7. 人事システムの選び方

まずは導入の目的を明確化すること

どのような製品、サービスでも導入の目的がはっきりしていないと、その導入後に期待した課題解決効果を得られない結果になってしまう。そこで、まずは自社の現状認識と解決すべき課題の明確化を十分に行いたい。
当然のことだが、課題を明確化する際には、「全社レベル」で意思統一ができていることが重要だ。特にタレントマネジメントシステムは、主に人事部門が使う人事・給与システムとは異なり、現場マネジャーや経営陣、従業員なども利用するシステムである。各レベルからヒアリングを行い、業務フローの中に無理なく組み込めるシステムにしていかないと、せっかく導入したのに活用されないという、残念な結果になることもあると十分に意識しておきたい。
企業規模によって適切なパッケージはある程度決まる
人事システム、特に人事・給与システムに関しては、多数のベンダーがパッケージソフトをリリースしており、ユーザー企業の規模や成長ステージにあわせて、それぞれ最適の機能を盛り込んで提供している。大規模な企業がコストだけを考えて簡易なパッケージを導入すれば機能不足に陥るのは当然であり、逆に小企業が多彩な機能があるからといって大型システムを導入しても結局は使わずに終わり、無駄な投資になってしまう。つまり、まずは企業の身の丈にあったパッケージを比較検討していけば、機能的にも予算的にもある程度は絞り込めるといえるだろう。
ただし、現在急成長している企業や、人事制度・雇用形態などが企業規模のわりに複雑な業界・業態の場合は、ワンランク、ツーランク上のパッケージを選んでおいた方がよい場合もある。人事システム、特に核となる人材管理データベースは、そう頻繁に更新できるものではない。今後タレントマネジメントシステムなどもあわせて活用していきたいという構想があるなら、なおさら余裕を持って製品を選定していくべきだろう。
ちなみに、タレントマネジメントシステムなど戦略人事システムに関しては、パッケージでリリースされている製品の種類は、人事・給与システムほど多くない。そのため企業規模で選ぶというよりは、何がしたいのかという目的重視で選定を進めるのがよいだろう。
対象企業 | 商品名 | 企業名 |
大手向け | POSITIVE | 株式会社電通国際情報サービス |
---|---|---|
COMPANY | 株式会社ワークスアプリケーションズ | |
SAP ERP HCM | SAP | |
GLOVIA | 富士通株式会社 | |
E-Business Suite | オラクル | |
ADPS人事統合システム | カシオヒューマンシステムズ株式会社 | |
Generalist | 東芝情報システム・東芝ソリューション | |
中企業向け | POSITIVE on CLOUDiS | 株式会社電通国際情報サービス |
STAFFBRAIN | 株式会社電通国際情報サービス | |
ZeeM | 株式会社クレオマーケティング | |
GLOVIA smart | 富士通株式会社 | |
人事奉行 | 株式会社オービックビジネスコンサルタント | |
SMILEシリーズ | 株式会社OSK(大塚商会) | |
Galileopt NX-Ⅰ | 株式会社ミロク情報サービス | |
ALIVEシリーズ | 株式会社三菱電機ビジネスシステム | |
小企業向け | 奉行シリーズ | 株式会社オービックビジネスコンサルタント |
SMILEシリーズ | 株式会社OSK(大塚商会) | |
PCAシリーズ | ピー・シー・エー株式会社 | |
給与大将 | 株式会社ミロク情報サービス | |
大臣シリーズ | 応研株式会社 | |
タレントマネジメント システム |
SuccessFactors Business Execution スイート | サクセスファクターズジャパン株式会社 |
Rosic | インフォテクノスコンサルティング株式会社 | |
Cornerstone OnDemand | 株式会社イー・コミュニケーションズ | |
SmartCompany | 株式会社サイエンティア | |
iTICE | カシオヒューマンシステムズ株式会社 | |
SilkRoad® Life Suite | 株式会社シルクロード テクノロジー | |
カオナビ | 株式会社ジャパンオペレーションラボ |
「できる」の向こう側にある意味を読み取る
ITの導入を計画していると、ベンダーの営業やコンサルタントから「RFP」による比較検討を提案されるのが一般的だ。RFP(Request For Proposal)は、発注企業が必要な機能要件などをまとめた一種の仕様書で、パッケージベンダーは求められた機能の一つひとつについて、自社製品が対応しているかどうかを回答する。同じRFPで複数の製品を比べれば、何ができて何ができないかが一目瞭然になるので、非常にわかりやすいといえる。

