1. 人事システムとは

組織力を高め、経営戦略の実現をサポートする人事システム

「人事システム」とは、人事のさまざまな業務をIT化することで企業経営に貢献するシステムである。現代において、人事システムをまったく利用していない企業は存在しないだろう。どんなに小規模な企業でも、給与計算ではパソコンを使っているはずだからだ。パソコンを使う理由は、計算の手間を大幅に省くことができ、業務効率が良くなり、間違いも少ないからだ。企業規模が大きくなるほど、IT化のメリットも大きくなる。
現在の人事システムの中核に位置するのは、全従業員のあらゆるデータを記録した「人材データ管理」のデータベースである。このデータベースは、毎月の給与計算や入退社管理などにも欠かせないものだが、同時に自社の人的リソースの現状を最も正確に把握することができる重要な情報源でもある。
これを企業経営にもっと活用していこうという考え方が、「タレントマネジメントシステム」に代表される人事システムの新しい潮流を生み出している。
本稿では、業務の効率化やコスト削減だけにとどまらず、企業の組織力を高め、経営戦略実現をサポートするための強力なツールとしての人事システムについて見ていくことにする。
「人事・給与システム」と「戦略人事システム」
人事の業務には、大きく分けて二種類がある。一つは給与計算や勤怠管理、入退社管理などをはじめとする定型業務だ。最初にやり方をきちんと決めてしまえば、あとはいかに正確且つ効率的に業務を行えるかがポイントとなる。もちろん、制度の変更や法改正などに随時対応していくことは必要だが、そのような変化は年単位での発生が一般的である。こうした業務は、比較的IT化しやすく、またIT化による業務効率化、コスト削減などの効果が表れやすい。そのため、わが国でも早くからシステム化が進み、人事システムの代名詞ともなっている。しかし、これらは人事システムのすべてではなく、より正確には「人事・給与システム」と呼ぶべきだろう。
人事のもう一つの業務は、人的リソースの適正配置やプロジェクト管理、人材開発などを通して経営戦略の実現をサポートすることだ。2000年代以降、人事のこうした側面が注目されるようになるのと並行して、これらの業務をIT化する動きが進んだ。具体的には、「タレントマネジメントシステム」「人材マネジメントシステム」などがその代表であり、経営者や中間管理職に意思決定のための材料となるデータを提供したり、シミュレーションを行ったりするシステムである。従来の人事システムの中心だった「人事・給与システム」に対して、いわば「戦略人事システム」とでも呼べるようなシステムだ。ただし、人事システム全体の中では、比較的新しい分野といえる。
■人事システムの二つの分野

人事システムは人事部だけのものではない
人事システムというと「人事部が使うシステム」というイメージがあるかもしれない。たしかに人事・給与システムの場合は、その主な利用者は人事部門の担当者である。しかし、タレントマネジメントシステムをはじめとした戦略的な人事システムの場合は、その利用者をもっと広げて考える必要がある。
人事部以外でまず想定すべき利用者は、現場(各事業部門)の管理職だ。具体的には部長・課長クラスである。現代の企業では、人事部がすべての人材の配置を決めることはまれであり、基本的には各事業部の管理職が人事権を持つことが多い。最終的な判断は経営者(役員クラス)が行うとしても、人事に関する案を作るのは主に現場の仕事といえる。また、日々の業務を通して人材を育成するのも管理職の重要な業務である。タレントマネジメントシステムは、まさに配置や育成に関する判断を支援するシステムであり、プレイングマネジャーとして多忙な業務をこなす現場の管理職が利用しやすいシステムであることが望まれる。

同様に、経営者(役員クラス)による利用も重視しなくてはならない。経営者は組織や人材の課題を正しく把握し、必要があれば組織変更や制度変更などを行い、最高のパフォーマンスを発揮する組織を維持していく必要がある。人材マネジメントシステムには、経営者が組織の現状を把握するとともに、その問題点をすばやく発見し、また対策をシミュレートできる機能が求められる。もちろん、この場合も使いやすさが重要になることにはかわりがない。
さらに、近年新たな利用者として浮かび上がっているのが従業員である。従来から、勤怠管理などでは従業員自身が日々のデータを入力していくシステムがあったが、タレントマネジメント、人材マネジメントの考え方が広がるに従って、業務履歴や教育履歴では、従業員自身でないと入力できないようなきめ細かいデータの整備が求められるようになってきている。利用しやすさを高めるだけでなく、データを入力・整備することが従業員自身にとってもメリットとなるような仕組みや制度をあわせて考えていくことが必要だろう。
このように、最新の人事システムは、「人事部門」+「現場」+「経営者」+「従業員」という、幅広い利用者を想定したシステムでなくてはならないといえる。
■取材協力(順不同)
- インフォテクノスコンサルティング株式会社
- 株式会社ワークスアプリケーションズ
- ※本稿の「人事システムとは」~「人事システム導入にあたっての注意点」までの記事全てでご協力いただきました。