人材ビジネスには、人材派遣(労働者派遣事業)のほか、人材紹介、再就職支援、請負など、多様なサービスが存在する。その中にあって人材派遣は「必要な時に、必要な期間、必要な人材」を活用したいという企業側における労働力の需給調整システム、雇用形態の多様化の要請などに応える形で誕生したものだ。1986年に「労働者派遣法」が施行されて以降、何度かの法改正を経て、現在では自社雇用とは違った利便性の高い人材活用のあり方として、多くの企業で定着している。
「職業安定法」において「労働者供給事業」が原則禁止される中、人材派遣は「労働者派遣法」の趣旨に沿って適正に運営され、労働者の保護と雇用の安定が確保される必要がある。そのような背景から、スタッフを派遣する人材派遣会社は、厚生労働大臣の許可を得なければならないことになっている。
2015年9月30日の「労働者派遣法」改正前の段階では、労働者派遣事業は「許可制」と「届出制」による派遣元会社の2種類に大別されていた。しかし、事業会社が許可を得ずに許可制の派遣事業を違法に行うなどの問題が散見されたため、改正後は、優良な人材派遣会社(派遣元会社)の育成をより重要視し、労働者派遣事業は「許可制」に一本化されることになった。その結果、行政の監視の目が行き届きやすくなり、人材派遣事業の健全化と新たな成長が期待されている。
人材派遣ではまず、人材派遣会社(派遣元)が自社の常用社員または登録スタッフの中から、業務内容、業務レベル、就業条件など、派遣先企業のニーズに合致した人材を選出。本人が了承した上で派遣することになる。派遣する人材に関しては派遣元に一任されており、派遣先企業で採用試験が行われることはない。
上記のような「マッチング」(派遣先企業の依頼内容に基づいて条件に適した人材を選定し、業務を依頼、交渉し、契約まで進めること)が終了した後、派遣先企業と人材派遣会社の間に「労働者派遣契約」が結ばれる。同時に、人材派遣会社と派遣労働者(派遣スタッフ)の間には「雇用関係」が結ばれ、派遣期間中、派遣スタッフは派遣先企業の「指揮命令関係」下に置かれることになる。つまり、派遣スタッフは人材派遣会社と雇用関係にありながら、実際の職場は派遣先企業という「間接雇用」の形となる。この点が、労働者派遣事業の大きな特徴である。
派遣スタッフに対する「賃金」は雇用主である人材派遣会社から支払われるが、勤怠管理を含む労務管理は指揮命令権のある派遣先企業が行う。また、人材派遣会社が派遣先企業に請求する「派遣料金」と、派遣スタッフに支払う「賃金」については、派遣先企業での業務内容やレベルによって定められた時間単価、実労働時間をベースに算出される。派遣期間は担当業務などによって、短期から長期までさまざまだが、一人が同一組織単位で働くことのできる期間には限度がある。
【派遣元、派遣先の役割】
派遣元 | ・派遣労働者と雇用契約を結ぶ ・賃金を支払う ・社会保険、労働保険の手続きを行う ・年次有給休暇を付与する ・休業の際に休業手当を支払う |
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派遣先 | ・勤務先となる ・仕事上の指揮命令を行う |
人材派遣には、「一般労働者派遣事業」(登録型)と「特定労働者派遣事業」(常用型)の二つのスタイルがある。登録型は、職業経験のある労働者(「新卒派遣」を除く)が人材派遣会社に登録し、派遣先企業のニーズ・依頼内容に合致し、本人が応じた場合に一定期間、派遣されるというもの。その契約期間のみ、人材派遣会社と雇用関係になる。
この場合、派遣スタッフは人材派遣会社に登録しても、必ず派遣されるという保障があるわけではない。しかし、派遣スタッフの立場を考えた時、業務内容や就業条件を選択できる“自由度”は高く、契約期間外は拘束されることがない。そのため、派遣スタッフの多くは複数の人材派遣会社に登録している。ただし、事業を取り巻く環境変化の激しい昨今は、派遣先企業から登録型の派遣スタッフに即戦力性や専門性を要求されることが多く、その水準は年々高まっている。
賃金は通常、「時間給×実労働時間」から算出され、手当や賞与、退職金はない。交通費に関しては、人材派遣会社や案件によって支給されることがあるが、多くは派遣スタッフの自己負担である。また、労働時間や賃金などが社会保険の加入要件を満たす場合は、人材派遣会社の社員として社会保険に加入することになる。
一方、常用型は労働者が人材派遣会社に“無期雇用”の派遣スタッフとして雇用され、派遣先企業に派遣されるというスタイルを取る。人材派遣会社との雇用関係は退職まで無期限であるため、登録型と比べて安定していると言えるが、労働条件選択の“自由度”は低い。賃金は月給のことが多く、手当、賞与も支給され、社会保険にも加入する。なお、2015年の法改正で、以前は届出制であった常用型が許可制となり、特定労働者派遣事業に対する厚生労働省の監督が強化された。
労働者派遣という人材サービスを取り入れることで、派遣先企業は「必要な時に、必要な期間、必要な人材」をタイムリーに活用することが可能になり、その結果、業務効率や生産性を大きく向上させることができるようになった。また、労務コストという側面からもメリットは少なくない。自社が直接雇用するスタッフの募集・採用や雇い入れ後の教育訓練が軽減され(状況によっては必要なくなり)、一方、派遣スタッフに対する給与支払の手続き、社会保険料の負担などに関しては、全て人材派遣会社が行ってくれる。派遣先企業としては、わずらわしい事務作業から解放され、大幅な労務コストの削減が期待できる。
他方、デメリットもいくつか存在する。派遣スタッフは自前の社員ではないため、派遣先企業に対する忠誠心がやや希薄になる傾向がある。そのため、チームワークで成果を出すような社風の会社では、なじみにくい場合も考えられる。また、原則として決められた仕事だけに従事するため、ちょっとした頼みごとがしづらく、自社社員との意思疎通がスムーズにいかないこともあるだろう。さらに、社内機密や情報が外部に漏れるリスクがないわけではない。このような点を鑑みて、人材派遣を活用する際にはメリットとデメリットの双方を勘案し、バランスを考慮して行うことだ。
【派遣先企業から見たメリット・デメリット】
メリット | 業務効率・生産性の アップ |
必要な時に ・繁忙期だけ人材が必要な場合に ・プロジェクトの遂行時だけ人材が必要な場合に ・突然の退職者が生じた際、欠員補充に |
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必要な期間 ・短期間だけ人材が必要な場合に ・プロジェクトの期間中だけ必要な場合に ・育児休業中の社員が復職するまでの代替要員として |
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必要な人材を ・専門性、一定のスキルを持った人材を活用できる |
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労務コストの軽減 | ・募集、採用コストの軽減 ・教育訓練コストの軽減 ・社会保険料などの軽減 ・賞与、退職金等の軽減 |
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デメリット | ・自社に対する忠誠心が希薄なことが多い ・決まった仕事だけに従事する(契約にない仕事に対応できない) ・正社員との意思疎通が困難なことがある ・社内機密の漏えいのおそれがある |
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