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コンプライアンスの実務(3)運用・ノウハウ

1)コンプライアンス文書の作成

事実と推測を明確に分け、説明責任を果たせるよう万全の裏付けを確認しておく

コンプライアンスの実務(3)運用・ノウハウ

社内で作成するコンプライアンス文書(電子データ)には、以下の四つの機能(役割)が備わっている。また、コンプライアンス経営の見地からも、正しい文書を作成するために、「目的を明確にする」「結論を先に書く」「結論に必要な事実と理由を書く」「日付と作成者を明確にしておく」といった点に留意する必要がある。また、事実と推測を混在させないこと、情報の出所を明確にすることも忘れてはならない。

虚偽の記載や偽装データの記録は、不正の動かぬ証拠として取り返しのつかない自体を招く危険性がある。文書作成責任者は、その内容に関して十分な説明責任を果たせるよう、万全の裏付けを確認しておく必要がある。

【コンプライアンス文書の機能(役割)】
違法行為防止機能 正確な文書を作成することによって証拠が残り、違法行為に対する抑制が期待できる。
チェック機能 後に事実関係を確認するために文書を作成する意味がある。そのためにも、正しい文書管理が必要となる。
効率性担保機能 口頭に比べ、文書の方が短く効率的に進めることができる。また、何度でも読むことができ、確認することができる。
証拠機能 後になって収集される供述証拠に比べ、記録としてタイムリーに作成された文書は証拠としての価値が高い。

2)文書・データの情報管理

管理ミスが、企業にとって致命的なダメージを受ける

コンプライアンスにかかわる文書・データは厳重に管理されなければならない。会社法施行規則でも、内部統制システムの一環として、取締役などの職務の執行にかかわる情報の保存および管理に関する体制や損失の危機に関する規程、その他の体制を構築することが求められている。具体的には、文書管理規程などの社内規程を策定・改善し、営業秘密などの管理を徹底し、適切な文書などの情報管理を行うことが不可欠である。

流出を防ぐとともに、利用しやすい形で管理するために、文書・データの管理規程を作成する際は、以下のような点がポイントとなる。

【文書・データ管理規程作成のポイント】
文書・データの分類・整理 文書・データを管理するための「分類基準」を策定し、統一的なルールを採用する。文書の原本と写しを区別し、写しがない場合には原本はどこにあるのかなどを明らかにしておく。
作成者と保管者の分離 文書・データの改ざんを防止するため、作成者と保管者は別にする。また、閲覧をすることを可能にしたい場合、閲覧者を記録するシステムを導入する。なお、機密文書である場合には、閲覧資格を有する者にしか閲覧できないようにする。
保存・管理の電子化 ITを活用し、膨大な文書・データを検索しやすいように整理し、保存・管理の電子化を進める。

重要事項を記載した文書・データは、さまざまな者からのターゲットとなる。文書の下書きなどが、ゴミ箱に何気なく捨てられているようなことがあってはならないのだ。そのため、シュレッダーは不可欠である。さらに、サイバー攻撃などのリスクも避けられない。事業の状況に応じたセキュリティー対策に、コストは惜しむべきではない。

3)社外人材の活用(弁護士、コンサルタント等)

コンプライアンスの趣旨・目的を十分に理解した外部人材に依頼する

コンプライアンスを推進していく中で、実際に法律的な問題があった場合、適時に相談して適切な対応を取るためにも、弁護士などの法律専門家やコンサルタントを活用することが有意義である。社外取締役や監査役、委任契約、顧問契約、単発の依頼など、弁護士と企業の関係にはさまざまなタイプがあるが、企業の特性と弁護士の得意領域とが見合うよう、弁護士によって使い分けることも必要である。選任に当たっては、執務スタイル、基本的な方針・理念、実績・経験などを踏まえて、いかに法曹倫理を重視して行動できるかがポイントと言えるだろう。

弁護士の他にも、社内に十分な人材が不足している場合、公認会計士、税理士など各種の専門家、コンサルタントなど外部の専門家を活用した方が効率的・効果的なことが多い。法律だけではなく、さまざまな専門知識を正しく企業経営に反映させることや、公正な会計原則を守る点においても、適切な専門家の活用は有用である。

いずれにしても、各種の専門家、コンサルタントが依頼企業の内情を深く理解し、長期にわたり安定した関係を維持できれば、より効率的で質の高いサービスを受けることが期待できる。その意味でも、コンプライアンスの趣旨・目的を十分に理解した外部人材に依頼することが重要である。

