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コンプライアンスの実務(1)組織

ここからは、コンプライアンスを推進していくために重要となる実務のポイントを紹介する。

(1)コンプライアンスを推進する組織づくり

●コンプライアンスの重要性を経営の中核に置くことが出発点

コンプライアンスの実務(1)組織

コンプライアンスを推進するには、法令や経営倫理などに対する意識を浸透させ、リスク情報を共有し、未然にトラブルや不祥事を防止できる体制を整えることが重要である。コンプライアンス・プログラムの実効性を高めるためにも、全社的な組織体制を見直し、推進を図っていくことが必要なのだ。

健全な事業活動を行うために、まず経営トップがコンプライアンスの重要性を経営の中核に置くことが出発点となる。経営層から選定された「コンプライアンス担当役員」が「コンプライアンス統括部門」を指揮することにより、さまざまな職務・役割の分担と全ての部署での連携が可能となる。その上で、必要に応じて権限を分配し、責任を負う部署が中心となって各事業を適切に処理し、相互の連携を充実させていく。

リスク管理を含む内部統制に関しては、組織内で一元的に管理・運営するのが合理的である。実際、コンプライアンス統括部門がリスク管理部門との連携を越えて、統合に及ぶこともある。これも、コンプライアンス推進とリスク管理は、密接不可分(表裏一体)の関係にあるからだ。あるいは、「コンプライアンス委員会」「第三者委員会」などの事務局を担当するという方法もある。いずれにしても複数の部署が関わる場合、委員会や統括部門の役割・権限を明確にし、推進していくことだ。その他にも、コンプライアンスに必要な情報を共有し、関連する部署間の連携が求められる。

このように、連携の調整や、責任の所在を明確にするという点で、コンプライアンス統括部門は重要な位置付けにある。しかし、コンプライアンスを推進し、実効性を上げるには、それぞれの現場の業務が果たす役割が大きい。各現場の管理監督責任者が業務責任者や補助者を適切に指示・監督し、適宜上司に報告・連絡・相談を行うことによって、状況をチェックできるようにする。そして最終的には、コンプライアンスの統括責任者が、全社的なコントロールを行うのが望ましい。

(2)コンプライアンス委員会の役割

●コンプライアンスの徹底・強化に向けて、集中的に検討・議論する場

コンプライアンス統括部門を、コンプライアンス委員会が対応するケースもある。コンプライアンス委員会は社外有識者なども含む組織であり、外部の視点を取り入れたい場合などに、採用されることが多い。また、コンプライアンス委員会には、取締役会からの諮問に対応し、基本的な方針の推進に向けての監督、助言・勧告をするものから、具体的な作業に取り組むものまで、さまざまな形がある。常時動いているコンプライアンス統括部門や法務部門とは異なり、コンプライアンスの徹底・強化に向けて集中的に検討・議論する場である。

コンプライアンス委員会のメンバーは、「取締役会のメンバーだけからなる委員会」「役員と従業員など内部の者による内部委員会」「内部の者と社外の有識者、弁護士など外部の委員(社外取締役等を含む)からなる委員会」「全て外部の委員からなる外部委員会」などが考えられる。現状に引きずられることを避け、客観的水準を維持するためには、ある程度外部の委員を入れた委員会が望ましいだろう。

(3)コンプライアンス担当役員(CCO)の役割

●コンプライアンス体制の構築に向けた戦略的役割を担う

コンプライアンス担当役員(CCO:Chief Compliance Officer)とは、コンプライアンス担当執行役員(最高コンプライアンス責任者)のこと。一般的にCCOは、取締役会メンバーのコンプライアンス担当取締役、もしくは執行役員である。組織内のコンプライアンス・プログラムの実施・運用に関して責任と権限を持ち、コンプライアンス体制の構築に向けた戦略的役割を担う。現在では上場企業を中心に、多くの企業でCCOが設置されるようになっている。

CCOは、コンプライアンスと事業運営の連携を綿密に行い、事業の顕在性を確保しながら確保すべき利益に優先順位を設け、事業目的を追求することが求められる。実務に精通しているだけではなく、高度な倫理観が求められ、コンプライアンスの意義や機能を深く理解し、推進し、啓もうしていく役割を果たさなければならない。トップマネジメント層に対しても、十分な存在感を示す必要がある。

