アゲンストの風はイノベーションの予兆――
国内シェアNo.1の「奉行シリーズ」はなぜ生まれたのか

「変人」は褒め言葉!?　経営の本質をとことん追い求めたい

和田社長は、「勘定奉行」をはじめとするPC用の基幹業務パッケージソフトを開発され、日本企業の経営効率化に大きく貢献された先駆者であり、まさにイノベーターです。そうした資質や条件について、自己分析していただけませんか。

長所なのか、短所なのかはわかりませんが、ちょっとしたことでも「おかしいな、どうしてだろう」と思う好奇心と、それを自分の頭でとことん考え抜く頑固さは子どもの頃から際立っていたと思います。みんなが当たり前と思っていることも疑ってかかるし、いったん問題に気づくと、人から「それはこうだよ」と説明されても、簡単には納得しません。納得してしまったら、そこで終わりですから。

頑固というか、こだわり屋というか、「もっと別の方法はないのか」とか「そもそも本来はどうあるべきなのか」と、どんどん突き詰めて考えてしまう性格は今も変わりませんね。自分がイノベーターと言えるかどうかはわかりませんが、世の中に新しい価値を提供しようという人には多かれ少なかれ、そういう傾向があるのではないでしょうか。

現に「勘定奉行」の開発も「会計システムが1000万円もするのはおかしい」と、当時の常識を疑うところから始まったわけです。そこをおかしいと思う人と、思わない人との違いは何でしょうか。

そうですね……私の場合は教育の影響かもしれません。家庭も学校もかなり自由な環境で、やりたいことをとことんやらせてもらえたというのは大きかったですね。たとえば中学の頃は鉱物の魅力にとりつかれて、全国各地を巡って石拾いばかりやっていました。日本最古の岩石といわれる「ザクロ片麻岩」という石を探しに飛騨山地を登ったり、長瀞（ながとろ）や吉野川の河原を歩いたり。珍しいのを見つけたときは本当に感動します。採った石を部屋にずらっと並べてコレクションしていました。周りが見たら、ただの変人かもしれませんけどね（笑）。そんな調子ですから、やっぱりモノの見方にも人とは多少違うところがあるのでしょう。気づきというか、問題意識というか、とにかく人が引っかからないところに引っかかるのです。

「人の引っかからないところに引っかかる」ということは、その気づきや問題意識が周囲には理解されにくいということでもありますね。

おっしゃるとおりです。経営に関して、自分の中で引っかかることが生じたとき、その問題に手を打とうとすると、たいてい社内にアゲンストの風が吹きます。みんなにはまだ、そこまでの危機感や問題意識がないからでしょう。今となっては信じられないことですが、かつて弊社に社員教育を導入しようとしたときも猛反対を受けました。研修の講師に反発して、途中で帰ってしまう社員までいたのですから。

組織の中で正しいことを正しくやろうとすると、変化を怖れ、現状に安住していたい人は必ず抵抗します。しかし私が経営者として33年間もやってこられたのは、そこで妥協せず、あえてアゲンストの状況をつくり出し、一つひとつの問題を粘り強く解決しようと心がけてきたからかもしれません。社員教育の件でも、もしあのとき、私が社内の反対に押し流されていたら、OBCはとっくの昔に失速していたと思います。真のイノベーターは、逆風でもけっして信念を曲げない――言いかえれば、どこまで孤独になりきれるかということでしょう。

社長は今、孤独でいらっしゃいますか？

考えたこともありません。それが当たり前だと思っていますから。最後は自分独りで決断して、その責任を背負うのがトップの宿命でしょう。だからこそものづくりとは何か、顧客満足とは何か、社員の幸福とは何か、経営の本質をとことん考え抜いて正しい答えを出さなければならない。これまでも、これからも、経営に対する“正しさ”が私にとっての唯一の指針です。

どうもありがとうございました。最後に本サイトの読者である、人事向けサービスを中心とした企業向けサービスを展開する企業の経営者や若手社員に向けて、メッセージをお願いいたします。

人事・労務の仕事というと、かつてはかなり静的で、パターン化されていました。しかしこれからは、少子高齢化や雇用流動化の進行、女性活用の推進、ダイバーシティの普及といった環境変化に即応する人事戦略が、企業経営の基軸を成す時代でしょう。弊社でも「人事奉行」「給与奉行」など人事・労務業務を支援する製品を提供しており、こうした人事そのものの戦略性や変化力をどう織り込んでシステムを構築していくか――システムの動態化が今後の開発テーマとして浮上しているところです。変化はさらに多様化、複雑化し、求められる戦略はますます高度化していくに違いありません。現状に甘んじることなく、周囲にアゲンストの風を感じたら、むしろチャンスととらえてチャレンジしてください。

（2013年6月6日　東京・新宿区・オービックビジネスコンサルタント本社にて）