会合レポート

「日本の人事リーダー会」第15回会合レポート
“キャリア自律型組織”をいかにして実現するのか
人生100年時代に求められる人事戦略:従業員のキャリア・オーナーシップ支援

2021.07.19 掲載

第15回会合レポート(日本の人事リーダー会)

人生100年時代を迎えたことで、いま企業は個人をコントロールするのではなく、個と対話し、個人のキャリアに寄り添っていく開発型の戦略が求められている。その実現の柱となるのが「キャリア自律型組織」だ。企業は従業員のキャリア・オーナーシップを支援することが不可欠であり、その環境づくりが人事に求められている。プロティアン・キャリア論で知られる法政大学の田中研之輔教授からの問題提起を受けて、日本企業を代表する人事リーダー20名が、これからのキャリア開発支援のあり方について、オンラインで議論した。

■ファシリテーター
法政大学 キャリアデザイン学部 教授/一般社団法人 プロティアン・キャリア協会 代表理事 田中 研之輔氏
■出席者
株式会社NTTデータ コーポレート統括本部 人事本部 人事戦略推進室長 矢口 武史氏
カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社 執行役員 社長室長 兼 CHRO 松浦 俊雄氏
カルビー株式会社 常務執行役員 CHRO(Chief Human Resource Officer) 武田 雅子氏
株式会社ゲオホールディングス 執行役員 人事政策推進PJT GM 太田 克己氏
株式会社湖池屋 経営管理本部人事部 部長 八代 茂裕氏
コカ・コーラ ボトラーズジャパン株式会社 人事/総務本部 人財開発部 部長 東 由紀氏
コニシ株式会社 人事部 統括部長 松尾 孝治氏
株式会社Jストリーム 執行役員 管理本部 人事部長 田中 潤氏
JCOM株式会社 執行役員 人事本部長 兼 人事部長 千田 貞文氏
スターバックス コーヒー ジャパン 株式会社 人事本部 組織人材開発部 部長 下青木 聖子氏
積水ハウス株式会社 執行役員 人材開発担当 藤間 美樹氏
テルモ株式会社 人事部 常任理事 竹内 寿一氏
株式会社日本M&Aセンター 常務執行役員 人材ファースト統括 有賀 誠氏
日本マクドナルド株式会社 人事本部 上席執行役員 チーフ・ピープル・オフィサー 落合 亨氏
ノバルティスファーマ株式会社 人事統括部 ファーマP&Oビジネスパートナー ヘッド 口村 圭氏
Facebook Japan株式会社 執行役員 人事統括 (Head of Human Resources) 佐々木 丈士氏
株式会社ブリヂストン 人財マッチング企画・推進部門長 江上 茂樹氏
三井情報株式会社 執行役員 人事総務統括本部 本部長 戸部 雅之氏
株式会社三井住友銀行 人事部研修所 副所長 樋口 知比呂氏
株式会社メルカリ 執行役員 CHRO 木下 達夫氏
※社名50音順、所属や役職は「日本の人事リーダー会」開催時のものです

法政大学 田中研之輔氏による問題提起:アフターコロナを見据え、日本の人事リーダーが今できること、すべきこととは

まず田中氏が、キャリア自律の実現に向けて人事が持つべきスタンスについて語った。

「アカデミックな知見と現場での実践が乖離していては意味がありません。理論を実践し、実践を理論化するといったPDCAを回し続けて、キャリア自律型組織を実現させることが重要です」

田中氏は、現在の企業内でのキャリア形成には、三つの課題があると語る。一つ目は、ファーストキャリア形成期の「不透明なキャリア展望」だ。30歳以下のファーストキャリア形成期において、将来のキャリアが見えないことを不安に思う人が増えている。二つ目は、ミドルシニアキャリア形成期の「組織内キャリア依存」だ。ミドルシニアは長く働いてきたことで、現状は自律ではなく組織に依存しがちになりつつある。三つ目は、ポストオフ後の「キャリア失墜」とモチベーション低下だ。ミドルシニアの上の世代は、ポストを外れたことでモチベーションが低下しつつあるのだ。

こうした課題を克服し、キャリア自律を実現する考え方として、田中氏が提唱するのがプロティアン・キャリアだ。

「プロティアン(Protean)はギリシア神話に出てくる思いのままに姿を変える神プロテウスが語源であり、『変幻自在な』という意味があります。プロティアン・キャリアとは、まさに変幻自在のキャリアです。組織に任せるのではなく、個人によって主体的につくり出すキャリアであり、キャリア・オーナーシップを持つ働き方といえます。外的に決められる成功の基準ではなく、心理的な成功に重点を置きます」