(4)コンプライアンス統括部門の役割

●コンプライアンスを推進・調整する実務的な機能を果たす責任部署

コンプライアンス統括部門は、コンプライアンスを推進・調整する実務的な機能を果たす責任部署である。CCOの指揮と権限委譲の下に、コンプライアンス担当部門が会社全体に必要とされる課題の対応を行いつつ、日常的な問題の整理と現場における諸問題の解決支援をサポートする。また、社内外の弁護士などの専門家とも連携し、組織内規程などの一貫性・整合性、取引や業務の適法性を検証する役割も担うことになる。法令遵守の徹底を図るために、さまざまな部署に散在する法令などに関する情報を一元的に収集、管理、分析を行う。適時に周知徹底を行い、適切な措置・方策を講じることが求められる。

なお、取締役会は、コンプライアンス統括部門の所掌事項を明確にして権限を付与し、適切な役割・機能を発揮させる体制を整備する必要がある。その業務を遂行するために、必要な知識・経験を持っている人材を配置し、管理業務の遂行に必要な権限を付与する。

上場企業の中には、コンプライアンス統括部門を設け、倫理行動基準の策定、法令遵守マニュアルやコンプライアンス・プログラムの作成・運用、チェックなどの業務を行っているケースがある。このようなコンプライアンス統括部門の存在が、全社的なコンプライアンス重視の風土を醸成し、ステークホルダーから信頼される企業の確立を促すことになる。

(5)法務部門の強化

●コンプライアンス統括部門と密接な連携を取る必要が

コンプライアンスを推し進めていく際、各種の法律問題に的確に対応していくには、法務部門を設置し、その機能を強化することが必要である。また、ビジネス上の取引がグローバル化、高度化、複雑化していることもあり、法的な対応には、法務部門あるいはその他の専門部署や顧問弁護士などに相談できる体制が必要だ。

法務部門の設置や強化が見込めないような場合は、トップ直属の下、別途、コンプライアンス統括部門を作った方がいいだろう。もちろん、法務部門がコンプライアンス統括部門となる場合があるが、そうでない場合も、法務部門はコンプライアンス統括部門と密接な連携を取る必要があるのは言うまでもない。

法務部門の担当する問題は多岐に渡るが、その中でも重要なのが「予防法務」である。予防法務とは、企業が将来において訴訟や不祥事などで法的紛争が生じないよう、法律知識や法的対応の実務ノウハウを駆使して事前に講じる法的対策のことである。予防法務はコンプライアンス経営の中心的な課題であり、万全に行われれば、企業が深刻なトラブルに巻き込まれる可能性が低くなる。その際、関連部署との連携が不可欠となる。事業活動に密着して、的確で迅速な処理をすることが求められるが、実行できる人材が社内にいない場合、法律問題に関しては外部の弁護士など法律の専門家の助力を求めるのが現実的である。

(6)企業グループの内部統制(グループ経営)

●企業グループ経営としての内部統制の整備は喫緊の課題に

2014年の「会社法」の改正により、企業集団の内部統制が会社法本体に明記された。また、「金融商品取引法」における内部統制報告制度でも連結ベースで規律されており、企業グループ経営としての内部統制の整備は喫緊の課題となっている。そして、グローバルな事業展開を進めている企業グループでは、コンプライアンスの推進もグローバルなレベルで対応する必要性に迫られている。

現在では、企業不祥事は子会社を含むグループ企業全体のイメージダウンにつながるだけでなく、業界全体の信用と評判を落とすことになる。そのため、コンプライアンス推進に関しては、個別の企業がバラバラに取り組むのではなく、時にはグループ企業、業界として、さまざまな連携が求められることになる。さらに、子会社のように資本関係がなくても、関連企業、取引業者や下請け業者などで偽装行為や不正があった場合は、その管理責任を問われることになる。

そのため、グループ企業全体としての企業行動規範などを策定し、グループ全体のブランド価値にふさわしいコンプライアンスの理念を共有し、グループ全体で組織的に取り組むことが必要だ。特に多数の子会社や孫会社を擁する企業グループでは、親会社が中心となってグループ企業全体をチェックできる体制を整備することで、相互のけん制機能も働き、コンプライアンスに必要な情報を共有しやすくなる。

