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人事マネジメント「解体新書」

部下のやる気を引き出し、自律を促す「メンター制度」(後編)
新入社員を職場全体で育てていく、キーパーソンとしての「メンター」の役割とは?

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前編」でも見たように、近年の新卒採用は売り手市場が一段と進み、採用のミスマッチが顕在化したため、入社後のフォローの重要性が今まで以上に増している。しかし、配属先の現場では早期戦力化が求められ、新入社員の育成・定着に手が回らない企業も多い。そうした中、現場に配属された新入社員を職場全体で育てていく仕組みを取り入れ、新人のやる気を引き出し、自律を促していくケースが見られる。その際のキーパーソンとなるのが、「メンター」だ。「後編」は、職場全体で継続的な人材育成を行っている「メンター制度」の取り組み事例を紹介する。

事例A社:「育成計画表」に基づき、メンター主導で新入社員の育成を行う

A社(食品メーカー)は、経営方針の一つに「人材育成」を掲げており、その中で「若手社員の早期戦力化」が大きな課題となっていた。しかし、新入社員への対応に戸惑う現場があり、OJTは行われているが形式的で、受け入れ態勢は各職場に任せきり、というのが実情だった。そこで、人材育成強化の一環として「メンター制度」を導入。仕組みによって、若手社員の育成支援を図ることになった。

◆配属先の受け入れ態勢による、新入社員の成長度合いのバラつきに危機感を抱く

M&Aによる事業拡大が進むA社では、配属先の受け入れ態勢によって、新入社員の成長度合いが大きく異なっていることが問題になっていた。研修を担当する人材開発部門によると、入社半年後のフォロー研修で、新入社員の行動レベルや仕事を進める上での考え方など、職場間によって成長度合いに大きな差が生じていた。強い危機感を抱いた担当者は、入社後に大きく成長している社員に着目。ヒアリングを行ったところ、配属先の上司が自主的に新人の受け入れ態勢を整備し、育成計画を立て、職場のメンバーを巻き込みながら重点的に指導していることがわかった。さらに、仕事だけでなくプライベート面においてもいろいろと気にかけて相談相手になるなど、上司自らがメンター役を担っていた。そこで、このような受け入れ態勢が各職場に整えば、新入社員の即戦力化と人が育つ職場作りを実現できると考え、「メンター制度」を導入することになった。

「メンター制度の狙いは、単に新入社員の成長促進だけでなく、メンター役を担当する若手社員の育成指導力の向上、何より全社的な人材育成風土の醸成に重点を置きました」(人材開発部門・教育担当者)

◆「選出基準」の下、上司の指名によってメンターを選出し、年4回の研修を実施

メンター制度の運用には、人材開発部門が大きく関与している。メンターは所属部門の上司が指名するが、選出に際しては、「同じ部署に所属している」「新入社員の育成に興味・関心がある」「新入社員のできないことに我慢ができる」「自分自身の仕事に情熱を持っている」などの「選出基準」を設置。「入社5年目まで、30歳未満の若手先輩社員」を対象条件とした。なお、新入社員一人に対して、必ずしもメンターが一人とは限らない。同部署に該当する年代がいない場合には、メンターが二人付く「ダブルメンター」もあり得るとした。

メンターの活動時期は、新入社員の配属が決定した5月から、翌年の3月まで。選出されたメンターは、年4回の育成支援研修を受講して育成スキルを習得し、メンター活動における不安の払拭や、課題解決などに取り組む。また、育成支援研修でのポイントは、「メンターのモチベーションが上がり、いかにやりがいを持って育成支援に取り組める状態になるか」。そこで、メンター一人ひとりの地道な育成活動が次世代の基盤作りになること、会社からメンターに期待すること、メンター経験が自らの成長に大きくつながることなどについて、さまざまなエピソードを通じて伝えている。

「メンターの役割や具体的なイメージを共有してもらうために、研修はグループワークを中心に行っています。他のメンターと意見・感想を交換することによって、単なるスキル・知識の習得だけにとどまらず、お互いに刺激を与え合うことができるからです。また、職場の理解や支援が得られないとメンターの負担が大きくなるため、上司と制度の必要性や活動内容を共有する合同研修という形を取っています」(人材開発部門・教育担当者)

◆上司と協働で作成する「育成計画表」に基づき、メンター主導でメンティー育成を行う

新入社員に対する日々のOJT指導は、メンターと上司が育成支援研修で「育成計画表」を協働で作成した上で、メンターが主導になって行う。育成計画表は、新入社員の1年後の「あるべき姿(ゴール)」を定め、それに必要な条件と業務経験を定めたもの。育成計画表には、4半期ごとの「できるようになってほしいこと」「指導方法」「具体的な指導内容」「振り返り」を、メンターが記入する。9月の振り返り研修の際に、進捗状況の確認と計画の修正を行い、最後の研修で「あるべき姿」と「成果」を照合。確実にステップを踏んでいくことで無駄をなくし、効果的な育成を可能としている。なお、育成計画表をメンティーである新入社員に見せるかどうかは、上司の判断に任せている。

「新入社員からすれば、1年後のゴールを共有してもらうことで当然、モチベーションは上がります。そのため、育成計画表を開示する上司が増えています。ここでは1年後のゴール実現のために、育成計画の一環として、今の仕事に取り組んでいることを理解してもらいます。業務に対する意味づけを行い、成長への意欲を動機付けることを狙っています」(人材開発部門・教育担当者)

このように現場に運用を委ねる一方で、人材開発部門が要望しているのが、上司を交えた新入社員とメンターとの「三者面談」。ここでは「週間コミュニケーションシート」を用意し、新入社員とメンターがシートにコメントを記入、それに対して上司からの視点で感じたことをフィードバックする形式で、月に1回実施している。「三者面談」はメンターと新入社員の想いをくみ取り、それを上司が把握する場として機能している。

◆メンター自身が成長し、視座の高さを持って育成に取り組むように

メンター制度の導入によって、メンター自身の成長にも効果があった。これまではどちらかと言うと、当事者意識が低く、他責になりがちだったが、今の自分たちに何ができるかを主体的に考え、討議するようになったのだ。中には、マネジャーのような視座の高さを持って、育成に臨むメンバーも出てきたという。

さらに、メンターが1年間の活動を振り返り、そのプロセスと結果をまとめた新人育成のための「育成ハンドブック」を作成した。これにより、人材育成支援のためのノウハウがストックされ、全社的な人材育成に向けての風土が形成された。その結果、いくつかの職場では自主的にメンター制度を行うようになっている。たとえば、前年度のメンター社員が自主的にメンター役を引き受け、部署全体で後輩を指導していくことを上司に提案し、若手社員の指導・育成に当たっているケースもある。人を育てることに対して、やりがいと喜びを感じる社員が増えることは、メンター制度が浸透しつつあることの表れと言える。

「メンターの熱心な姿勢を目の当たりにし、メンティーである新入社員にも良い影響が出ています。2年目以降に『自らメンターになりたい』という新人もかなり出てきました」(人材開発部門・教育担当者)

A社では、メンターになることは成長の機会である、という認識が職場内に広まっている。メンター制度を導入して3年が経過したが、継続的な取り組みによって、育成風土が確実に醸成しているようだ。

 


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