派遣労働者を受け入れ、稼働し、契約更新・終了するまでの流れと、その際に派遣先企業が確認すべきポイントを整理すると、以下のようになる。
【派遣労働者受け入れの流れと確認ポイント】
1.人材派遣会社の選定・発注 | ・派遣スタッフ利用計画の立案 事前に社内で、派遣スタッフに頼みたい業務、人数、期間を固めておく。その際、必要なスキル、経験、資格などを明確にするとともに、派遣で禁止されていない業務であるかどうかも確認しておく ・人材派遣会社のサーチとチェック 人材派遣会社を探す際、インターネットを利用すれば候補となる企業は数多くヒットする。絞り込みを行う場合は、実績や規模、評判などをチェックすると同時に、派遣先の近くにオフィスがあるか(対応が迅速となるため)、求める業務分野を得意としているかなどについても、確認する ・営業担当者との打ち合わせ 候補を絞り込んだら、営業担当者を呼んで打ち合わせを行う。自社の状況、依頼する業務内容、人数、期間などを伝え、見積もりを出してもらう。その際、営業担当者の担当が迅速か、仕事ぶりは丁寧か、オーダーの確認をしっかりと行っているか、フォロー体制は十分かなども確認しておく。単に料金の安さだけでなく、対応の良さやフォローのきめ細かさなどにも留意する必要があるからだ |
---|---|
2.契約締結 | ・派遣先責任者、指揮命令者の決定 派遣会社が決まったら、契約に先だって、法律で義務付けられている派遣スタッフを受け入れる事業所(派遣先)の責任者、指揮命令者を選出する(兼任も可) ・労働者派遣契約の締結 商取引として必要となる「人材派遣基本契約書」と、法律で締結が義務付けられている「人材派遣個別契約書」を締結する 【人材派遣基本契約書の主な内容】 契約書の目的、個別契約への委任規定、派遣料金設定(集計方法、締め日など)、派遣スタッフの交代、損害賠償、契約解除、守秘義務、契約の有効期限 【人材派遣個別契約書】 派遣先担当者(派遣先責任者・指揮命令者)、派遣会社担当者、派遣スタッフ数、業務内容、派遣先事業所(名称・所在地・電話)、派遣期間、始業時刻・終業時刻、休憩時間、休日、安全衛生、苦情処理に関する取り決め、契約解除 |
3.受け入れ準備 | ・派遣スタッフのデスク、備品等の準備・手配 ・派遣スタッフ受け入れに対する社内への周知徹底 ・仕事をする上でのルール取り決め |
4.稼働後 | ・「派遣先管理台帳」の作成 派遣先では就業終了後、3年間の保管が義務付けられている。実際の作成は、人材派遣会社が行う ・派遣先の使用責任 直接雇用の労働者と同じく、「労働基準法」など「労働法」を順守して働かせる義務がある ・派遣スタッフに対するフォロー |
5.契約更新・終了 | ・連絡窓口は派遣会社に一本化 更新、終了するにしても、連絡窓口は派遣会社の営業担当者に一本化する。更新を申し込むタイミングは1ヵ月前が一般的。終了する場合も、同様 ・途中解約は原則的に不可 |
人材派遣を開始するに当たり、派遣元が講ずべき措置および対応として、以下のような事項が挙げられる。
【派遣元が講ずべき措置・対応】
社会保険・労働保険の適用 | 登録型の派遣スタッフであっても、社会保険(健康保険・厚生年金)、労働保険(雇用保険・労災保険)の適用基準を満たす場合には、これらの保険に加入させる必要がある |
---|---|
キャリアアップ措置の実施 | 教育訓練、キャリア・コンサルティングの相談窓口など、キャリア形成支援を行う |
雇用の安定等のための措置 | 派遣先への直接雇用の依頼、新たな就業機会(派遣先)の提供、派遣元において無期雇用などの努力義務を負う |
均等待遇の配慮 | 賃金や教育訓練・福利厚生など、派遣スタッフの労働条件について、派遣先の労働者との均等待遇に配慮する |
派遣元責任者の選任 | 事業所ごと、派遣スタッフ100人につき一人以上、専属の者を選任する |
派遣元管理台帳の作成と保存 | 派遣スタッフの雇用管理のために、派遣元が作成する |
休日・休暇についての法律の適用 | 「労働基準法」の休暇規定(年次有給休暇、産前産後休暇)を守らなくてはならない |
一方、受け入れる側の派遣先が講ずべき措置および対応として、以下のような事項が挙げられる。
【派遣先が講ずべき措置・対応】
就業条件の確保措置 | 契約内容に反さないよう、就業条件の周知徹底、就業場所の巡回、就業状況の報告、派遣契約の遵守に係る指導を行う |
---|---|
適切な就業環境の維持 | 派遣スタッフの就業が円滑に行われるよう、他の社員が利用している福利厚生施設などを利用できるよう便宜を図る |
派遣先責任者の選任 | 就業の場所ごとに、派遣スタッフ100人につき一人以上、専属の者を選任する |
派遣先管理台帳の作成と保存 | 派遣スタッフの就業管理と派遣元への通知のために、「派遣先管理台帳」を作成する |
労働関係の法律の適用 | 労働関係の法律のうち、派遣元に責任を問えない事項などの責任を負う |
法定労働時間の遵守 | 週40時間、1日8時間の労働時間のルールに従って、派遣スタッフを使用する (派遣元で36協定が締結・届出されていれば、残業・休日の派遣就業はできる) |
休日の付与 | 週1回の休日を定め、派遣契約に盛り込み、休日を与えなくてはならない |
人材派遣におけるトラブルの多くは、「賃金」「業務内容」「労働条件」「派遣期間」などに関することである。トラブルの原因はさまざまだが、派遣元・派遣先の間で“板挟み”となる派遣スタッフにしわ寄せが行き、その結果、トラブルが発生することが十分に考えられる。そのため、「労働者派遣法」では派遣元と派遣先が連携して苦情処理に当たることを基本とし、両者に法律上の責任を与えている。
なお、派遣元・派遣先は、派遣スタッフから苦情の申し出を受けたことを理由として、不利益な取り扱いをしてはならない(派遣元指針第2の3、派遣先指針第2の7)。派遣就業に関する違法な事実がある場合には、派遣スタッフはその事実を厚生労働大臣に申告することができる。しかし、この申告を理由として、派遣先・派遣元が派遣スタッフに対して解雇やその他不利益な取り扱いをすることは禁止されている(労働者派遣法第49条の3第2項)。
【「労働者派遣法」が定める「苦情処理」への対応】
事前に「苦情処理方法」を決める | ・派遣契約の必要記載事項とする(第26条) ・就業条件明示書の必要記載事項とする(第34条) |
---|---|
苦情処理の「責任者」を決める | ・派遣元責任者の職務とする(第36条) ・派遣先責任者の職務とする(第41条) |
発生した苦情を「処理」する | ・派遣先が苦情の申し出を受けた時は、派遣元と連携し迅速に解決に努めること(第40条) |
発生した苦情を「記録」する | ・派遣元管理台帳の必要記載事項とする(第37条) ・派遣先管理台帳の必要記載事項とする(第42条) |
最新の人事部の取り組みやオピニオンリーダーの記事をメールマガジンでお届け。
人事・労務などのバックオフィス業務は、長年にわたって非効率かつ煩雑さが...