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掲載:2018.11.19

2018年9月開催 HRコンソーシアム全体交流会 レポート
「新しい人事課題とこれからの人事の役割を考える」

人事の、人事による、人事のためのオープンプラットフォームである、「日本の人事部HRコンソーシアム」。その第4回の「全体交流会」が、2018年9月21日に100名を超える会員が集まって開催された。交流会のテーマは「戦略人事」。「新しい人事課題とこれからの人事の役割を考える」と題し、法政大学大学院・石山教授、サイボウズ・中根氏、日本郵政・伊藤氏による課題提起をもとに、参加者全員でディスカッションが行われた。新たな人事課題とは何か。どのように戦略人事を進めるべきか。人事はこれから経営に対し何をなすべきか。当日の様子をレポート形式でお伝えする。

プロフィール

法政大学 キャリアデザイン学部 教授 石山 恒貴氏(いしやま のぶたか) 一橋大学社会学部卒業、産業能率大学大学院経営情報学研究科経営情報学専攻修士課程修了、法政大学大学院政策創造研究科政策創造専攻博士後期課程修了、博士(政策学)。一橋大学卒業後、NEC、GE、米系ライフサイエンス会社を経て、現職。越境学習、キャリア、人的資源管理等が研究領域。人材育成学会理事、NPOキャリア権推進ネットワーク授業開発委員長、フリーランス協会アドバイザリーボード。主な論文:Role of knowledge brokers in communities of practice in Japan, Journal of Knowledge Management, Vol.20 Iss 6,2016. 主な著書:『パラレルキャリアを始めよう!』(ダイヤモンド社、2015年)、 『越境的学習のメカニズム』(福村出版、2018年)他。
サイボウズ株式会社 執行役員 事業支援本部長 中根 弓佳氏(なかね ゆみか) 1999年、慶応義塾大学(法学部法律学科)卒業後、関西の大手エネルギー会社に入社。2001年、サイボウズ株式会社に入社。知財法務部門にて著作権訴訟対応、契約、経営、M&A法務を行った後、人事においても制度策定や採用を中心とした業務に従事。法務部長、事業支援本部副本部長を歴任し、財務経理などを含め、これら全般を担当する事業支援本部長に就任。2014年 8月より執行役員 事業支援本部長に就任(現任)。
日本郵政株式会社 総務人事部門 人事部 企画役 伊藤 伸也氏(いとう しんや) 1981年郵政省入省、郵政事業庁、日本郵政公社を経て、2006年郵政民営化準備企画会社へ出向、プロジェクトリーダーとして郵政グループ個人情報保護体制を構築、2010年日本郵政株式会社経営企画部門担当部長、2012年からグループ社風改革(組織風土改革)に取組み、2013年社風改革推進室室長、2015年日本郵便株式会社へ兼務出向、人事部JPスタイル推進室室長 (兼) 日本郵政株式会社経営企画部門お客さま満足推進部企画役、2016年より現職。組織風土改革、自己変革・マインドセット、働き方改革、ワーク・ライフバランス、ダイバーシティ、顧客戦略、ホスピタリティなどをテーマに社内及び他企業で多数講演、ワインセミナー講師(日本ソムリエ協会)や大学講師も務めるなど多方面で活躍中。

石山氏によるプレゼンテーション:現場に密着した戦略人事を実現するには

石山氏はまず、厚生労働省「働き方の未来2035」にある言葉を紹介した。

「この中に『2035年には企業という枠は溶け、働き方はミッションや目的が明確なプロジェクトの塊になる』とあります。そうなると社内も社外もプロジェクト化し、少数のグループで大きなことができるようになる。いかにプロジェクトとしてうまく動けるかに焦点は移っていきます。そうなれば働き方や学び方は、劇的に変わらなければならない。しかし企業も労働者も、いまだに日本型雇用を支持しているのが現実です」

各種データをみると、就業者に占める雇用者の割合が増え、若い世代には終身雇用を支持する人も多い。人事も、日本の雇用制度が欧米と異なるのは当然であり、相変わらず従業員の生活を保障するのが企業の務めだと考えているケースが多い。

「時代環境の変化を踏まえつつ、各社のユニークな競争優位を築く経営戦略に貢献することこそ戦略人事です。しかし、実際に日本企業で戦略人事が機能しているかというと、決してそうではないようです。『人事白書2018』をみても、人事部門は経営戦略の意思決定に関与しているとはいえず、経営戦略実現に向けて採用、配置、育成もできていない。多くの人事部門は、いまだに管理業務に追われている状況にあります」

では、これから現場に密着した戦略人事となるために人事は何を学ぶべきなのか。

「人事というポジションのよい点は、事業がビジネスという理屈で動きがちな中において、人というサイドから意見ができることです。人を軸に、唯一事業にブレーキをかけられる人たちなのです。そのためにも経営のパートナーになるべきであり、社内のタレントを知らなければいけません」

