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人事マネジメント「解体新書」

第31回:「タレントマネジメント」の時代 (後編)
~人材の“見える化”の仕掛けを工夫し、現場のマネジメントとリンクさせていく[前編を読む]

解説:福田敦之(HRMプランナー/株式会社アール・ティー・エフ代表取締役)

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「前編」は、タレントマネジメントが求められてきた背景とその考え方を記してきた。「後編」では、具体的なタレントマネジメントの進め方と、その際のポイントについて整理していく。

タレントマネジメントをどう進めていくか

人材こそが、企業の競争力において大きな源泉となる。「前編」で述べたように、タレントマネジメントは、採用から配置、育成、キャリア形成といった一連のプロセスを、効率的に管理、支援していく仕組みである。そして、組織における個々の能力を最大限に引き出し、全体の競争力を上げていくことを目指している。そのためにも、個々の能力やスキルを把握するのと同時に、企業の求める「タレント(資質・才能)」を現場でのニーズに則して、明確に定義していくことが求められてくるように思う。以下、タレントマネジメントを実践していくために必要なアプローチを記していく。

(1)ビジネス戦略から考える~「組織機能」「仕事」「人材」へとブレークダウン

人事戦略とは、その時々の経営環境に合った人材マネジメントを実現するものである。タレントマネジメントにおいても、例外ではない。タレントマネジメントを構築する際、そのベースとなるのは各企業の「ビジネス戦略」であり、それによってあるべきタレントマネジメント像は異なってくる。もっとも、タレントマネジメントを構築していくプロセスや基本的な事項は共通している。ビジネス戦略の下、必要な人材を必要なだけ確保して配置し、各職場でその人材をやる気にさせ、育成して高いパフォーマンスを実現していく、という流れは同じだからだ。

例えば、大企業におけるタレントマネジメントを考えた場合、その中にさまざまな機能や仕事が存在しており、それぞれが一定のウエートを占めている。そのため、単一職種からなる企業のようなわけにはいかない。望ましいタレントマネジメントのあり方も、幾つか存在することになる。

そこで、汎用性のあるアプローチとして、まず組織が持つべき「機能」を定義することから始めていくことにする。ビジネス戦略から各組織が持つべき機能、あるいは強化すべき機能が決まってくる。次に、その組織の中に必要となる「仕事」があり、それぞれの仕事に対して求められる「人材」のタイプ、必要となる「能力」や「スキル」「資格」などがあるはずだ。そして、これらを最大限に有効活用し、アウトプットを出していくためのマネジメントを考えていくのである。こうしたビジネス戦略から落とし込んだタレントマネジメントを構築していくプロセスを、第一に理解しておいてほしい。

(2)組織機能を「再定義」する~「組織のミッション」「成果責任」として言語化

ここからが、具体的な作業の話となる。最初は、ビジネス戦略に基づく組織機能の「再定義」。各企業のビジネス戦略を実行する上で、それぞれの組織はどのような機能を果たすべきか、強化すべきかを見直していくのである。

要は、各組織の「基本機能」を洗い出すわけだが、手順としては、まず各組織が生み出す「アウトプット」を明確にしていく。アウトプットが決まったら、次にそのアウトプットを生み出すに際して、基にすべき「インプット」は何なのかを洗い出していく。そして、インプットからアウトプットに至る「プロセス」を考えていくのであるが、まさにこのプロセスが、各組織の果たすべき基本機能ということになる。

しかし、実際のマネジメントとして使うには、それを具体的にイメージできるものへと言語化する必要がある。基本機能を明確な言葉へと整理し、各々の機能について「どのように行うのか」「どのようにするのか」といった遂行する上でのポイントとしてまとめていくのだ。そして、これと基本機能を合致させたものが、「組織のミッション」ということになる。さらに、そこから「成果責任」とするべき項目を作成していく。このような作業を通じて、各組織の機能が「組織のミッション」と「成果責任」という形で明確に定義されていく。

