マイナンバー運用開始元年!クローズアップされにくいリスクに、企業はどう対応すればいいのか~行政の動向を見越した、企業の最適な選択とは?~

2015年10月から配布が始まったマイナンバー(個人番号)。これまでの「個人情報」の取り扱いと一線を画すのは、マイナンバーの取り扱いに厳重な規制と罰則が科せられることです。来年1月の法施行に向けて、今後企業には、従業員からの問い合わせや関係機関からの指摘などに対する、慎重な対応が求められます。これからどのような問題が想定され、どんな対応が求められるのか――。マイナンバー対応の実務に精通した株式会社シーイーシーの坂口尚紀さんに、人事部の視点に立った具体的なアドバイスをいただきました。

プロフィール
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株式会社シーイーシー システムインテグレーションBG 社会システム事業部 第一サービス部 部長
坂口尚紀さん
さかぐち・なおき/中央官庁から地方自治体の公共団体様向けへ、システム開発から運用支援、インフラ構築・導入などのSIサービスを提供。特に、2014年からは、マイナンバーの収集・保管・廃棄に対応したパッケージの導入支援およびセキュリティ対応を、2015年はさらに事業者様向けへのマイナンバー対応支援をワンストップでサービス提供している。最近は、特定個人情報保護に関する説明会を各地で展開しており、実運用に向けた具体的なアドバイスや顧客への導入コンサルを手掛けている。

これから企業に求められるマイナンバー対策とは?

―― この10月から、マイナンバーの配布が開始されました。これから企業が対応すべきこととして、どのようなことが考えられますか?

マイナンバーは国民一人ひとりを識別する個人番号であり、社会保障や税金、災害対策などに関する事務に利用されます。企業は事務処理を行う行政機関や地方公共団体に、従業員などのマイナンバーを提供する役割を担うことになります。また、マイナンバーを安全に扱うには、社内規定の見直しやシステムの対応、従業員研修など、的確な事前準備が求められます。

まずは、「取り扱い担当者」を決定する必要があります。マイナンバー制度の対象業務を担当する部署や人物が決まったら、事前の研修や勉強会などを実施します。続いては、社内体制の整備。マイナンバーの漏えいや不正使用を防ぐため、社内の管理体制や情報システムを整備する必要があるからです。次は「従業員への周知」。マイナンバー通知カードの保管、個人番号カード取得の奨励、扶養家族のマイナンバーの確認・取り扱いの方法など、従業員への周知を徹底します。続いて「マイナンバー取り扱いのルール」(取得→保管・管理→利用→廃棄など)を作成。その上で、マイナンバー取得の対象者を特定・確認し、「マイナンバーの取得」を行います。

特に重要なのは、利用目的や管理方法の周知だけでなく、マイナンバーの取り扱い方や個人情報としての重要性を社員に理解してもらうことです。行政がマイナンバーを「特定個人情報」として取り扱っていることからも分かるように、情報漏えいや不正取得の防止など、万全の態勢で臨むことが求められています。

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また、現時点で最も重要だと考えるのが、マイナンバーの取得です。私たちは「初期収集」という言い方をしていますが、年内に非正規雇用者も含めて、従業員のマイナンバーを収集することが望ましいです。収集するのは、正社員、契約社員とその扶養家族、パート・アルバイトなどです。派遣元が管理する派遣社員は含まれません。また、講師への謝礼など支払調書を提出する報酬や、不動産使用料の支払先の番号も収集しなければならず、事前に特定しておくことが大切です。

マイナンバーを収集する際には、利用目的を明示して、本人確認を行います。これが企業の法対応における最大の課題で、これまでの事務との一番の違いです。本人から個人番号の提供を受ける際には、「番号確認」と「身元(実在)確認」の二つを確認する義務があります。「番号確認」とは、個人番号の提供を受けた際に、その書類に記載されている個人番号がに間違いがないかどうかを確認することです。また、「身元(実在)確認」とは、提供している人がなりすましではなく、実在する本人であることを、写真付きの身分証明書等の氏名・住所と、「番号確認」の書類に記載された氏名・住所が一致しているかどうかを確認することです。なお、郵送の場合は個人番号カードまたは通知カードと運転免許証などの写し、代理人による提供は代理人の身元確認と委任状と本人の番号確認書類が必要です。

―― かなり、手のかかる実務になりそうですね。

全国に拠点があったり、社内LANが普及していなかったりすると、収集業務が大変です。特に手間のかかるのが、非正規雇用者からの収集です。例えば、1日や1週間限りの短期パート・アルバイトのような場合も、来年1月以降、マイナンバーを収集し、管理していかなければなりません。年内には、マイナンバーに関する取り扱い方針や規定、各種安全管理措置を講じておく必要があります。

マイナンバーの配布がスタートした10月以降は、まず、その準備段階として初期収集をしっかりと行うことです。そして、マイナンバー制度が施行される来年1月以降の段階には、漏れなくマイナンバーを集める仕組みへと切り替えられていなければなりません。

