3. 社宅の効果・メリット

実はメリットが多い社宅制度
社宅の歴史とニーズの移り変わりを見ると、社宅制度そのものが否定されているわけではなく、従来型の「社有社宅を単純に福利厚生として提供する」というやり方が、現状にあわなくなってきているだけだとわかる。今も何らかの形で、企業が住環境を補助してくれることを期待する従業員は多いからだ。本章では、社宅のさまざまなメリットを見ていこう。
従業員へのメリット

最大のものは、やはり「住宅費が安くすむ」ということだ。従業員にとっては可処分所得が増えるので、実質的に給与が増えるのと同じ効果がある。企業に対する満足度向上、ロイヤルティーやモチベーションの向上につながるメリットである。
また、社宅には税制上の有利さもある。社宅と同様に従業員の住宅を補助する制度である「住宅手当」と比較してみよう。住宅手当は、給与の一部と見なされるので、所得税の課税対象になってしまう。課税されると従業員が受け取る手取り額は少なくなってしまう。さらに年収が増えることによって、社会保険料の負担も増すことになる。
それに対して、社宅の場合は、従業員が企業から受けている恩恵分への課税はなく、当然社会保険料への反映もない。住宅手当の方が転居の自由度は高いが、それ以外の経済的なメリットでは、いずれも社宅の方が優れているといえるだろう。
社宅 | 住宅手当 | |
課税 | なし | あり(手取り額減少) |
---|---|---|
社会保険料 | 影響なし | 負担増 |
転居の自由 | 制限あり | 制限なし |
企業の経済的メリット
福利厚生による社員の満足度向上、ロイヤルティー向上以外にも、社宅制度は企業側に財務上のメリットをもたらす。第一には、社宅費用は「経費(福利厚生費)」にできるということだ。ただし、家賃を無償、または著しく安い金額に設定してしまうと、社宅の提供ではなく給与とみなされてしまう。必ず一定額以上の家賃を徴収することが条件になるので注意が必要だ。
第二は、住宅手当支給との違いで、従業員への恩恵分が社会保険料の負担増につながらないことだ。従業員側にも、社会保険料への影響なしというメリットがあったが、社会保険料は企業側も折半で負担するので、このことは企業にとってもメリットとなる。
企業の採用力アップ
社宅の制度があると、それが福利厚生面での魅力となるので、企業の採用力はアップする。また、現状では業種的に転勤の多い企業の場合は、ほとんどが転勤対応の社宅制度を用意している。そのため、逆に社宅がないと採用で競合した際に、不利になる場合がある。
転勤・異動が多くなくても、採用時に転居が必要な場合(たとえば遠隔地に住む人材を採用するケースなど)には、当初社宅を用意する方が、入社の決断を促しやすい効果がある。 また、遠距離通勤者や勤務時間が不規則な工場勤務者などに社宅を用意することで、採用競争力が増すと考えられる。
資産としての社宅

社有社宅には「資産」としての効果もある。工場や自社物件の店舗などが必要ない企業の場合、高稼働率の不動産資産として社宅を持つことには、財務上のメリットがあるとも言える。
ただし、現在では減損会計が導入されているため、社宅としての稼働率が低い場合には、資産価値が大きく目減りする可能性もある。特に、築年数が古い社宅は、老朽化とともに維持・管理費の負担が大きくなるため、従業員の満足度は低く、稼働率が落ちていく傾向がある。こういった場合には、「資産=メリット」とは言えないだろう。
社有社宅と借り上げ社宅のメリット比較
近年では、社有社宅から借り上げ社宅へとトレンドが変化している。そこで、それぞれのメリットとデメリットを整理しておこう。
社有社宅 | 借り上げ社宅 | |
メリット |
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デメリット |
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さまざまなメリット・デメリットがあるが、入居する従業員の満足度に関しては、借り上げ社宅の方が上回るようだ。これは、立地や間取り、築年数などを見て物件を選べること、周囲が同じ会社の人ばかりといった状態になることが少ないことなどがあげられる。