田中氏はよく「人が自律するようになると、企業を辞めていくのではないか」と聞かれるそうだが、「人の自律と企業を辞めることは違う文脈の話」と答えるという。

「海外の事例では人が自律すると、組織内エンゲージメントが高まります。なぜなら、組織にキャリアを預けて低パフォーマンス・キャリアプラトー(停滞)状態で働く人よりも、自ら主体的にキャリアをつくろうと思う人のほうがパフォーマンスは高いからです。そうした中で人が辞めるとすれば、理由は他にあります。プロティアン・キャリアは、リテンションマネジメントにも十分有効です。これからは主体的にキャリアを形成する場を企業内につくり、企業と個人が互いに“選び選ばれる関係”をつくることが重要です」

今、企業ではDXへの取り組みが広く叫ばれているが、同時にそれを行う人の改革、「CX=キャリアトランスフォーメーション」を行うべきだと田中氏は語る。

「一般的に、人が企業に入ると『新卒一括採用→新人研修→組織内年功序列・昇進』という流れに乗ります。それにより組織内キャリアへの安心と依存が生まれますが、そこが問題です。依存が生まれるキャリアは閉鎖的なキャリアであり、イノベーションにはつながりません。社内兼業やポスティングなどオープンな状態のキャリアをつくることで、人はよりイノベーティブになっていきます。プロティアン・キャリアを形成し、挑戦・成長を応援する組織をつくることはCXにつながっていきます。この『キャリアを開いておく』ことと、人が辞めることはまったく異なる文脈です」

法政大学 キャリアデザイン学部 教授/一般社団法人 プロティアン・キャリア協会 代表理事 田中 研之輔氏
法政大学 キャリアデザイン学部 教授/一般社団法人 プロティアン・キャリア協会 代表理事 田中 研之輔氏

プロティアン・キャリアは、社会が抱えるキャリア課題の解決が図れる点にも特徴がある。「キャリア自律型=プロティアン」の人材育成は、性別・年齢・職位・勤続年数・規模にかかわらず可能だ。個人がいつからでも「自ら主体的にキャリア形成をする」と周囲に伝え、それが浸透することでキャリアトランスフォーメーションは促進されていく。

「実際に今、五つの商社がつくる商社組合で、自律型キャリアへの取り組みとしてプロティアン・セッションが導入されています。それほど世の中では、人材育成において地殻変動が起きているのです。今日参加されている方の中で、今も組織内キャリアや伝統型キャリアを行っているという企業があれば、優秀な人材が辞めていく、または獲れないという感覚をお持ちではないでしょうか。なぜなら、企業に在籍することで『キャリアの最大化、人的資本の最大化』ができると伝えたほうが良い人材が集まるからです。その意味でも、今、キャリアトランスフォーメーションが急激に起きつつあると感じます」

経済産業省の「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会報告書」でも、キャリア・オーナーシップを促す新人材戦略が示されている。そこには「人材マネジメントの目的:人的資本・価値創造」「アクション:人材戦略」「イニシアチブ:経営陣/取締役会」「ベクトル・方向性:積極的対話」「個と組織の関係性:個の自律・活性化」「雇用コミュニティ:選び、選ばれる関係」とあり、企業が個人のキャリアに寄り添うことの大切さが書かれている。

ここで田中氏は、これまでのキャリア論における三つの問題を提示した。

「一つ目は、なぜキャリア論は過去の分析ばかりを行うのか、ということです。もっと未来の構想について語るべきではないでしょうか。キャリアアンカーではなく、キャリアデザインについてもっと考えるべきです。二つ目は、キャリア論ではなぜ点の分析ばかりを行うのか。もっと線や面といった連続した分析を行うべきでしょう。三つ目は、経営戦略と人事戦略における時間的なズレです。どうすればこのズレをなくせるのでしょうか」

田中氏は、これらの課題に対する回答として「キャリア資本論」を提示した。

「組織の中で働くと何らかのキャピタルが貯まると考えれば、ビジネス資本も社会関係資本もキャピタルと捉えることで、主体的なキャリア形成ができます。それを企業が応援することが人材戦略となるのです」