マイナンバーを収集した後は、番号を保管・管理しなくてはなりません。最終的には、不要になった番号を破棄・削除するという一連のプロセスもあります。企業には、税務署に納める源泉徴収票、市区町村に納める支払い報告書などの業務がありますが、このような法定調書にでも、マイナンバーを付与しなければなりません。マイナンバーは非常に重要な個人情報です。しかも今回は、「特定個人情報」という名の下、「番号法」に罰則規定が設けられています。「個人情報保護法」と比べ、かなり厳しくなっています。企業にとっては、非常に大きなリスクを負うことになります。万が一、番号が漏れた場合には、社会的な信用の失墜にもつながります。

要は、マイナンバー制度が導入されることによって、企業が想定する以上の新たな作業が発生するということです。相応の人と時間のコストもかかります。そのため、マイナンバーに関する業務を内部で行うのではなく、信用できる代行業者にアウトソーシングしたいと考える企業が増えています。

―― 貴社は、官公庁向けにコンサルやシステム開発を行われているそうですね。官公庁では既に数年前からマイナンバーに関する対策を講じていたと聞いていますが、それらの点を踏まえ、今後、民間企業に発生する可能性のある「問題点」とは何でしょうか。

正社員の個人番号は、既存の社内ポータルサイトや連絡網を使って収集することが十分可能です。しかし、先ほどもお話した非正規雇用者になると、一気に話が変わってきます。通常の人事情報システムには、非正規雇用者が登録されていないケースがほとんどです。非正規雇用者の場合は一時的な雇用になることが多いので、確実にマイナンバーを集めておかなければ、後で連絡がとれないことも想定されます。そのため、仕事をしてもらっている時にしっかりとマイナンバーを収集することが、重要になります。

ただ、非正規雇用者が常にマイナンバーが記載された個人番号カードを持っているとは限りません。そう考えると、仕事が終わった後にマイナンバーを教えてもらい、収集するような仕組みも考えなくてはなりません。そのための実務が思った以上に煩雑なのです。

また、遠方にいる従業員にも関係してくることですが、会社が支給するパソコンを持っていない、自宅からインターネットにアクセスできる環境にない、という人たちの対応も考えなくてはなりません。基本的にマイナンバーは住民票に登録されている住所に送られてくるわけですが、本人が単身赴任等で登録されている住所に住んでいないケースもあります。つまり、家族全員のマイナンバーを会社に提供することも容易ではない環境下にいる従業員もいるわけです。このような場合、我々は郵送キットを使って対応しています。従業員の扶養家族が別の所に住んでいるような場合は、その住所を教えてもらって個別に郵送し、マイナンバーを収集するという仕組みがあります。この場合、個人情報が絶対に漏れることのないような体制と仕組みが不可欠です。

今回、何よりも我々が重要視しているのが「収集率」です。来年1月のマイナンバー運用開始に向けて、いかに多くの個人番号を集めることができるのか、この点がアウトソーサーとして非常に重要な責務だと認識しています。

―― お話をうかがっていると、企業がマイナンバーに伴う実務を年内に行うのは非常に難しいように感じます。

そうかもしれません。例えば、従業員に子どもが生まれた場合、会社に報告することもありますが、手当が増えるようなことがなければ、報告しないケースも少なくないのです。このような場合、年末に「扶養控除申告書」という形で、人事部は初めて情報を得ることになります。そのタイミングで番号を収集して処理するとなると、一時的に10月前後に大きな負荷がかかり、場合によっては許容範囲を超える事務作業が発生することも考えられます。そのため、扶養家族に変動があった時には、リアルタイムでマイナンバーを収集し、管理していく体制が求められます。つまり、定期的な扶養家族構成の現況確認の仕組みが必要になるということです。

また、アルバイトをはじめとする非正規雇用者は、現実的には非対面で本人を確認する仕組みが必要です。私たちも、マイナンバー業務を受託した場合には、従業員を管理する人事部や講演やイベントなどの支払いを管理する経理部の方々と、密接な連携を行う仕組みが重要だと考えています。ただし、ふたを開けてみると、もっと状況は悪いかもしれません。だからこそ、それを補完するような仕組みを用意しなければならないと考え工夫をしているのです。

いずれにしても、事前にマイナンバーに対する仕組みを固めて、「特定個人情報」を扱う上での方針や規定を整えておかなくてはなりません。その場合、新しく策定することもありますが、基本的に情報セキュリティーや個人情報保護に関する規定は多くの会社にもあるはずですから、そこに「附則」として付け加え、対応するケースでも構いません。また、「特定個人情報」を扱うマイナンバーでは安全管理措置が必要となってくるので、そこに関する事項を付け加える形で補うことも必要です。