(3)「仕事」の明確化~「成果」「人材要件」「専門性」から「コンピテンシー」を導き出す

次は、各々の組織が期待された機能を果たすために、必要となる「仕事」を明確にし、そこから「コンピテンシー」を導き出していく作業へと移る。まず、組織機能を効果的に果たすための「業務プロセス」を描いていく。そして、業務プロセスのステップごとに、そこで「期待される成果」と「求められる人材要件(能力)」、さらに「必要となる専門性(スキル・資格・実務経験)」などを記していくのだ。これに、社内の格付けや職務などを組み合わせることにより、各々で必要となる仕事の内容が明確になっていく。そして、これらをまとめたものが、「コンピテンシー」という形で抽出される。

図表:「仕事」を明確化し、「コンピテンシー」を整理・抽出する

図表:「仕事」を明確化し、「コンピテンシー」を整理・抽出する

(4)「スキルマップ」を作成する~人材の“見える化”の実現

ここでは、人材の“見える化”を実現するための「スキルマップ」の作成を行う。(3)で得られた「期待される成果」「求められる人材要件(能力)」「必要となる専門性(スキル・資格・実務経験)」について、各組織の個々人がどの程度の能力を持っているか、資格等を取得しているか、実務経験があるかなどについて、いわゆる「スキルマップ」という形で整理し、マッピングしていく。あるいは、職階・職務ごとに「コンピテンシー」として抽出されていれば、これはできる・できないなど、個々人の能力の棚卸し作業を行っていく

重要なのは、従業員のスキルや能力がどのようになっているのか、社内の関係者がその状況を理解し、人材育成・活用のイメージを形成できる形になっているかどうかということ。詳しければいいというものではない。現場のニーズに即した人材の“見える化”が実現できているかどうかがポイントとなる。

(5)「人材」「スキル・能力」のギャップを検証~取り組むべき施策を明確にする

(3)と(4)の作業を行うことで、各組織における「人材」及び「スキル・能力」の過不足状況が明らかになってくる。その際、「組織のミッション」と「成果責任」から、どの点を強化・拡充していくのか、さらには全社的な見地から人材マネジメントとして短期的、中長期的に取り組む施策をどのように進めていくかなどを決めていく。

(6)トータルな人材育成・活用フレームを構築する~コンピテンシーと紐付ける

(5)で得られた方針を基に、人材の採用、配置、育成、評価、定着化など、一連の人事マネジメント機能の各プロセスにおいて、企業としての目標を達成するために必要なアプローチを付加していく。このような作業を経て、トータルな人材育成・活用フレームを構築していくのである。

その際、コンピテンシーに紐付けられていることが、ポイントとなってくるように思う。例えば、ある専門性を高めたいと希望したときに、本人の当該事項におけるコンピテンシーの過不足に対して、即座に研修の「ラーニングマップ」を提供できるといった対応だ。それは、実務経験についても同じ。コンピテンシーと紐付けながら具体的に「こういう仕事をしましょう」「こういう資料を作れるようになりましょう」という関係性ができていれば、人材育成・活用の点からも、より高い効果が期待できる。

(7)現場マネジメントとのリンク~情報を共有し、話し合う「場」といった「仕掛け」を用意する

タレントマネジメントとしての仕組みができても、現場のマネジメントとのリンクが図れていないと、絵に描いた餅となってしまう。最悪なのが、せっかく「スキルマップ」を作っても、誰も活用しないこと。実際、そういうケースは少なくない。大事なのは、現場の人たち(特に上司)が周囲の人の能力を把握しよう、それを活かそうという気持ちになっていることである。

ところで、タレントマネジメントを導入している企業にヒアリングしていく中で、あるヒントをもらった。その企業では、直属の上司をはじめ、メンターや職場の他のマネジャー、人事部など、評価される人物の社内関係者が一堂に集まり、被評価者を今後、どういう方向で活用していくか、育成していくかといったテーマで、情報と活用の共有化を図る「場」を意識的に設けていた。