また、プロティアンという言葉は形容詞であり、いろいろな人事テーマとつながることで、そこに新たな意味や価値が生まれる。その点にも魅力があると田中氏は語る。

「例えば、リーダーシップ、エンゲージメント、モチベーション、フィードバック、ダイバーシティ、ウェルビーイングなどとつながると、新たな意味を持ちます。変幻自在なリーダーシップとは何か。そう考えることで、新たな知見へとつながります」

では、キャリアについて人事はどのような支援を行うべきなのか。田中氏はポイントを三つ挙げた。一つ目は、強みを戦略的かつ徹底的に磨くこと。人事は強みに絞った視点から施策を発想する。二つ目は、キャリア・レバレッジへの中長期・分散型の自己投資を行うこと。個人でキャリアをしっかり開発できるよう、中長期・分散型で自己投資できる人事施策を組み込んでいく。例えば、手挙げによるチャレンジを応援するなど。三つ目は、自己を行動変容させ、関わり合う人・組織をキャリア開発すること。個人だけでなく、周囲や組織までも変えていく必要がある。

「キャリア自律やキャリア・オーナーシップを推進する企業事例をみると、売上が上がり、離職率が低下するなどポジティブな影響が出ています。企業に独自の強さが生まれ、しなやかさが増している。現在は、こうしたキャリア開発工程の定量的・定性的なデータ分析が行えるように準備しているところです」

今、企業に必要なのはこうしたキャリア戦略といえる。自社におけるキャリアブレーキは何かを特定し、キャリアアクセルの向上要因を特定して、キャリア自律型の組織づくりを行うことが求められているのだ。

「企業は個人をコントロールするのではなく、これからは個と対話し、個人のキャリアに寄り添っていく開発型の戦略が求められていると感じます。本日はどうすればこういった人材戦略が可能になるのかについて、皆さんのご意見をうかがいたいと考えています」

グループディスカッション1:キャリア自律型組織の現状。今、何が問題なのか

ここからは、四つのグループに分かれてグループディスカッションが行われた。一つ目のテーマは「キャリア自律型組織の現状はどうか。今、何が問題なのか」。ディスカッション後は、各グループで話し合われた内容が発表された。

【Aチーム】
カルビー株式会社 武田 雅子氏
JCOM株式会社 千田 貞文氏
株式会社日本M&Aセンター 有賀 誠氏(ファシリテーター)
株式会社ブリヂストン 江上 茂樹氏
株式会社メルカリ 木下 達夫氏
グループディスカッションAチーム

カルビー 武田:パターンは二つに分かれているように思います。人材が自らキャリアをつくりあげることのできる企業と、企業側からキャリアを与えられる企業です。その両方に共通するのは、上司からの囲い込みが人事のテーマとして挙がっていることです。当社では新たなキャリア施策として、若手社員が先輩社員のキャリアを知る場を増やしたり、カルビーでの仕事を副業として働くギグワーカーを採用したりして、社内に刺激を与えることを行っています。

ブリヂストン 江上:当社では社内公募制度に加えて、昨年からジョブマッチング制度を導入しています。これは、データベースに登録している社員の中から、募集ポジションの要件に合致する社員を人事が選定してオファーする制度です。選定にあたっては、シンプルなマッチングアルゴリズムを活用しています。対象ポジションは成長・探索といった新しい事業領域がメインですが、社員に新しいチャレンジの機会を提供することで、リテンションにもつながっていると考えています。

JCOM 千田:当社はタテが強い組織なので、より全社最適で適所適材の人事を進めるために、五つの業務領域において複数部門に跨るバンドを設定し、社員が自律的に成長できる仕組みとして、キャリアバンド制という環境をつくりたいと考えています。これから始めるところですが、人財の活性化につなげたいと考えています。

【Bチーム】
株式会社ゲオホールディングス 太田 克己氏
コニシ株式会社 松尾 孝治氏
積水ハウス株式会社 藤間 美樹氏(ファシリテーター)
株式会社Jストリーム 田中 潤氏
ノバルティスファーマ株式会社 口村 圭氏
グループディスカッションBチーム

