企業研修、採用、評価、人材開発、労務・福利厚生のナレッジコミュニティ

人事マネジメント「解体新書」

もう外部に頼るだけじゃない!「研修内製化」の秘訣とは(後編)
自社課題の解決と専門教育の体系化に取り組む2社の事例[前編を読む]

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

「研修内製化」はコスト削減だけではなく、自社のニーズに合った教育ができるなど、さまざまなメリットが期待できる(前編参照)。「後編」では、自社課題の解決や専門教育の体系化などを目的として、戦略的に「研修内製化」に取り組んでいる企業の事例を取り上げ、その効果・効用や運用する際のポイントを紹介する。

A社:自社の「失敗事例」を題材に、問題点と解決策を探る実践的な研修を導入

A社(電機メーカー)では、技術開発部門を対象に、自社の課題解決に向けた技術力のさらなる向上を目指して、過去の「失敗事例」から学ぶ研修を導入している。技術開発においては、単に情報を共有するだけでは深い気づきが得られず、同じような失敗を繰り返すことになるからだ。担当部門の技術者を研修の司会進行役に任命し、社内の各組織で「研修内製化」を推し進めている。

テーマや司会進行役などを全て社内から調達

A社では、全社共通の教育は本社人事部が行っているが、それ以外の教育は各部門が独自に行っている。技術開発のスピード化が求められる技術開発部門では、「研修内製化」に大きくシフト。自社における過去の「失敗事例」を素材に、担当部門の技術者が司会進行役となって「ケースメソッド研修」を実施している。ケースメソッドとは、実際に起きた事例を教材として、あらゆる事態に適した最善策を討議し、学習者が自ら答えを導き出す教育・研修技法である。

ケースメソッドと似た研修手法にケーススタディがあるが、こちらは受動的な学びのスタイルで、ケースメソッドとは大きく異なる。ケーススタディでは「ある出来事(ケース)」から事前に学ぶ事項を特定し、それに関する解説資料を教える側が用意。学習者は受け身の姿勢で、「教えてもらう」ことになる。これに対して、ケースメソッドは能動的だ。「失敗事例」など意図的に構成された教材を用いて、学習者同士の討議を繰り返すことにより、原因を究明したり、解決策を導き出したりする。

A社が扱うケースメソッド研修でも、自社で実際に起きた「失敗事例」を基に、皆で議論が交わされている。その際、不具合や失敗を実際に経験した技術者が教材となるケースを作成し、研修の司会進行役を務める。取り上げるテーマも司会進行役も全て社内から調達される、自社オリジナルの研修だ。

過去の失敗には情報共有だけでは理解できない「暗黙知」が隠されている

あえて過去の「失敗事例」から学ぶ研修を導入したのは、この先、同じ失敗を繰り返さないこと、また、問題解決へと結び付く技術力を磨くことを目的としているから。もともとA社には、「失敗事例」を社内文書としてまとめた、データベースがあった。そこから必要なケースを引き出して応用するなど、情報共有化という観点では、以前から一定レベルのものが存在していた。しかし、若くて経験の浅い技術者の場合、このような情報共有だけでは、深い気づきを得ることが難しい。過去の失敗には、情報共有だけでは理解できない「暗黙知」が隠されているからだ。A社ではそれらを、議論を通じて得られる「形式知」として学ばなければ技術力は向上できない、と考えたのだ。

「事例紹介だけでは、単に失敗したケースに関する知識を得るだけにとどまってしまいます。本当に大事なのは、問題の解決に向けて自ら具体策を考え出す力を身に付けること。そのためにケースメソッドを用いて、グループワークによる実践的な研修を導入しました」(技術開発部門・人事教育担当者)

必要な情報は事前に公開しないのは「教えずに学ばせる」ため

A社は、ケースメソッド研修では「教えずに学ばせる」ことを主眼に置いている。先人の教訓を追体験しながら、参加者同士が議論することで、技術の本質を考えるようになることを目指しているのだ。「失敗事例の提示」→「グループごとに事実情報の収集」→「グループでの討議・問題点抽出」→「解決策の検討・グループでの意思決定・発表」→「司会進行役からのフィードバック」→「反省・一般理論(形式知)化」といったプロセスを踏みながら、考える力を養っていく。

ポイントは、問題発見・解決に必要な情報を、全て公開しないこと。「失敗事例」といっても、不具合の発生などの出来事を提示するだけだ。受講者は、問題発見・解決に向けてどんな情報が必要なのかを自ら考え、必要と思われる情報をリクエストする。その上で、新たに得た情報を基に原因を究明し、解決策を考える。この段階で初めて、全容が明らかとなるのだ。受講者自身が仮説を立てて考えるスタイルなので、自ずと実践的な問題解決力が鍛えられることになる。その際にカギを握るのが、ディスカッションのファシリテーションを行う司会進行役の存在だ。

A社では、自社の「失敗事例」を取り上げるので、担当部門の社員が司会を務めるとより深い研修内容になる、と考えている。また、司会進行役を選ぶ際には、メインターゲットを「中堅層」に置いている。中堅層は将来の技術開発をリードしていく存在であり、この層の底上げをすることが、A社の技術力向上に大きく寄与するとからだ。

