8. 人事システム導入にあたっての注意点

プロジェクト開始から稼働まで
一般的には半年から一年
製品の選定が終了し、パッケージの導入が決まってからでも、実際に人事システムが稼働するまでには、半年から1年程度かかるのが普通だ。カスタマイズやアドオン開発がきわめて少ない場合でも最短で約3ヵ月となる。その後、人事・給与システムの場合は、1年間の業務をワンサイクル回してみてはじめてシステムが安定する。また、タレントマネジメントシステムの人材検索や組織分析、シミュレーションといった機能が本来の性能を発揮するには、過去の人事データ(従業員一人ひとりの業務経歴、研修履歴、各種テストの結果など)が十分にそろっていることが大前提となる。大規模な企業になるとこのデータベースを整備する入力業務だけで数年かかる場合もあるという。人事システムの導入は中期的・長期的視点で計画的に取り組まなくてはならない。
タレントマネジメントシステム導入は
「投資」という発想で

人事・給与システムの場合は、業務効率化・コスト削減の効果がわかりやすいが、企業価値を向上させるタレントマネジメントシステムの場合は、仮に企業業績が伸びたとしても、果たしてそれがタレントマネジメントシステム導入の効果によるものなのかどうかを見極めにくいという性質がある。
効果が見えにくいとどうしても予算を抑えがちになってしまう。しかし、ここでも重要なのは「目的をはっきりさせる」ことだ。解決したい課題があるのに、予算を抑えて不十分な機能のシステムを導入したのでは何の意味もない。投資すると決めた以上は、課題を必ず解決できるシステムを導入すべきだし、導入後の活用にも力を入れていくべきだろう。
仮にシステム投資に1000万円かかったとしても、これは中堅レベルの人材一人を1年間雇用した場合の総経費とさほど変わらない。どちらを取るかはまさに経営判断だが、タレントマネジメントシステムの導入も人材開発などと同様に投資という観点から計画していくべきものだといえる。
カスタマイズやアドオン開発は
将来のことも考えて行う
企業の人事制度は各社によって異なるので、パッケージソフトであってもカスタマイズは多くの場合発生する。しかし、カスタマイズは導入時にだけ行えばよいというものではないことが意外に見落とされている。
人事システムの特性として、制度改定や法改正のたびにシステムを変更する必要がある。また、パッケージソフト自体も定期的にバージョンアップされていくので、そのたびにカスタマイズした部分や後でつけ加えたアドオンとのすり合わせを行わなくてはならない。大きなシステムになると、どこを修正すればいいかを確認するだけで数ヵ月かかるような例もあるという。こうした手間や費用を考えると、カスタマイズやアドオン開発で対応するよりも、その必要がないより上級のシステムを最初から導入しておいた方が、結果的にコスト面でメリットがあったというケースもあるようだ。
これに似た事例としては、操作・入力などをすべてブラウザ上で行うシステムの問題がある。ブラウザは基本的に無償で配布されているので初期費用は安くすむが、不定期にバージョンアップされるのだ。場合によっては古いバージョンでしか使えないといった問題が発生する。古いブラウザには重大なセキュリティホールが残されていることが多いので、個人情報を扱う人事システムにとってはきわめて危険である。
「人事」と「システム」の
両方がわかる人がいるのが理想

ここまで述べてきたように人事システム、とりわけタレントマネジメントシステムのような戦略人事システムは「人事+経営」の観点から判断していく部分が重要になってくる。同時に使いやすい機能やユーザーインターフェース、サーバーや通信回線といったインフラの問題などのように、「情報システム」の知識がないと適切に対応できないことも多い。特に、データベースの設計は、専門家以外には理解が難しいにもかかわらず、人事システムの性能や使い勝手を大きく左右してしまう要素を含んでいる。
できれば人事とシステムの両方をわかる人材が社内に(できれば人事部内に)欲しいところだが、実際には難しいことが多いかもしれない。そういった場合には、信頼できる外部のコンサルタントなどと相談しながらプロジェクトを進めていくと良いだろう。