積水ハウス 藤間:キャリア自律を行うには、いつ働いても自由、服装も自由、場所も自由などといった条件を整えないと意欲が湧いてこないのではないか、という意見がありました。また、異動によってキャリア形成を行っている企業もありました。人事主導で従業員をどんどん回し、企業のいろいろな面を知ることは良いことだと思います。他には、人事が異動やキャリア形成に注力していて、社員とまめにキャリアの話をしている企業もありました。企業側の指示で異動しても、社員にとってそれなりに満足度のある結果になっているそうです。一方、当社では異動があまりありません。今いるところが自分の希望であれば、仕事を追究することができますが、他に行きたいと思ってもなかなか困難な状況です。

ノバルティスファーマ 口村:当社にはジョブポスティングなど、手挙げで異動できる制度があります。ただし、外資とはいえ日本的なカルチャーもあって、手を挙げにくい雰囲気もあります。キャリア自律については会社から声をかけていますが、従業員は現状のままがよい人と、これからキャリア開発をしたい人とに分かれている印象です。

【Cチーム】
株式会社NTTデータ 矢口 武史氏
カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社 松浦 俊雄氏
株式会社湖池屋 八代 茂裕氏
コカ・コーラ ボトラーズジャパン株式会社 東 由紀氏(ファシリテーター)
三井情報株式会社 戸部 雅之氏
グループディスカッションCチーム

カルチュア・コンビニエンス・クラブ 松浦:キャリアの自律性は重要だけれど、なかなか希望に合った異動をさせてあげられない、公募制度があって手を挙げてもなかなか希望の仕事を任せてもらえない、といった課題が聞かれました。そういう状況の中で、将来に向けてどうやって従業員にモチベーションを持たせていくのか、特に中高年の社員にどのように未来を感じてモチベーションを保ってもらうのかが課題だという話もありました。

個人がスペシャリストとしてのキャリアを選択することに対して、企業がどう向き合うかも課題だと思います。また、職種が増えてくると、社内にどんな仕事や役割があるのかが見えにくくなり、その結果、キャリア選択が難しくなるとの声もありましたが、一方で外資系の企業では、ジョブディスクリプションやキャリアパスが整理されてオープンになっていることが一般的との事例もご紹介いただきました。

施策として、キャリアデザイン研修を始めた企業では、満足度が上がる一方で、部下側の一部の層では希望が叶うことが難しいと考えていたり、冷めていたりするとの傾向もあるそうです。そのような状況では、メンバーに自らの話をしてもらうことが大事ではないかという声がありました。また、上司のキャリア支援力を測定している企業もあるなど、各社がさまざまに工夫していることがわかりました。キャリアの多様性が広がる中で、上司側も試されているのではないでしょうか。

【Dチーム】
スターバックス コーヒー ジャパン 株式会社 下青木 聖子氏
テルモ株式会社 竹内 寿一氏
日本マクドナルド株式会社 落合 亨氏
Facebook Japan株式会社 佐々木 丈士氏(ファシリテーター)
株式会社三井住友銀行 樋口 知比呂氏
グループディスカッションDチーム

Facebook Japan 佐々木:キャリア自律における課題のキーワードは、三つあると思います。一つ目は、社員のマインドセットです。全員が自律的ではなく、企業に依存している人もいます。二つ目は、自律を促す人事制度があるかどうか。三つ目は、人事権のありかです。これまで企業側が持っていたものをどのように現場に移行していくかが問題です。社員のマインドをどう変えるかという観点では、各社がいろいろな施策を行っていました。

三井住友銀行 樋口:人材育成ビジョンを策定し、人材育成施策と結び付けて展開することを意識しています。具体例として従業員に異動概要の説明を、データを交えてイントラネットに掲示しています。そうすることで人事制度の趣旨であるチャレンジを応援する取り組みであることや、人事の透明性を丁寧に伝えています。こうしたことを続けていくことによって、自律的なキャリアを考える人が増えいくことを期待しています。

スターバックス コーヒー ジャパン 下青木:転勤によって経験を積み、ポジションをあげていくことが一般的ですが、いかに転勤という経験によらない、店舗社員のキャリア開発を実現していくかが重要なテーマだと考えています。簡単ではありませんが、これからチャレンジしていきたいと思っています。

日本マクドナルド 落合:一つ疑問に思っているのは、企業としてキャリア自律を推進していくうえで、中高年の全員にキャリア自律を訴えることにどのような効果があるのか、ということです。