司会進行役を育成するための講座では、基礎知識に関する部分は事前学習に回し、ケース作成のために時間を大きく割いている。4~5人を1グループとして、参加者同士が話し合いながら、ケースの作り方やファシリテーションの基本を学ぶ。また、参加者は自分が司会進行役となった際に使用するケース(失敗事例)を事前に決めた上で講座に臨み、他の参加者と活発に意見交換しながら、ケースのブラッシュアップに取り組む。

「不具合が起きた原因やプロセスを考えさせることを目的としているので、あまり結論が明白過ぎる事例は、学びに結び付きません。場合によっては、思考のバイアスに陥るような“ひっかけ”を設けるなど、議論が活発化し、いくつか仮説を立てることができるようにしています。また、受講者の興味を引くストーリーにすることも大切です」(技術開発部門・人事教育担当者)

柔軟な協働体制により、さらに研修を内製化

A社における「内製化研修」は、まだ始まったばかり。実際の効果が表れるのはこれからだが、続けていく中で感触が得られているという。研修後に実施したアンケートでも、受講者の8割以上から「良かった」という高い評価を得ている。今後は、司会進行者の育成を継続的に行いながら、技術開発部門全体で、失敗から学ぶ「討議の場」を展開していく予定だ。

各組織で展開していく際には、受講対象、開催頻度、1回当たりの参加人数、研修時間などについて特に決まりを設けていない。技術開発部門の人事教育担当と各部署が話し合って、より良い研修となるよう、個別に決めている。自社課題の解決からスタートしたA社だからこそ、協働体制を敷き、柔軟性を持って研修内製化を進めていくことが効果的であると、強く認識しているようだ。


この記事は会員限定です。会員登録(無料)をすると続きを読むことができます。
登録10秒!メールアドレスだけで簡単にご登録ができます
会員の方はこちら
次のページ
専門教育の体系化のためにoff-JTの場として「ビジネスキャンパス」を設立
  • 1
  • 2
  • 次のページ

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

人事マネジメント解体新書のバックナンバー

もう外部に頼るだけじゃない!「研修内製化」の秘訣とは(後編)
自社課題の解決と専門教育の体系化に取り組む2社の事例
「研修内製化」はコスト削減だけではなく、自社のニーズに合った教育ができるなど、さまざまなメリットが期待できる(前編参照)。「後編」では、自社課題の解決や専門教育...
2018/04/20掲載
もう外部に頼るだけじゃない!「研修内製化」の秘訣とは(前編)
近年、社外の教育ベンダーやコンサルタントに委託していた研修を、自社で内製化しようとする企業が増えている。自社内で研修のプログラムを企画し、社員が講師を務める、「...
2018/04/13掲載
人事マネジメント「解体新書」第110回
部下のやる気を引き出し、自律を促す「メンター制度」(後編)
新入社員を職場全体で育てていく、キーパーソンとしての「メンター」の役割とは?
近年の新卒採用は売り手市場が一段と進み、採用のミスマッチが顕在化したため、入社後のフォローの重要性が今まで以上に増している。しかし、配属先の現場では早期戦力化が...
2017/12/28掲載

関連する記事

社員同士がSNS形式でアドバイスし合い、社内大学で教育し合う仕組みを構築。人の関わりが孤独感を消し去り、成長を促す
三和建設は2017年3月に、建設業界で初めて「日本でいちばんにしたい会社」大賞の審査員会特別賞を受賞しました。同社では社員の誰もが書き込んで意見交換ができるSN...
2018/07/17掲載編集部注目レポート
社員研修・人材育成の実務(5)研修会社の選び方・付き合い方 、外部講師の探し方
多種多様な研修会社の中から、自社にぴったりのパートナーを選ぶ秘訣とは?
2017/02/28掲載よくわかる講座
社員研修・人材育成の実務(1)自社にふさわしい教育体系をつくる
社員教育の「独自性」と「成果」を両立させるための教育体系を考える
2017/02/28掲載よくわかる講座
ソフトバンクグループ
“300年以上成長し続ける企業”を目指すソフトバンクグループの
人材育成戦略(後編)
300年以上成長し続ける企業を目指すという、ソフトバンクグループ。研修を内製化することも、そうしたビジョンと一貫した人材育成戦略があったからこそ。『後編』では、...
2014/10/31掲載となりの人事部
ソフトバンクグループ
“300年以上成長し続ける企業”を目指すソフトバンクグループの
人材育成戦略(前編)
300年以上成長し続ける企業を目指すという、ソフトバンクグループ。研修を内製化することも、そうしたビジョンと一貫した人材育成戦略があったからこそ。『前編』では、...
2014/10/27掲載となりの人事部

会員として登録すると、多くの便利なサービスを利用することができます。

20代優秀層の採用ならキャリトレ

注目コンテンツ

【人事の日制定記念企画】
オピニオンリーダーからのメッセージ

HR領域のオピニオンリーダーの皆さまから全国の人事部門に向けてメッセージを頂戴しました。


人事メディア情報

人事メディア情報

人事・労務関連の代表的なメディアをご紹介いたします。


1日30分、週3日、3ヵ月。<br />
それだけでTOEIC®テストスコア500点突破を目指せるプログラムとは?

1日30分、週3日、3ヵ月。
それだけでTOEIC®テストスコア500点突破を目指せるプログラムとは?

グローバル化が進む現在、多くの企業が社員の英語力向上を課題としています...