しかし、注意しなくてはならないのは、RFPでベンダーが「できる」と回答した項目の中には、「条件つきならできる」「似たようなことならできる」というケースが含まれていることも多いということだ。パッケージソフトは、過去の膨大な業務フローを分析して、「これがベストである」というやり方をそれぞれシステム化している。そのためベンダー各社は自分たちの製品に自信を持っていて、似たようなことならパッケージの業務フローにあわせた方が効率的だと考えていることが多い。いざ導入してみたら、ユーザー側が思っていたことができないというケースもあるようだ。RFPで「できる」と書いていても、自社のやり方を絶対に変えられない部分は、もう一歩踏み込んで確認することが必要だろう。
また、RFPを作るうえで注意したいのは、「あったらいいな」という項目を増やしすぎないことだ。本来の「絶対に必要な機能」を比較検討するという意味が揺らぐようなことがあっては本末転倒となる。
必ず触れて確かめたい使いやすさ(ユーザビリティー)
使いやすさの重要性は、タレントマネジメントシステムではより大きくなる。それは、利用するのが人事だけではなく、現場マネジャーや経営陣、従業員などと非常に幅広くなるからだ。また、給与計算のように「必ずやらなくてはならない」定型業務を処理するものではないので、少しでも使い勝手が悪かったり、反応に時間がかかったりすると、すぐに別の方法をとられてしまい、せっかくのITを活用した「気づき」が得られない結果に終わることにもなりかねない。従って、導入に際しては実際に自分たちで操作してみるプロセスを欠かすことはできない。ベンダーが行う体験会などの機会を利用して、ユーザビリティーも確かめたいものである。
製品と同じくらい重視したい人的サービス体制
パッケージソフトといっても人事システムのようは大きなものになると、カスタマイズなしでそのまま導入できることは基本的にありえない。また、タレントマネジメントシステムなど企業戦略に大きく関わるシステムの場合は、企業ごとの独自性や他社との差異化こそが重要になるため、データの項目やパラメーターの設定によって、当初予定していた導入効果を得られるかどうかが決まってくるといっても過言ではないだろう。
そこで重視しなくてはならないのが、自社の要望をシステムに反映してくれるベンダーのスタッフだ。営業担当、導入コンサルタント、カスタマイズやアドオン開発を行うSIerのエンジニア、導入後の教育やサポートを担当するインストラクターやカスタマサービスなどである。製品自体が優れていることも重要だが、こうしたサービスを担当する人材がしっかり要望を理解し、導入・運用に当たってくれるかどうかも十分に見きわめたいところである。
ブランド名に頼らないことの重要性

目的を明確化し、各製品の機能を比較検討した結果として、有名ベンダーに決定するのは何の問題もないだろう。しかし、「よくわからないから名前が知られていて実績も豊富なベンダーに任せよう」という決定の仕方をしてしまうと、後々大きな問題が発生してしまう危険性がある。また、他社でうまくいっている事例があるというのも、参考にはなるが、各社の課題や状況がまったく同じではないことを考えると、あくまでも参考程度にとどめておくべきである。
似たような「間違った選び方」としては、まず機能ありきで製品を選んでしまうことだろう。「とにかくタレントマネジメントシステムを導入する」という前提でプロジェクトを進めるのではなく、まずは自社にタレントマネジメントシステムが必要かどうか、どう活用するのかを考えることから始めるべきだ。また、近年では「クラウドを使う」という前提でシステム変更を行うケースもあるが、人事システムに本当にクラウドが欠かせないのかどうかを一度考えてみるのも重要ではないだろうか。