法政大学 石山 恒貴氏 photo

ここで石山氏は、ミシガン大学のデイビット・ウルリッチが提唱した、これからの人事の四つの役割を紹介した。「戦略パートナー」「管理エキスパート」「変革推進者」「従業員チャンピオン」だ。

「人事は管理だけが仕事ではありません。これら四つの機能を満たすには、人事が多くを学ばなければいけない。いま人事にはリカレント(生涯学習)が求められており、欧米でも学びに力が入れられています」

石山氏は、これからの人事に求められる要素として、「経営と対峙し貢献する」「現場の意見をくみ上げる」「一般社員の気持ちに寄り添う」「専門家としての価値を発揮する」「ファシリテーターとして社員が当事者となる変革を推進する」「自分なりの価値観を持つ」をあげた。

「これらの学びは社内では限界があり、社外に求める必要があります。社外で多くの人と議論、対話してこそ得られるのではないでしょうか」

中根氏によるプレゼンテーション:変化する人事と組織 サイボウズの事例

グループウェア事業を展開するサイボウズは、従業員数約800名。そのうち女性が4割を占めている。同社の特徴の一つは、企業理念を毎年変えることだ。

「2018年バージョンは『チームワークあふれる社会を創る』『チームワークあふれる会社を創る』と、近年はチームワークを重視しています。当社は2005年当時、離職率が28%でしたが、さまざま改革を行った結果、現在は離職率が4%まで下がっています」

中根氏は、企業理念を変えたことが大きかったと語る。以前の理念は「情報サービスを通して、世界の豊かな社会生活を実現する」というもの。この理念に社員は何の思いもなかったのだ。

「退職せずに会社に残った人たちから話を聞くと、仕事で社内外の誰かに喜ばれた経験がある人が多かった。そこからチームワークという言葉に行き着きました」

サイボウズはその後、働き方の選択肢を拡大。場所や時間を問わない働き方や副業の自由化、再入社制度などを取り入れていく。人事制度の方針は「100人いれば100通りの働き方」だ。

「人事が制度を決めるというより、『あなたがどう働きたいのか』と社員に聞き、それを可能な限り実現してきました。従業員一人ひとりの個性が違うことを前提に、それぞれが望む働き方や報酬が実現できればよいと考えたんです。公平性より個性を重んじて、一人ひとりの幸福を追求しました」

サイボウズが、社員の自由を保証するうえで大事にしていることが二つある。「公明正大」と「自立と議論」だ。

「『公明正大』は、ウソをつく人、情報を隠す人がいると多様性のある組織が運営しにくくなるためです。『自立と議論』は、せっかくいろいろな人が集まったのだから、知恵を集結させたい。そのため議論時には、メンバーに質問責任と説明責任を徹底させています」

サイボウズ株式会社 中根弓佳氏 photo

ただし、「個人戦」ばかりでは多様な働き方をするメンバーを活かすことはできない。そこで「チーム戦」のための制度やツール、風土を整えている。人事の制度改革では、「個人」と「チーム」という両輪を回すことを意識して行っている。

「『個人』は、価値観の多様化により一律の働き方では幸福度が低下します。多様な価値観に合わせ選択肢を用意し、個々が主体的に選択できるようにしなければならない。するとモチベーションが高くなり、個人の幸福へとつながります。ただし、多様化した働き方を活かすには、活動を『チーム化』する必要があります。そこで情報を見える化、共有化し、継続性や生産性の向上、ひいてはイノベーションにもつながっていると思います」

伊藤氏によるプレゼンテーション:自律型組織風土を創るJPグループの改革

JPグループは150年近い歴史を持ち、従業員数は42万人を超える大企業である。そこにはどのような社風があるのか。社風改革を行う際に実施したアンケートでは、「改革したいけど自分一人では無理」「みんなと違うことをすると白い目で見られる」「どうせやっても無理。変わらない」といった声が聞かれたという。

「まさに『言われたことをちゃんとこなす』、いわゆる大企業病といわれる風土でした。しかし、このままでは今の劇的な変化にはついていけないと考え、社風改革に踏み切りました」

2013年度に、グループ内から社風を変えるプロジェクトへの参加者を役職や経験年数など関係なしに募ったところ、全国から5,000人を超える応募があり、その中から「JP100人プロジェクト」が結成された。

「当時、現場で起きていることがなかなか経営層には伝わらない、逆にトップの想いが現場末端まで伝わらない、という状況でしたので、彼らには経営幹部と社員とのパイプ役となってもらいました。2014年度には活動を広げ、メンバーがさらに主体的に取り組める環境にするため、支社ごとにも100人プロジェクトを結成しました」

