内発的動機づけ」の本質と意味、効果・効用を知り、繰り返し学習することにより、日頃、部下に対するコミュニケーションを雑に行ってきたことを反省。あらためて、基本行動を確認することになる。
また、コミュニケーション研修では、「積極的傾聴」を中心に進めることが多く、話を聴くための具体的なスキルを学ぶ。さらに、「状況説明」や「発問」などのコミュニケーションスキルを学び、実際に活用していくことにより、部下の内発的動機づけの状態に近づけていくことを目指す
管理職となって一定期間が過ぎると、どうしても自分の「強み・弱み」が見えていない管理職が出てくる。周囲や部下の意見を聞かず、独善に陥っているケースが少なくないのだ。こうした事態をなくすために、管理職としての節目節目に「アセスメント受診」を義務付け、行動転換の手掛かりを与えることを目的とした研修を行う企業が増えている。
アセスメントは外部機関を活用するケースがほとんどで、管理職に自らのマネジメント特性や強み・弱みを気付かせ、行動転換を促す。時期としては、就任5年目あたりで行うケースが多い。また、アセスメントに多く使われるのは「360度評価」。対象者の上司、同僚、部下、本人の自己認知により行う。多面的な評価を通じて、客観的に自己を振り返ることで、今後の行動改善や部下育成の一助となる。
しかし、単にアセスメント受診だけでは「気づき」にとどまることが少なくない。強く行動転換を促すためには、さらなる仕掛けを用意する必要がある。具体的には、アセスメントを行っての「強み・弱みの自己評価」に加えて、「グループメンバーとの気づき合いの場」→「強みを伸ばし、弱みを克服するための行動計画の立案」→「それらを受けてのマネジメント活動の見直し」といったレベルまで落とし込むことが必要である。さらに、研修後には「計画書を基にした上司との対話」を行うことによって、行動転換がより促されることになる。
管理職に対する研修ニーズが高まっている一方で、管理職の多くがプレイングマネジャーであり、研修・育成の時間が持てないという矛盾した問題を抱えている。ここでは「あるべき姿」と「現状」のギャップを埋める管理職育成の取り組みを紹介する。
求められる役割が多様化、複雑化している近年の管理職であるが、大切なのは自社の管理職に対して具体的に何を求め、何を目的とした研修を行うのかを明確にし、プログラムを企画することである。以下、目的を絞り込んだ管理職研修のケースを紹介する。
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