グループディスカッション2:これからのキャリア自律型組織はどうあるべきか

次に田中氏は、キャリア自律組織における活動のポイントについて語った。

「伝統的な企業と新しい企業では、キャリア自律の意味が違います。方向性としていえるのは、組織の中の人材開発と考えるのではなく、未来志向型で個人のポテンシャルをしっかりと高めることを目標にするべきだということです。そのために組織がどう支えていくかを考えます」

田中氏は、キャリア開発の課題として、「経営者の理解・関心が低い」「人員・スキルの不足」「社内の理解・関心が低い」「時間・コストの問題」「組織風土の問題」「その他(支援後の離職など)」の六つを挙げた。

「キャリア形成と聞くと個人のものと考える人が多いのですが、中長期でみたときに個の人材をどこまで伸ばすかという点では、戦略性が大事ではないでしょうか。これからのキャリアは、行動変容の機会を与えることが重要です。そこで必要になるのは、セルフキャリアドッグで自らを知ることです。そのうえで人事の皆さんが、業員の働き方と生き方を見据えながら施策を行っていくことが、大事なポイントになります。それでは続いて、これからのキャリア自律型組織はどうあるべきかについて話し合っていただきたいと思います」

ここでメンバーを変えて2回目のディスカッションを実施。ディスカッション後は、各グループで話し合われた内容が発表された。

【Eチーム】
カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社 松浦 俊雄氏(ファシリテーター)
株式会社ゲオホールディングス 太田 克己氏
コカ・コーラ ボトラーズジャパン株式会社 東 由紀氏
スターバックス コーヒー ジャパン株式会社 下青木 聖子氏
日本マクドナルド株式会社 落合 亨氏

ゲオホールディングス 太田:共通していたのは、経営戦略はどんどん変化するが、それに合わせたビジネスモデルと組織があり、そこにキャリアがアサインされるべき、ということでした。組織との整合性があって、戦略的に人事を行わなければダメだということです。優先順位が高いのはアセスメントのプランニングや、規模の大きい企業ではハイポテンシャル人材から順次行うことでした。

また、当社のように全国に店舗を持つ企業では、異動しないキャリアを選ぶ人と、どこでも異動できる人とに分かれます。企業としては異動してくれる人の方がキャリア形成を支援しやすい側面があります。キャリア形成については、各社それぞれに悩みがあると感じました。

【Fチーム】
カルビー株式会社 武田 雅子氏
株式会社湖池屋 八代茂裕氏
コニシ株式会社 松尾 孝治氏
テルモ株式会社 竹内 寿一氏
ノバルティスファーマ株式会社 口村 圭氏(ファシリテーター)

ノバルティスファーマ 口村:企業が新しい挑戦をするときは、新しい人材が必要になります。そのために若手を育成するという流れが一般的だと思いますが、単純に本人の希望だけを叶えるシステムで終わってしまうと、意外性は生まれません。変化を起こし、マッチング力や適応力のアップなどを図るべきです。そのデータを蓄積し、うまくいった例などはロールモデルとすることも大事でしょう。個人の意向の把握と企業戦略をうまくアラインさせることが、人事の役割ではないでしょうか。

もう一つ、ただ人のマッチングを行うだけではなく、「人事がわかってくれている」という安心感を社員に与えることも大事です。そのためには、事前の対話が重要になってくる。日本企業はよくフィードバックが下手だと言われますが、それでは社員は気づきが得られないし、フィードバックがないまま異動すると疑心暗鬼に陥ってしまうかもしれない。この点はキャリア自律に向けてクリアすべき課題だと思います。

コニシ 松尾:双方向のコミュニケーションをより強化して、個人の意向や資質を会社として十分に把握しておく必要があると思っています。そのうえで組織の成長戦略とどのように融合していくか。本人が気づいていないような適性を企業が見出すことができれば、その人が考えてもいなかった新しい分野で素晴らしいパフォーマンスができるかもしれない。また、自律型キャリア形成においては、選択できる一方で、自身が選び取ったキャリアに対する個人の覚悟も大切だと考えています。

テルモ 竹内:私は、人材育成においてポイントが二つあると思います。前提としてビジネスの成長にはチャレンジが必須であり、その文脈での一つ目は、上司が部下をしっかりと見ていること、チャレンジする人にスポットを当て、上司および組織が支援することが必要です。二つ目は、人事の役割として見える化し、全体最適を考えること。支援するには、本人のことを本人以上に知っていることも重要です。