具体的にどのような改革が行われ、社員の主体的な行動が生まれたのか。例えば、大分のある郵便局では「Myぞうきんで埋蔵金」と銘打ち、社員が自分の雑巾で職場事務室やロビー、郵便ポストなどを清掃。郵便局をきれいにすることでお客さまに来ていただき、家庭にある「埋蔵金」を郵便局へ、という活動を行った。2015年3月には、社風改革についての全国の活動を特集した記事をまとめたグループ報(臨時増刊号)を発行。グループ各社トップからの熱いメッセージを掲載し、全社員に配布された。

また2015年度には、これまでの活動をステップアップさせ、社風改革を推進するための基本理念にしようと社員の主体的な行動を促進させる「JPスタイル」を策定した。

「JPスタイルとは『社員一人ひとりがプライド(誇り)、お客さま視点、主体性を持ち、トライ(挑戦)する』ことです。挑戦する社員と組織風土を創造し、社員一人ひとりの生産性の向上につなげることを目的としています」

そして、この社員の主体的な活動の後押しとして、褒める文化の醸成「ほめ活」も開始した。

「これは、結果ではなく、社員の主体的な行動を褒め称えるという活動です。行動を起こしたことやプロセス、頑張りを褒め、失敗はとがめない。郵便局の中には、褒める内容をカードに書いてわたす『ほめほめカード』を実施するなど、社員自らが主体的に考え工夫した、いろいろな形の褒める活動が全国の郵便局で広がっており、職場が明るくなってきたと好評です」

日本郵政株式会社 伊藤伸也氏 photo

また、それと同時に「主体的に考え行動する」「自律成長型社員を一人でも多くつくる」ことをベースに、「働き方も自ら選んでいく」「社員自ら働き方をデザインしていく」といったJPスタイルによる働き方改革が実施されている。

「例えば、『8時間集中DAY』の取組では、社員が8時間集中して仕事に取り組み、時間内に仕事を仕上げて帰る日を、週2日以上つくるようにしました。以前の形骸化された定時に退社する日ではなく、社員の主体性によって働き方を変えていこうというものです。このように、さまざまな施策によって、2016年度→2017年度で、超勤時間(残業時間)を約9万3300時間削減、社員一人あたりでは、平均64時間削減することができ、人件費にすると約2.8億円削減、社員一人あたりでは18万円削減と、大きな成果が出ています」

パネルセッション:個人が主体性を持ち、チームとして総合力を発揮するために人事は何をすべきか

石山:個人が主体性を持ち、そのうえでチームが総合力を発揮するために、人事は何をすべきでしょうか。

中根:風土づくりが大事だと思います。個人がいきいきと泳げるような環境をつくり、その人たちが気付きを得られる風土をつくる。そのためには個人に仕事を押しつけるのではなく、自ら動ける雰囲気をつくることが重要です。いかに会社に共感してもらい、会社に対してポジティブになってもらうか。人事はそういう場をつくることに徹するべきだと思います。

石山:急に方向転換すると、社内で混乱が起きませんか。

中根:そうならないために、大事なことがあります。きちんと情報を伝えることです。個人は情報がないと、主体的に動けません。一方で、情報を得るとたくさんの気付きを得ることができます。それによって考える習慣が付き、「次はこのやり方がいい」と自ら選択するようになります。社員がうまく実行できるようにサポートすることが人事の役目なのではないでしょうか。

石山:具体的には、どのような支援を行われていますか。

中根:情報の流通は人事だけではできないので、経営企画部門が行ってくれています。当社では経営企画会議の内容も公開しており、どういう経緯で物事が決まったのかがわかります。情報に関わる部門を巻き込むことが大事です。

伊藤:サイボウズさんには変化を望む人が多くいらっしゃるように思いますが、弊社には安定を望む人が、まだ多い。そのため、まずは変化することを良しとする風土を育てなければいけない。そこでポイントになるのは、人事部が変わることです。これまでの人事は制度をつくることが主な仕事でしたが、あまり良い言い方ではありませんが、私は「もう制度屋は止めよう」と言っています。これからは経営企画だけでなく、人事が変革のリーダーシップを取るべきだと考えています。

パネルセッションの様子

中根:私が講演するとよく「サイボウズだから改革ができたのでは」と言われます。理由を聞くと「企業規模が大きくないから」「IT企業だから」「社長が改革に積極だから」。たしかに、今の段階では規模が大きくないので変革のスピードが速かった面はあると思っています。伊藤さんにお聞きしたいのですが、大企業になっても改革に前向きでいられるためには、何が必要ですか。

