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Employee Experienceを企業競争力の源泉へ リクルートが本気で取り組む「エンゲージメント型経営」

リクルートホールディングスでは2015年から、働き方変革を推進。グローバル企業を研究する中で見えてきたのは、「Employee Experienceが企業競争力の源泉となる」という視座でした。そこで同社は、働き方変革が本来目指すべきものとして、その先にあるエンゲージメント型経営に着手。さまざまな施策に取り組んでいます。リクルートホールディングスのCHROである池内省五さんに、働き方変革の変遷と同社が目指すエンゲージメント型経営についてうかがいました。

池内省五さん
池内省五さん
株式会社リクルートホールディングス 取締役専務執行役員兼CHRO

(いけうち・しょうご)1988年、株式会社リクルート(現 株式会社リクルートホールディングス)入社。スーパーコンピューター関連事業、経営企画等を経て、1993年人事部で人事設計に携わる。2000年より経営企画室にて、中長期成長戦略策定に携わるとともに、新規事業開発と海外展開の推進に従事。2005年執行役員。2012年取締役。2014年リクルートUSAの代表取締役に就任。2016年4月取締役兼専務執行役員に就任し、CSO・CHROを経て現在はCHROとして人事・総務部門を担当。

スタートは「場所を選ばない働き方」

まずはリクルートホールディングスが取り組まれた、働き方変革についてお聞かせください。

私たちがこれまで取り組んできた働き方変革には、大きく二つの段階がありました。第一段階は、「仕事の生産性向上の追究」。第二段階は、働き方変革の目的をゼロベースで再考し、「従業員のバリューエンゲージメントの最大限の向上」を目指しました。働き方変革に着手したのは2015年から。ダイバーシティへの取組みやテクノロジーを活用した業務効率の向上、生産性の改善、というコンセプトで働き方変革プロジェクトをスタートしました。

当時の働き方変革においては、「場所を選ばない働き方」というテーマを追いかけていました。今でこそ、リモートワークは社内でもかなり活用が進んでいますが、当時は先端のIT企業を訪問し、そのやり方を学ぶという水準でした。コミュニケーションをメールからチャットへ、Slackへと、アメリカの西海岸では当たり前だったことに取り組んでいたというフェーズでした。

また、リモートワークの導入当初は、従業員からの異論、反論も多々あり、あまり進捗しませんでした。例えばFace to Faceで話さないと情感が伝わらない、本当に賛成か反対かよくわからないという声や、リモートワーク上でミーティングを設定する際の立上げの手間がほんとに面倒などの声が多かった。そのような状況を打開するため、まず役員が週2日自宅でリモートワークする日を決め、徹底して実行したところから一気に従業員への浸透が進み始めたのです。

また、会議室・執務フロアのレイアウトなどのオフィス環境を、よりフレキシビリティーがあり使いやすいものへと、トライアンドエラーを重ねながら進化させていきました。現在では、リモートワークは、ほとんどの従業員が活用しており、デイリーベースで40%近くの従業員がリモートワークで仕事に従事するようになりました。

また、Googleのオフィス・スイートである「GSuite」の導入やぺーパレスでの経費精算システムの導入、インナーコミュニケーションの充実、ITサポート体制の整備などによって、さらにリモートワークを推進する環境が進化しています。

株式会社リクルートホールディングス 取締役専務執行役員兼CHRO 池内省五さん

2018年には、ビジョン・ミッション・バリューズを再設定されていますね。

2017年からは、ビジョン・ミッション・バリューズを改訂するプロジェクトがスタートしました。会社が2012年以降、急速にデジタル化・グローバル化していることもあり、過去定めたこれら三つの要素を一度ゼロベースで見直す必要がありました。この過程では、海外のメンバーの声を集めた上で、次代を担う経営リーダーが中心となって約1年に渡って継続的に議論を展開しました。