マイナンバー対策がもたらすメリットと、
「委託先」を決める際のポイント

―― 企業がマイナンバー対策を積極的に実施するメリットとは何でしょうか。

マイナンバー制度に対応することで、新たな管理項目が増えることになります。また、罰則規定まで含めて、非常に高いセキュリティーが求められます。率直に言って、現段階では新たな管理作業が発生するために、コスト増になってしまうことは否めません。しかしながら、個人番号カード1枚で住民票をはじめ、公的な書類・文書の代わりが効くことから、工夫すれば取り扱い資料や作業負荷の軽減につながります。また、マイナンバー対応を契機として、給与支払報告書など、各行政機関への法定調書を電子取引の仕組みを導入することで、現在よりも作業効率を上げることができます。

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顧客サービスを経営基盤としている企業では、個人番号カードが持つもう一つの機能である「公的個人認証」を活用することで、作業品質や作業効率の向上だけでなく、顧客サービスの向上にもつなげることが可能です。さらに、マイナンバーと同時に運用が始まる「法人番号」を活用することで、部署間・グループ会社間での横断的な取引先状況を捕捉できるようになり、取引先別の調達計画や仕切り調整など、よりきめ細かい取引先戦略を講じることができます。

―― 現時点では、企業はどのようなことを「課題」として捉えているのでしょうか。

少し前までは、マイナンバーが導入されるに当たって、何をすればいいのかがよく分かっていない企業が少なくありませんでした。現在はかなり状況が分かってきたこともあって、マイナンバー収集と保管・管理、そして破棄・削除といった作業については、かなり理解が進んでいるように思います。「特定個人情報」保護への対応や、何が「個人情報」保護と違っていて、何が罰則となるのかに関する理解も進んでいます。

ただ、このように理解が進んだことで、現実的な対応として、これらの作業を自社で行うのはかなり難しいのではないかと考えるようになった企業が増えているのも事実です。その結果、外部に委託した方が安全であり、結果的にコスト削減になるという発想へと変わっていったのです。その中で依然として課題となっているのが、非正規雇用者への対応です。この問題点にまだ、十分に気づいていない企業は少なくありません。

グループ会社への対応も、重要な課題です。グループ会社をどのように束ねていくのかを、まだ決めていない企業も多いようです。グループ会社それぞれに任せるというケースもありますが、大手では親会社がグループとしての方針と仕組みを決めて、その中でグループ各社のマイナンバーを管理するケースがほとんどです。なぜなら、個々の会社に任せると、もしある子会社で何か問題が起きた時に管理体制が問われることになり、信用が失墜し、グループ全体に影響するからです。そういった意味でも、親会社におけるグループ各社へのマイナンバー対策は、早急に講じる必要があります。

政府では、2020年までに世界最高水準のIT活用社会となるために「世界最先端IT国家創造宣言」を出しました。その中でベースとなるのが、行政サービスの電子化を促すマイナンバー制度です。これからの日本では、マイナンバーを活用して社会システム作りを進めていく方向にあることは間違いありません。当然、今後の展開についても、各種ネットワークサービスなど民間企業への利用を促してくることでしょう。企業も短期的な対応としてマイナンバーを捉えるのではなく、今後の展開を予測した上で対応していく必要があります。

―― マイナンバーへの対応については、アウトソーシングをいかにうまく活用するかが一つのポイントだと思われます。その際、どのような点を考えて、委託先を決めていけばいいのでしょうか。

外部のアウトソーサーを活用する場合、行政の動向に明るい企業を選ぶといいと思います。今後、法定調書で対応していかなければならない範囲はますます広がります。制度を改正していく中で、政府が民間企業に求めてくるリクエストも増えてくるでしょう。例えば、韓国など個人番号先進国のケースを見れば明らかです。そうすると、企業はそこをキャッチアップしていかなくてはなりません。

その際に、これからの制度の方向性や法令を熟知しているアウトソーサーを利用することによって、今後のマイナンバー活用のメリットを享受することができます。その点からも、アウトソーサーを選ぶ際は、今後のマイナンバー対応に係る「ロードマップ」を示すことができるかどうか重要だと思います。アウトソーサーが提供する「ロードマップ」を見れば、今後の動向を的確に踏まえ、長期的な対応を考えているかどうかを分別できるからです。

企業がマイナンバー対応に関する事務をアウトソーシング(委託)する場合、アウトソーシング先に対して「必要かつ適切な監督」を行う法的義務があります。具体的には「委託先の適切な選定」「安全管理措置に関する委託契約の締結」「委託先における特定個人情報の取扱状況の把握」です。そのため、企業は定期的に委託先を監督しなければなりません。その場合、委託先が孫請けを活用しているのであれば、監督業務が煩雑になります。そのため、マイナンバーの収集、番号管理から法定調書の出力・送付など、マイナンバー制度に付随する全ての業務をワンストップで対応できる委託先が、合理的かつ適切だと思います。

―― マイナンバーに適切に対応していくためには、アウトソーサー選びがとても重要だということがよく分かりました。本日はお忙しい中、ありがとうございました。

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