湖池屋 八代:この4月に立ち上げたのですが、若手に10年で3部署をローテーションしてもらう方針で、本部横断の人材育成プロジェクトを結成し、人事を人事部に集中させない仕組みを作りました。若手のローテーションはこのプロジェクトメンバーで話し合い、公明正大・全体最適を目指しています。同時に自分自身で異動先を決めるための社内公募も頻繁に行っています。一方、若手を抜擢することで中高年にもキャリアに対する自覚を促し、奮起してもらおうという試みも行っています。

【Gチーム】
株式会社NTTデータ 矢口 武史氏
株式会社Jストリーム 田中 潤氏(ファシリテーター)
JCOM株式会社 千田 貞文氏
Facebook Japan株式会社 佐々木 丈士氏
株式会社メルカリ 木下 達夫氏

Jストリーム 田中:人と組織がフラットな関係にあることが、キャリア自律の大前提としてあります。「自律型キャリアを与える組織は成長体験装置ではないか」という意見がありました。要するに、仕事で体験することが価値になるということです。企業にいる価値は人によって異なります。そこを企業として把握する仕組みが必要です。従業員の状況をみるという点では、サーベイの活用が有効だという意見が複数ありました。

社員には自律を求める人とそうでない人がいますが、同じ仕事を続けたい人に自律意識がないかというと、そうではありません。いろいろな工夫をしながら仕事を深めている人も、自律しているといえます。しかし、そのようなタイプの人と、組織に依存する人は紙一重であり、それを区別することは難しいという意見がありました。また、個人の満足と企業側がどうしたいかには、ギャップが出てきます。そのギャップを埋めるためにも、自律型組織はかなり広い層に向けて行うべきではないかという意見がありました。話してみて、日本には二つの組織があると感じます。自律という言葉が自然な形で導入されている企業と、そうでない企業です。それによって、自律型組織という言葉の意味するものが大きく異なっているように感じました。

【Hチーム】
積水ハウス株式会社 藤間 美樹氏
株式会社日本M&Aセンター 有賀 誠氏
株式会社ブリヂストン 江上 茂樹氏
三井情報株式会社 戸部 雅之氏
株式会社三井住友銀行 樋口 知比呂氏(ファシリテーター)

三井住友銀行 樋口:キャリア自律を行う上で大事なのは戦略です。最終的にはキャリア資本の蓄積は重要です。そこに至るまでの一つ前のステップは「行動」を起こすことです。二つ三つの強みがあると、人材の価値が高まります。そして、行動変容を起こすために行うべきことは、1on1とキャリアコンサルティングといった、コミュニケーションの基盤を整えることです。これらを受け入れやすくなるような組織風土に変えていくことも必要です。キャリア自律とは戦略であり、こうした流れをストーリー仕立てにして、場を提供し、一気通貫の施策を行うことが大事だと思います。

積水ハウス 藤間:当社ではキャリア自律支援を行っていますが、上司と部下でキャリアを語ることが重要だと思っています。1on1をキャリア面談と言っていますが、その目的として掲げていることは「社員を幸せにしよう」ということです。

日本M&Aセンター 有賀:私は、キャリアは戦略論だと20年前から思っていました。社内研修では、ポーターの戦略論をキャリアに当てはめて考えよう、とよく言っています。具体的には、”5 Forces” に則った「自分の顧客は誰か」「自分のサプライヤー(支援者)は誰か」「自分を脅かすのは誰か」といった考察です。また、”Value Chain” に従って「強みを二つか三つ持て」とアドバイスしていますが、これはまさにキャリア資本の蓄積ということになります。外部環境(人材ニーズ)と内部環境(自分の強み・弱み)を認識した上で、自身のマーケット・バリューを維持・増大していくという考え方が大事だと思います。

ブリヂストン 江上:戦略との関係性において、事業とキャリアをつなげてストーリーをつくることが大事ではないでしょうか。事業実現の舞台とキャリア実現の舞台は同じだ、と。その舞台にフィットする人を探してくることが最初のステップであり、それをデジタルとリアルの融合で実現することが必要と思っています。デジタルによる適性の可視化を通じて、社員本人にも適性がある部門を提示することが、自らがどんなチャレンジをしたいかを自分で考えるきっかけになるのではないかと考えています。

三井情報 戸部:IT企業では、安定のつもりがつい依存になってしまいがちです。うまく変化に乗れる人、会社に依存してしまう人の双方を巻き込んで、行動変容させる組織をどうつくるかに取り組んでいます。