このプロジェクトの最初の3ヵ月は、このビジョン、ミッション・バリューズを定めることが、なぜ重要なのか、何の意味があるのか、何度も議論したのをよく覚えています。プロジェクト・メンバーの一人が、「これらビジョンなどを掲げたことで、過去、経営判断が本当に変わったことがあるのか? これらビジョンやミッションを掲げて、具体的なインパクトが本当にあったのか?」と自分が納得するまで、何度も質問してきたのです。私自身の答えは「自分が20代、30代前半の若かった頃、自分自身が抱いた問題意識を発露に経営に対して提案した事が意外にも受け入れられ、具体的アクションを起こすことを容認してもらえた。そして、想定以上の成果を残せた、または成果につながった経験が非常に大きい。そして、この経験は一度や二度ではない。そのような風土で仕事を出来たことで自分自身が成長したという実感があるし、何より、自分自身がワクワクしていた。だから、今、ここに自分はいる」と。『Why are you here ? 』これが非常に重要な問いかけだった。「ここにいる、プロジェクト・メンバーは、みんな、ある種、わがままで、自分はこんな事をやりたいとか、やれないなら会社を辞めて自分でやります、みたいな連中ばかりだよね! なぜみんな、まだ、ここにいるの? この場にいることの理由を明らかにしよう、と。

この最初の3ヵ月の議論が、実は後から振り返って本当に良かったと感じています。『Why are you here ?』という問いかけを経営リーダーたちがお互いに何度も問いかけ、深堀りして行ったことでたどり着いた結論が「自分たちが若い時に、自ら主体的に感じた問題意識や志に従って、経営に対して問題定義し、その結果非常に大きな機会を与えられ、その機会を活用してインパクトのある成果、新しいビジネスや仕組みを造った、成し遂げたという経験があり、そんな風土や文化が気に入っているからここにいるんじゃないのか」と。

そしてこれらの議論の積み重ねから「WOW THE WORLD = 世界をあっと言わせるようなサービスを生み出す水準の仕事をしよう」「BET ON PASSION = 本気の人のPassion、情熱に、賭けることを大切にしよう」「PRIORITIZE SOCIAL VALUE=社会に対して、本当に貢献できるサービスを提供しよう」という我々が「なぜ今、ここにいるのか?」の中心軸になる価値観(Values)を設定(改定)することに至ったわけです。

Employee Experience Design部の取組み

働き方変革の目的は何なのかを突き詰めていき、ビジョン、ミッションやバリューズに行き着いたと伺いました。

先ほどお話したように、リクルートという会社はこれまで、従業員個人の思いや情熱を起点に、事業ポートフォリオを変えてきました。しかし近年は、若い従業員がそういうカルチャーを実感できていない、体現できていないように感じていたんです。若く優秀な人材が、自分自身の意志で何かを変革していく、創造していく、力強い、本気の提案に上層部が「やってみろ!」と機会を提供していく。その機会を活かして、事業や会社を変えていく。そうした風土・文化が現在どこまで組織に浸透しているか? このような議論の果てに、働き方変革の真の目的は、このような価値観を体現する組織に我々自身を原点回帰させることに他ならないという結論に至りました。これらを最大限に実践している組織へと、リクルートは進化し続けたい。そのような議論を経て、バリュー・エンゲージメント型経営を実践することが本当のゴールだとたどり着いたわけです。

そして、2018年6月に働き方変革の長期的なゴールを「リクルートで働く従業員が、一人ひとりの意思・可能性・エネルギーを最大限に発揮できる、体現できる組織へ変革して行くこと」と設定し、10月に働き方変革推進室の名称をEmployee Experience Design部(以下、EXD部)に変更して再スタートしました。

このようなコンセプトに基づく、新たな組織を立ち上げるにあたって、この組織のリーダーが周囲のメンバーに声をかけ、この組織の目指す世界観やテーマに共感した人が集まって、組織が出来上がっていったのです。

GAFAとの違いはトップマネジメントの関わり方

EXD部では、具体的にどのような活動を行われてきたのですか。

EXD部で最初に行ったのは、GAFAなど、世界最先端のテクノロジー企業の研究プロジェクトです。なぜすごいと言われているのか。技術的なことではなく、仕事を進める上で、企業として何を重視しているのか、スタイルやコミュニケーション、カルチャー、ミッションといったソフト面において、他社と何が違うのかを調べました。意思決定はどのように行われているのか、組織はどのようにつくられているのかなど、クライテリアを23に分けて調査しました。もっともインパクトがあった一つの要素は、トップマネジメントのコミットメントです。