海外に多数の拠点を有する企業グループでは、グローバルなコンプライアンス・プログラムが有効だ。その場合、各国で準拠する法律が異なるので、それぞれの法律に応じたきめ細かな対応が欠かせない。中央集権的に本社側のコントロールを及ぼすか、いくつかの重要な拠点に権限を分散するかは、各社の沿革や事業の性質によって異なるので、地域ごとの拠点に法務スタッフを一定の人数配備し、各地域の法律の課題に適切に対応できる体制を整えることが求められる。

(7)危機管理への備え

●平時からの準備が必要不可欠に

不祥事が発生した場合、迅速に対応できる組織体制を構築することで、その影響を極小化することができる。企業トップが指揮を取るのが望ましいが、難しい場合は、CCOや監査役などの委員を中心に対応する。その中に適任者がいなければ、人事を考え直す必要もあるだろう。

いずれにしても不祥事が発生したら、担当取締役(企業トップ、CCO、監査役などの委員)は事実関係の把握に努め、根本的な原因追究、損害の拡大防止、早期収束、再発防止、対外的開示のあり方を検討する必要がある。また、必要に応じて調査委員会や第三者委員会を設置することになる。一方で、監査役は直ちに企業不祥事に関する報告を求め、それらに関する取締役・調査委員会などの対応状況について、監視し、検証しなければならない。企業側に法令違反があると、責任追及の問題に発展し、深刻な事故を起こした場合は、背景となった組織的要因や企業風土にも厳しい目が注がれる。そうした事態を想定して、平時からいざという場合に対応できる備えを用意しておくことが肝心だ。

不祥事が起きた時、適時・的確な情報開示をするためには、トップを含む不正に関与した者に対する厳正な処分、適切な対応が求められる。不正に関わった者に経営の指揮を取らせていては、会社に対する不信感を払拭できないからだ。不祥事で損なった企業の価値を早く回復するために、日本取引所自主規制法人は2016年2月、「上場会社における不祥事対応のプリンシプル」を公表した。企業活動において、自社(グループ会社を含む)に関わる不祥事またはその疑義が把握された場合、当該企業は必要十分な調査により事実関係や原因を解明し、その結果を元に再発防止を図ることを通じて、自浄作用を発揮する必要がある。その際、確かな企業価値を再生するために、上場会社では速やかにステークホルダーからの信頼回復を図りつつ、確かな企業価値の再生に資するよう、下記に示したようなプリンシプルの考え方を元に、行動・対処することが期待される。

【上場企業における不祥事対応のプリンシプル(日本取引所自主規制法人)】

1.不祥事の根本的な原因の解明 ・不祥事の原因究明に当たっては、必要十分な調査範囲を設定の上、表面的な現象や因果 関係の列挙にとどまることなく、その背景等を明らかにしつつ事実認定を確実に行い、根本的な原因を解明するよう努める。

・そのために、必要十分な調査が尽くされるよう、最適な調査体制を構築するとともに、社内体制についても適切な調査環境の整備に努める。その際、独立役員を含め適格な者が率先して自浄作用の発揮に努める。
2.第三者委員会を設置する場合における独立性・中立性・専門性の確保 ・内部統制の有効性や経営陣の信頼性に相当の疑義が生じている場合、当該企業の企業価値の毀損(きそん)度合いが大きい場合、複雑な事案あるいは社会的影響が重大な事案である場合などには、調査の客観性・中立性・専門性を確保するため、第三者委員会の設置が有力な選択肢となる。そのような趣旨から第三者委員会を設置する際には、委員の選定プロセスを含め、その独立性・中立性・専門性を確保するために十分な配慮を行う。

・また、第三者委員会という形式をもって、安易で不十分な調査に、客観性・中立性の装いを持たせるような事態を招かないよう留意する。
3.実効性の高い再発防止策の策定と迅速な実行 再発防止策は、根本的な原因に即した実効性の高い方策とし、迅速かつ着実に実行する。 この際、組織の変更や社内規則の改訂などにとどまらず、再発防止策の本旨が日々の業務運営などに具体的に反映されることが重要であり、その目的に沿って運用され、定着しているかを十分に検証する。
4.迅速かつ的確な情報開示 不祥事に関する情報開示は、その必要に即し、把握の段階から再発防止策実施の段階に至るまで迅速かつ的確に行う。この際、経緯や事案の内容、会社の見解等を丁寧に説明するなど、透明性の確保に努める。


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