6. 人事システム導入のメリット

「効率化・コスト削減」から「企業力向上」へ
2010年代の現在、人事・給与システムをまったく導入していない企業はないといっていい。ITを活用することで、給与計算のような定型業務を正確化・効率化し、コスト削減を行うのはもはや当然のことになっているからだ。
つまり、今改めて人事システム導入のメリットを考えることは、その人事システムが企業戦略の中でどういうメリットを生むのかを検討することだといえる。効率化・コスト削減というIT化のメリットを大前提として、さらに、人事システムには企業力を向上させるためにどのような力があるのかをまとめてみたい。
マンパワーを最大限に活用するための人事システム

企業の持つ資産としての人材は、適正に配置され、また組織化されることによって、その潜在力を100%発揮することができる。しかし、こうした配置(異動・昇進・昇格)や組織・プロジェクトの編成・管理などは従来、非常に属人的な作業によって行われてきた。これでは厳しい企業間競争、グローバル競争を勝ち抜くことはできない。
タレントマネジメントシステムなど戦略人事システムは、属人的作業であった人事を、ITを活用することでより高品質化するツールだと考えられる。人材がもっとも適正な形で配置され、そのポテンシャルをフルに発揮すれば、組織としてのパフォーマンスも向上し、企業業績・企業価値もアップさせることができる。
計画的・継続的な人材育成を可能にする人事システム
企業にとって人材の能力をフルに発揮させることは重要であるが、同時に能力(経験値やスキル)そのものを伸ばしていく努力が欠かせない。特に、管理職クラス、さらには経営層(後継者)を育てていくためには、行き当たりばったりではない、計画的な人材育成に継続的に取り組む必要がある。これは、単に業務経歴や研修履歴を記録していくだけで実現できるものではなく、そのデータをもとに常に目標と次に何をするのか(させるのか)を意識したアクションが求められる。タレントマネジメントシステムには、業務経歴や研修履歴をもとに、設定されたキャリアモデルとの比較を行い、何が足りないのか、どこまで到達できているのなどを可視化する機能があり、カンや印象だけに頼らない合理的な人材開発が可能となる。
従業員のモチベーションアップツールとしての人事システム
これまでも勤怠管理システムのように、従業員自身がデータ入力を行う人事システムは存在したが、タレントマネジメントシステムを導入すると、業務経歴・研修履歴などについても、従業員が入力する機会が増えることになる。従業員にとっては、業務の負担が増える訳だが、同時に人事システムを育成支援システム、学習支援システムとして活用するきっかけにもなり得る。従業員一人ひとりが自分の目標を意識し、そこに至るためには何が必要で、今何が足りていないのかなどを、システムを通して日々認識し、より高い参加意識を持つように工夫することができるからだ。つまり、タレントマネジメントシステム導入によって、従業員のモチベーションアップというメリットも得ることができるのだ。
従業員数(企業規模)に関わらず効果を発揮する人事システム

タレントマネジメントシステムは、従業員の顔が覚えられないような大企業が利用するシステムだという考え方もあるかもしれない。もちろん、大企業になればなるほど、人事システムの導入は有効である。しかし、企業がしっかりとした戦略にもとづいて活動していくのであれば、これまでに述べたタレントマネジメントシステムのメリットは企業規模に関わらず享受できる。一般的には日本国内企業の場合でも従業員数300名前後からは投資効果があるとされているが、実際には100名以下の企業規模でもタレントマネジメントシステムを導入している例があるようだ。逆に大企業でも、導入したものの十分に活用されていない事例もある。目的と活用のバランスがとれているかどうかで、投資効果が決まってくるといえるだろう。