例えば、GAFAのある企業では、毎週、全世界の社員に対してCEOが自らスピーチとQ&Aを一時間行っていました。そのうちの半分くらいの時間は従業員が自由に質問を投げ、CEOはそれらの質問に自社のバリューを参照しながら丁寧に答えていました。この「自社が重視するバリューに戻って、質問に答える」という方法を通じて、いかにこの企業において、価値観(Values)を重視しているかをCEO自ら体現し、組織全体に浸透することにつながっているかを強く感じました。毎週、全社会議で一時間スピーチし、Q&Aセッションをこなすことは、経営者としては本当に緊張する取り組みだと感じました。そこまでトップマネジメントがコミットするから、カルチャーやバリューが本当に重要なんだ、大事にしているんだと従業員が信じることにつながっていると。

株式会社リクルートホールディングス 取締役専務執行役員兼CHRO 池内省五さん

我々は、このようなベンチマークを経て、まずは、トップマネジメントの強いコミットメントとそれを全従業員に表明して行くことが原点として重要だと認識し、半年に一度のリクルート・ホールディングスのキックオフ・ミーティング(HQの全従業員が参加)で、グループCEOや私が、ほとんどの時間をミッション・バリューズの重要性や具体的にどんな行動を従業員が取ることを望んでいるかなどをプレゼンテーションし、トップの本気度を示しました。やはりこれが従業員には、非常にインパクトがあったようです。

また、このキックオフ・ミーティングのメイン・プログラムとして、執行役員たちによる、ミッション・バリューズに関する本音のパネルディスカッションを行い、「ぶっちゃけ役員はこの手の取組みや現状をどのように捉えているのか、どうしたいと思っているのか」を、異論も含めて自由にトークしてもらいました。このようなトップマネジメントの本気度と本音をストレートに従業員に届けることによって、ミッション・バリューズについての認識が大きく変化して行くことに繋がったと従業員が語っています。

また、このような価値観・行動様式を一部のマネジメントの人事考課に反映させることを実施しました。マネジメント職で重視する指標に問題があるマネジャーには、人事考課の評価指標の中に、例えば30%のウエイト付けを行い、明確な改善を半年という期間で要望しました。このプロセスは、トップマネジメントチームでじっくり議論し、執行役員も含め、我々自ら課題設定とフィードバックを行いました。また、同様の指標をマネジメント職へのプロモーションの重要指標としても採用し、一定のガイドラインを超えることをマネジャーの昇格要件と改定し、運用をしています。

我々の組織は、中途入社者の比率が70%を超える状態になっていましたが、このようなアプローチにより、何をバリューズとして、どれくらい本気で求められているのか、その理解が加速して行ったように見えます。

ミッション、バリューズを業務で表現できる環境をいかにつくるか

日本ではミッションやバリューなどが概念的な話で終わっていて、具体策になっていない企業も少なくありません。貴社ではどのようにして従業員に伝え、考えに則した行動をとらせていますか。

WOW通信という週間メール・マガジンをHQの全従業員に展開し、具体的に、ミッションやバリューズを体現し、素晴らしい成果を出している従業員個人・チームの行動を全組織にナレッジシェアリングしています。

また、半期に一度のエンゲージメント・サーベイを実施し、ミッション&バリューズの浸透・体現度合いをモニタリングしています。サーベイ実施後に、合計30名程のインタビューを行い、その結果の点数の意味づけ、原因分析などを行い、組織横断の重要課題を特定しています。

例えば、サーベイやインタビューの結果から、自分が所属する組織では、現実問題として、そもそも定型業務がほとんどだとか、ミスが許されない、納期厳守、リスクをとってチャレンジする課題が少ないなど、リクルートが掲げるミッションである「Faster・Simpler」やバリューズの「WOW THE WORLD」を自分の仕事において描くのが難しいというものも見受けられました。

これらの問題意識をヒントに、本当にこのような比較的守りを重視する組織で、チャレンジングな仕事ができないのか。それを疎外している原因は本当は何なのかなどを部単位で議論する「Mission&Valuesアクションワークショップ」を実施しました。結果、このワークショップを実施した組織は、何に今まで躊躇していたのか、本当の問題は何だったのか、自分たちの組織でもっとも重要なテーマは何なのかなどを各組織のメンバー達が主体的に議論し、自分たちの業務の中でどうリクルートのミッションを体現するのか、かなりクリアになったと手ごたえを感じています。実際に、守りが主要ミッションに見えるスタッフ組織においても、少なくないイノベーションやチャレンジングな取組みがなされ、成果が明確に出ているケースが多く見られるようになったのです。