全体ディスカッション~「キャリア自律型組織」の実現に向けて

最後に参加者全員によるディスカッションが行われた。

第15回「日本の人事リーダー会」レポート

三井住友銀行 樋口:田中先生に質問です。セルフキャリアドッグを行うにあたって、企業の導入で障害となるような難しいこととは何でしょうか。

田中:失敗でよくあるのは、経営戦略とセルフキャリアドッグの方向性がずれていることです。人的資本を最大化させていくことが大事ですが、そのベクトルにキャリアドッグを乗せていく必要があります。そのためには、経営トップの直轄部隊をつくるなどの施策が必要です。

Facebook Japan 佐々木:私は直属の上司が一番のメンターであり、コーチであると思っています。そのため、上司の能力を継続的に向上させていくことが重要と思います。マネジャーにキャリアガイダンスの能力を付けていくには、どうすればよいでしょうか。

田中:マネジャーへの個別のキャリアガイダンスは、人事でも手が回っていない領域だと思います。良いマネジャーは勝手に育っている状態です。人事同士でどのように工夫しているのか、情報交換を行うことが必要ではないでしょうか。

日本M&Aセンター 有賀:上司が良いメンターであるためには、そういう人材をそのポジションに就けるようにする必要があります。当社では社長を含む経営陣と握り、数字を上げた人には報酬で報いる、それに加えて、人材育成に努力したりリーダーシップを発揮できたりする人だけをマネジメントに昇格させることにしました。「営業成績がよいだけでは部長にはなれないんだ」という理解が広まり、それが組織文化になりつつあります。毎月の部長会でも、ほぼ全員がビジネス上の戦略や施策と併せて、人材育成や組織強化について語るようになりました。

ノバルティスファーマ 口村:当社ではフィードバックの研修を行っています。今年からノーレイティングを導入しており、小まめにチェックインをするためのスキルを磨いています。仕事だけでなく、キャリアやライフまで話すようにしていますが、こうした対話の仕方を学ぶことも大事だと思います。

ブリヂストン 江上:一つもやもやしていることがあるのですが、中にはキャリア自律をまったく考えない社員もいます。企業が主導する形でいいという人もいますが、その人のことはどうお考えですか。

田中:キャリア自律とは、変幻自在なことをやり続けるだけではありません。目の前の業務に肯定感を持ちながら、仕事を全うできることも良いことだと思います。それは「やらされキャリア」とは異なるからです。良くないのは、定年までの逃げきりだけを考えているような人です。そういう人にキャリア自律の意義を伝えることが、これから人事の役割になるでしょう。そうすることで、組織風土も良くなります。

スターバックス コーヒー ジャパン 下青木:4年前から、キャリアについてのワークシートを書いて、それを基に上司と部下が年4回面談を行っています。うまく運用していくには、どうすればいいでしょうか。

田中:過去のキャリア実績について棚卸しをするだけでは、これからのキャリア形成には合いません。現在のキャリア論のトレンドは、未来への構想をしっかりと描くことです。面談では上司がそのことをしっかりと認識しておく必要があります。

最後に田中氏が今回の議論をまとめて、「日本の人事リーダー会」は終了となった。

法政大学 キャリアデザイン学部 教授/一般社団法人 プロティアン・キャリア協会 代表理事 田中 研之輔氏

田中:組織内キャリアでもいいと思いますが、私はそこに滞留してキャリアプラトーのようになっている人たちをいかに減らしていくかが、これからの人事の方々の一つの使命だと思っています。その突破口として、今日皆さんと考えた自律型組織や自律型キャリアが有効施策であることは間違いないでしょう。

とはいえ、企業ごとに事業の特性やこれまでの事業成長にかかってきた時間軸、今置かれている市場の中での特性といったものがありますから、どういう人が社内にいるのかをよく踏まえて戦略を立てることが大切です。自律型組織を成功させるただ一つの答えというものはありませんが、全体的な知見は、今日皆さんと共有できたと思います。そのうちのどの部分が自社には刺さるのか、どの部分を優先的に行っていくのかを中長期的に戦略として設計し、ぜひ企業を盛り上げていってほしいと思います。本日はどうもありがとうございました。

■ファシリテータープロフィール

田中 研之輔氏
田中 研之輔氏
法政大学 キャリアデザイン学部 教授
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矢口 武史氏
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落合 亨氏
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