その結果、「直接仕事をしたことはないが、私の部にはこういう素晴らしい能力を持った人がいたのか」「ぜひ、このような能力を持った人と仕事がしてみたい」といった感想があったことからも分かるように、人材の「スキルマップ」や「能力評価」が“見える化”し、生きた情報として、組織全体で共有されているのである。多面的なフィードバックがあること、多様なコミュニケーションがあることで、同社では公正かつ透明性の高い評価と人材育成が実現できているという。

確かに「スキルマップ」的なものを作ることは大事であるが、その情報を皆が共有し、それを活用していく、人材育成へとつなげていくことがより重要だ。そして、これを企業文化、風土としていくことができれば、自ずと能力開発目標が明確化され、自然に皆が学んでいくといった自発的な成長が図られていくように思う。確か、「人を育てる人が一番育つ」と言っていた。そういう関係を、組織の中に作り出していくことがとても大切だと感じた次第である。

各人の能力、そして育成計画、何より本人の目指す方向が明確になってくれば、「前編」の図表で示したような、適材適所への人材配置、人材活用のサイクルが顕在化していくことだろう。現在では、個人のスキルや能力、経験などに関してはベータベース化され、Web上で“見える化”されたデジタルな仕組みとなっている企業が多い。ただし、せっかく仕組みを作っても、誰も使っていないという状態では意味がない。タレントマネジメントの実効性を上げるためにも、現場マネジメントを意識した「仕掛け」を用意しておくことがポイントとなってくる。

究極のタレントマネジメント~1人に1つの人事制度を可能とするために

以前、「となりの人事部」の取材で、グループウエア製品で有名なサイボウズの取締役副社長兼人事本部長である山田理氏に、いろいろと興味深い話を聞くことができた。今回のタレントマネジメントというテーマからも、非常に示唆に富む内容であったので、ここでその一部を紹介してみたいと思う。

■考え方の部分を、必ずセットで伝えていく
山田氏は、人材マネジメントのあり方について、このように語ってくれた。

「究極は1人に1つの人事報酬制度です。1人ひとりワークライフバランスも違うし、報酬でもお金を重視する時期もあれば、そうではない時期もある。仕事もこういう仕事にチャレンジしたいと思って、それをやらせてもらえる報酬もあるわけで、トータルで考えるといろいろな報酬が考えられます。その点からも、1人ひとりに対して、君は何したい、いくらほしい、どんな働き方がしたいというのをマンツーマンで話し合って決めることが理想だと思います」

ただし、会社として1人ひとり専用の制度を作るのは難しい。必然的に、ニーズの最大公約数的な制度にならざるを得ないだろう。そこで大切になるのが、従業員1人ひとりの納得感である。

「人事制度がどういう意味や理由で作られてきたかを理解すれば、ほとんどの人が納得してくれると思います。そのためにも、制度そのものより、それが作られたプロセスを説明することが大事なのです」

「人事制度の考え方や仕組み、また、何よりも部下に対して、あなたのこういうところをこう見ていて、ここが課題であるといったことを納得できるように伝えるコミュニケーションが、より重要になってきます」

ただ、これは決してやさしいことではない。大企業で評価基準や人材開発ビジョンを書面化し、定量化しているのは、そうしたことの伝承が困難だからだろう。だからこそ、山田氏は「なぜ、この人事制度ができたのかという考え方の部分を、必ずセットで伝えていかなければならない」と語る。

人の心の部分がコミュニケートできていないと、いくら仕組みが立派であっても、その効果はあまり期待できない。1人ひとりが生かされていると感じる、あるいは会社や上司が自分を生かそうと努力していると感じる、こうしたことを皆が心底思えるような会社になっていることが、タレントマネジメントの「ゴール」のように思う。言い換えれば、タレントマネジメントはプロセスなのであって、そのために、「スキルマップ」や「見える化」の仕組みがあるということを忘れてはならない。


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