4. 人事システムの主な機能

タレントマネジメントシステムに必須の機能とは
同じ人事システムではあるが、タレントマネジメントシステムには人事・給与システムとは異なる機能的な特性が求められる。人事・給与システムの場合、利用するのは基本的に人事部の担当者であり、処理する業務も定型業務がほとんどなので、最優先で求められるのは確実性と効率性だといえる。しかし、タレントマネジメントシステムの場合は、利用者は人事以外にも現場の管理職、経営者など幅広く、またその利用目的も企業戦略の立案や実行など非定型の業務がほとんどだ。タレントマネジメントシステムに求められる機能的特性をまとめると、以下のようになるだろう。
- 使う人の「思考を止めない」「思考を発展させる」
- 使う人に「気づきを与える」「行動を促す」
- 使う人が「予測できる」「予実差を知り目標達成を実現できる」
具体的にいえば、「思考を止めない」「思考を発展させる」とは、欲しいデータをすぐにとれるシステムでなくてはならないということだ。現場の管理職や経営者は非常に多忙なので、求めるデータに到達するまでに手間がかかるシステムでは、利用されなくなってしまうからだ。

「気づきを与える」「行動を促す」とは、データを理解しやすい形に加工し、可視化する機能が必要だということである。数字が並んでいるだけの資料よりも、グラフやチャートで表示されているほうが比較・検討しやすいのはいうまでもない。グラフ化、チャート化が自動にできること、形や色などでわかりやすく表示されることがシステムの優秀さに直結するといえる。
「予測できる」「予実差を知ることができる」というのは、シミュレーションの機能を持つということだ。「こうしたらいいのではないか」という対策を思いついたとしても、実際にどう機能するのかをすぐに検証できなくては、スピード感のある判断は下せない。スピードがますます重要になりつつある現代の経営をサポートするシステムとしては、不可欠の機能といえるだろう。
人事システムの基本的な構成
戦略人事システムであるタレントマネジメントシステム、人材マネジメントシステムも、人材や組織に関するデータについては、人事・給与システムと共有していることが多い。データの効率的な整備・運用を考えるならば、できるだけ共通のデータとして一元管理すべきであり、複雑になる多重管理は避けた方がよいだろう。ここでは人事・給与システムも含めた人事システムの基本的な構成の一例を示してみよう。
人事・給与システム
1)人事管理・給与計算
- 人材・組織管理
- 人材評価・育成
- 給与・賞与
- 各種法定・厚生
- 発令・人材配置
- 退職金
人事システムの中心となる、従業員一人ひとりと組織に関する詳細なデータベースが中心となる。勤怠データと連動して給与や賞与の計算、退職金の計算を行う機能も持つ。ほとんどの企業が何らかの形でこういったシステムを運用しているはずである(給与計算自体はアウトソーシングしている企業でも、人材・組織のデータベースは持っているはず)
2)申請・ワークフロー
- 各種届出申請
- 人事・給与詳細照会
- 人事考課
各種申請は、給与計算を行う際に欠かせないものであり、これをペーパーレス化したシステムを導入している企業は多い。また、近年では給与明細を印刷して手渡すのではなく、ネットで照会してもらうことで、経費削減と従業員の利便性向上を図る例も増えつつある。人事考課は、現場の管理職が考課をオンライン上で行えるシステムである。
3)勤怠
- 勤怠管理
- 労務・36協定管理
従業員の勤務状況(出勤・退勤・時間外・休日勤務など)を管理するシステム。給与計算と連動するほか、タレントマネジメントシステムの組織分析やプロジェクト管理などの元データにもなるシステムである。
4)教育・研修管理
- 研修管理
- スキル・キャリア管理
- eラーニング
どちらかといえば人事・給与システムというよりも、戦略人事システムに近いシステムだが、タレントマネジメントシステムなどを導入していない企業でも、教育・研修管理システムだけは導入している例は多い。ここでは人事管理・給与計算システムとは別のものとして捉えたが、データベースとしては一元管理するほうがよいだろう。
5)ID管理
- ID統制管理
- ルール管理
各種社内システムにアクセスする権限やパスワードなどを管理するシステム。本来は情報システム部門が管轄すべきだが、従業員全員が何らかのシステムを利用する現代の企業では、入社・退社手続きとの関連性も高いことから、人事システムと連携をさせて取り扱われることも多い。
戦略人事システム
1)タレントマネジメントシステム
- 人材検索・照会
- 人員構成・人材マップ作成
- 人事異動シミュレーション
- キャリアモデル管理
- スキル比較・キャリア比較
2)人材マネジメントシステム
- 要員管理分析・シミュレーション
- 人件費分析・シミュレーション
人事・給与システムに比べると、個々の企業で必要となる機能が異なることも多く、「この機能さえあれば最低限うまくいく」というものが、まだ定まっていない分野だといえる。また、もともと企業戦略とは「他社との差異化を図る」ものであり、同時に「状況や環境によって変化していかなくてはならない」ものでもある。現在、各ベンダーからリリースされているタレントマネジメントシステムのパッケージは非常に多機能であるが、自社に本当に必要なのはどういった機能で、どのように使いこなすのかという具体的なイメージを持って導入していくことが重要となる。
また、タレントマネジメントシステムと人材マネジメントシステムの区別には、はっきりした定義がまだないが、タレントマネジメントシステムは一般に人材配置・プロジェクト管理・後継者/人材育成などをサポートする機能がメインであり、人材マネジメントシステムは人件費分析・要員分析、各種シミュレーションなど、経営者や現場マネジャーが組織の現状を把握・変革するための思考や意思決定をサポートする機能が中心である。