伊藤:今、サイボウズにある変化を求める風土を大事にすることではないかと思います。会社がどんなに大きくなっても、これは大切に守っていくことです。私は「失敗をどんどんやろう」とよく言っています。失敗からしか学べないのだから、トライ&エラーを何度も心を折らずに、繰り返していく。そういう風土になっていかないと、良い打開策も生まれません。

石山:お二人は現場で変革を実践されていますから、いろいろな苦労があったかと思います。うまく変革を行うコツはありますか。

伊藤:部署ごとにさまざまな変革に挑戦していますが、なかなか長続きしないのも事実です。企業はすぐに成果が見えないとなかなか動いてくれません。そこで、人事部が改革に挑戦して成功事例をいくつもつくり、それを社内に発信するようにしています。成果が出れば、この取組を実施していくことに誰も文句を言いません。役員には「試験的に人事で試させてほしい」とトライアルであることを理解してもらい、いろいろな取組を始めています。大切なポイントは、初めからすごく大きなことに挑戦するのではなく、小さく始め、それを育てていくことです。「これぐらいなら負担にならないし、やってもいいかな」と思わせること。「うわぁ大変、そんなことやるの、面倒臭い」と思うような取組は避けることです。私の経験上。変化を積極的に求める風土がない組織では、失敗してしまいます。最初は、社員の負担にならない許される範囲の規模で始めて、それがうまくいき始めたら、その内容を広めていく、といった手法の方が効果的だと思います。

グループディスカッション:これからの人事に求められるものとは

グループディスカッションの様子

次に参加者がテーブルごとにわかれ、ディスカッションを行った。テーマは「個人が主体性を持ち、その個人が集ったチームとしても高い生産性をあげる。そのような状態を実現するために人事は何をすべきか」。ディスカッション終了後は、数名が代表して話し合った内容について発表した。

カリスマ的なトップがいたり、創業者が有名だったりすると、トップダウンの風土が強く、これを変えていくのはなかなか難しいという声がありました。また、グローバル展開を行う企業では、日本側の考え方をどこまでグローバルに持っていくか、またグローバル側の考えに寄ってしまうのか、その加減が難しいという意見もありました。日本で全国展開を行う企業からは、地域別といった性質も考慮しながら人を管理する難しさがある、という声が聞かれました。
共通していた課題は、個人にしてもチームにしてもパフォーマンスの測り方が難しい、ということでした。個人の自由度が高まる中でそれをどう測るのか、個人のパフォーマンスは何をもって成果とするのか。その一つの答えとして、マネジメント層の育成が課題になるのではないか、という意見がありました。
現在、多様な働き方に応えるために、人事はいろいろな制度や施策を用意しています。しかし、それが本当に生産性の高さにつながっているのかが明確にわからない。この点が問題ではないか、という声が聞かれました。

最後に登壇者一人ひとりからコメントがあり、交流会は締めくくられた。

グループディスカッションの様子

中根:個人の成果を数値化することは、本当に難しいことです。当社は個人ごとの働き方や評価法がさまざまあることから、テーブルに乗せて細かくチェックするといった査定は廃止しました。会社への貢献度とその人の市場における相場を考え、総合的に決めるというやり方になっています。正直、実際には個人の自由とその人のチームへの貢献が両立しないこともあります。その場合は、一時的にどちらかの目標を下げることもある。また、個人の給与も上げるばかりでなく、思い切って下げるといった判断も必要です。チームとしての理想を優先し、それに対して価値で評価する。私たちも日々苦悩しているところです。

伊藤:風土改革をやっていくなかで難しいのは、頑張って取組んでいても、目に見える形で成果が見えてこないことです。成果を「見える化」するのは、永遠の課題ですね。よくKPIといわれますが、これも基準設定が難しく、逆に評価基準を設けたことで、それが目的になってしまい、本人の主体性を阻害する可能性もあります。例えば、顧客満足度で会社を評価する手法もありますが、これも環境の中でどんどん変わっていきますし、なかなか固定化できない。また、満足度が高ければ、お客さまの購入につながるとも限らない。いかにKPIに代わるものを見つけるかが課題ではないかと思います。

石山:会社は個人の成果を客観的なKPIで正しく測りたい。なぜ測りたいかといえば、個人を成長させ、その人の給与を決めたいからです。でも個人が成長して給与が決まりさえすればいいのなら、客観的なKPIをあきらめるという考え方もあります。人事の世界には議論できるポイントがまだ数多くありますが、それだけに変われる可能性が大きいともいえます。ぜひ皆さんでいろいろな議論をしていただきたいと思います。本日はありがとうございました。

第2部:懇親会

会合終了後には、懇親会を実施。引き続き活発な意見交換が行われた。

HRコンソーシアム 懇親会の様子 HRコンソーシアム 懇親会の様子 HRコンソーシアム 懇親会の様子 HRコンソーシアム 懇親会の様子