Mission&Valuesエンゲージメントサイクル

サーベイの他には、アワードやワークショップの開催、行動例の共有などで、これまでになかった施策を行われていますね。

これまで社内の表彰制度では、MVPを表彰していたのですが、次回からはミッション・ステートメントに照らし、ミッション・バリューズをどれだけ体現し、成果を出したかというポイントにフォーカスした表彰制度に変更します。それを社内に宣言して行く中で、あらゆる人事・組織的な施策がミッションやバリューズを重視し、それをベースに人をマネジメントし、育てようという方向に目線が変化していきました。比較的大きな問題を抱えた組織も、大きく改善されました。特に役員の目線が変わったことも大きいと感じています。

また、先ほどお話したワークショップでは、これまでにない思い切ったアジェンダを設定する組織が複数出て来ました。経理部門のメンバー20人ほどで「決算納期を半分に短縮する」というアジェンダを設定し、ゼロベースで議論しました。すると、以前とは見違えるような議論が行われました。あらためてバリューズが浸透し、組織が活性化していることを実感しました。

また、行動例の共有では、ミッションやバリューズを具体化した実際の行動例について、全従業員が半期に一度集まるキックオフの場や、メールマガジンを通じて具体的な事例の発信を行っています。これらは、なかなかイメージしづらいミッションやバリューズという定性的なものの認識を揃えていく上でも、大きな効果があったと実感しています。

トップの本気が緊張感を生み、それがエンゲージへとつながる

今後のエンゲージメント型経営の方向性についてお聞かせください。

リクルートでは、バリューズにある「新しい価値の創造=WOW THE WORLD」を最も重要な要素概念としています。提供するサービスでいうと、競合他社よりも性能が20%良いものを提供するといった水準ではなく、桁違いに圧倒的な価値のあるプロダクトを生み出してユーザーをあっと言わせる、水準を目指すということです。革新的なものを生み出す可能性を持った組織をつくっていくことが、トップマネジメントには問われていると考えています。

さらに、我々は、バリュー・ドリブン、ミッション・ドリブンな経営を標榜する必要があると考えています。これからのデジタル時代は、環境変化が過去と比べものにならないくらい、変化の速度が早く、また、将来の不確実性が極めて高い環境だと言えます。このような時代認識において、現場の優秀なリーダーやメンバーが、自社が標榜するミッションやバリューズに基づき、高次の経営判断を現場に近いところで主体的に行う組織に進化して行くことで、この難局を乗り越え、さらなる成長を実現できると考えています。

そのためには、第一に、我々トップマネジメントが、本気でMoon-Shot(WOW)的なVISION設定を行い、明確なコミットメントを示して行くことだと思っています。そのVISIONに基づき、優秀な従業員が主体的に経営判断して行けるカルチャーを我々がタクトを振って、構築して行くことが第二に重要ではないかと思います。トップマネジメントの本気のコミットメントが前提であり、それが組織に伝播し、素晴らしいバリュー・エンゲージメントを生み出していく。これからは、そのようなリーダーシップのガバナンス構造を目指していきたいと考えています。

株式会社リクルートホールディングス 取締役専務執行役員兼CHRO 池内省五さん

取材は2020年1月14日、東京・千代田区にリクルートホールディングス本社にて
池内氏が着用しているのは、全社キックオフで社員全員に配られたTシャツ。バリューズの1つであるBET ON PASSIONの文字がデザインされている。

第2回のお知らせ
次回は、株式会社people firstの八木洋介氏、タワーズワトソン株式会社の岡田恵子氏、吉田由起子氏というHRのプロフェッショナルをお招きし、リクルートのEmployee Experienceの展開について議論した、EXコミッティの様子をお届けします。

企業情報

1960年の創業以来、リクルートグループはさまざまな領域において一人ひとりのライフスタイルに応じた、より最適な選択肢を提供してきました。現在、HRテクノロジー、メディア&ソリューション、人材派遣の3事業を軸に、60を超える国・地域で事業を展開しています。今後も、新しい価値の創造を通じ、社会からの期待に応え、一人ひとりが輝く豊かな世界の実現に向けて、より多くの『まだ、ここにない、出会い。』を提供していきます。

企業情報
リクルートグループの Mission&Values エンゲージメントを世界で誇れる水準にすることをミッションに、リクルートホールディングスにおけるEmployee Experienceの向上を支援・実践している部署。
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