4)行政(役所)との付き合い方

行政法規、業法関連、取締法規の仕組み等を知りたい時には適している

コンプライアンスを推進していく上で、法律上の疑問や問題点がある場合、行政(役所)をうまく活用することが重要だ。ただし行政で扱うのは、原則として行政が法令について一定の解釈権限があるような行政法規、業法関連、取締法規などに限られるので注意が必要である。例えば、雇用契約などの民事法規に関する問題などは、法令の解釈が争いとなるので、回答を引き出すのは難しい。このような問題は弁護士に相談するなど、他の専門家の意見を求めるしかない。

5)警察との連携

反社会的勢力から不当な要求を受けた時には、断固として排除する

企業が警察に協力を求める典型的なケースは、反社会的勢力(暴力団・総会屋など)との民暴(民事介入暴力)関連だが、その他にも窃盗、横領、背任などの犯罪被害にあい、加害者を告訴したいといった場合などが考えられる。反社会的勢力とは直接・間接を問わず、一切関係を持たないことが強く求められるのは言うまでもないが、仮に反社会的勢力から不当な要求を受けた時には、警察の関連行政機関や民暴専門の弁護士などと連携し、断固として排除することである。そのためにも、警察署との連携を強化し、日ごろから情報収集に努めることだ。日本経団連の行動憲章にも「市民社会の秩序や安全に脅威を与える反社会的勢力および団体とは断固として対決し、関係遮断を徹底する」として、企業に毅然たる対応を求めている。

トラブル発生時には、加害者を告訴する方法を選択することがあるが、民事的な話し合いでは収集がつかないような場合、刑事告訴で対応せざるを得ないといった判断がされることもある。ただ、親告罪の告訴期限は短く、刑事訴訟法第235条により、原則として「犯人を知った日」から6ヵ月しか告訴ができない。また、告訴期間とは別に告訴時効の期間も犯罪によっては短く、長期5年未満の懲役もしくは禁固または罰金の犯罪だと、犯罪終了から3年と短い。そのため、刑事告訴も視野に入れたトラブルについては、時間の制限内で迅速に対応すること。また、しっかりとした証拠、資料などを揃えて警察、または検察に持っていくことが必要だ。

6)管理職・従業員の意識改革

コンプライアンスに対してモチベーションを持たせる工夫を

従業員にコンプライアンス経営に沿った行動をしてもらうためには、その理念を十分に理解してもらい、コンプライアンスに対する意識を確かに持ってもらう必要がある。しかし、昨今では雇用形態の多様化などに伴い、モラルや士気の低下による不正や不祥事が発生する危険性が高まっている。また、従業員の中には、会社のために向けられるべきロイヤルティー(忠実義務)を、上司個人へのものと取り違えるなど、誤った方向に向けるケースがある。企業内部の派閥などとの関係から、保身的な態度とも結び付くこともある。さらに、同調圧力に屈して、周囲に流される人たちも少なくない。これらを防止するためには、従業員の基本的なロイヤルティーの誤解を正す必要がある。

このような背景から、管理職・従業員に対して、コンプライアンスの精神を理解・納得してもらい、実践してもらうために誓約書を提出させるといったケースも増えている。しかし、義務としてサインさせた場合、単なる形式となってしまいがちだ。本当の意味での意識改革を図るためには、日ごろからコンプライアンスに対する教育・意識づけを行うとともに、モチベーションやインセンティブを高めるために、人事考課にコンプライアンスに関する項目を設け、本人にも強く認識させ、それを評価し、反映させることなども有効だろう。実際、部下のコンプライアンスに対する意識は、上司次第であるという側面も否めない。各職場の管理監督者にその自覚を持たせることがより重要である。

7)問題発生時における人事の対応

コンプライアンス経営の下、会社全体の長期的な利益を考えて判断する

不祥事が発生した場合、社内処分や人事異動にとどまらず、組織のあり方や人事に踏み込んだ対応が求められることがある。その際は責任の所在を明確にし、会社全体の長期的な利益を踏まえて判断することが重要だ。安易な考えで違法な行為に対する厳正な処分を怠れば、違法の芽が大きくなり、企業のコンプライアンスに対する姿勢に、疑念を抱かせてしまうおそれがある。

不正を行った従業員を解雇するようなケースでは、処分が適正に行われているかどうかチェックし、社内に疑念やわだかまりが残り組織風土に悪影響を与えることのないよう、例外なく公平に行わなければならない。

また解雇に限らず、従業員を処分する時には、本人の弁解・弁明を十分に聞いた上で法令や就業規則に従い、バランスを考えて処理することが大切だ。その際、十分な事実調査に基づいているか、けん責や戒告程度ということで、いい加減な事実認定をしていないか、厳正に確認する必要がある。減給処分についても、本人にとって経済的な影響が大きいので、十分に注意しないと、場合によっては裁判で争われるケースもある。また懲戒処分については、総合的な状況を判断して、決定することである。いずれにしても弁護士など法律の専門家とも相談しながら、処分を行うよう配慮することが望ましい。


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