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人事マネジメント「解体新書」

「健康経営」の時代
~健康を「経営課題」と位置付け、社員の健康増進図る企業例(後編)

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B社:「健康塾」「長時間労働削減」「休暇取得促進」で、健康意識向上と自発的行動を促す

B社は町工場からスタートした後、社員数も増え、現在では海外にも進出している中堅の機械メーカー。今後、さらなる成長を図るには、社員の健康やワークライフバランスの充実に着目し、強化していくことが欠かせないと経営トップが判断。ベテラン男性社員が多い中、「健康意識アンケート」を実施して課題を抽出、「健康経営」に向けた取り組みを実施することになった。

◆「健康意識アンケート」で現状を把握し、取り組み方針を決定

B社の社員の男女比は9:1で、平均年齢は40歳を超えており、多くの男性社員が健康リスクの高まる時期を迎えていた。近年は新卒者を毎年採用していて若年層が増えており、ベテラン社員との年齢幅が拡大。中高年層へのケアが大きな課題となっていた。またB社は「営業」「管理」「海外事業」「生産技術」の4部門からなるが、特に「生産技術」に多くの社員が所属しており、業務の特性上から長時間労働が問題となっていた。

B社は社員の健康づくりを進めるにはまず、社内の現状把握が必要だと考え、管理本部で「健康意識アンケート」を実施。「健康(意識・気を付けていること)」「食事(回数・夕食時間・食事のスピード・嗜好・気を付けていること)」「運動(内容・頻度)」「睡眠(意識・時間・不眠の理由)」「関心のある病気・症状」「飲酒・喫煙」「健康測定器の所有・使用」「興味のある健康研修」の8項目について、部署別・年齢別・男女別・勤続年数別の切り口で集計・分析を行った。これによって、社員の意識と定期健康診断の結果との「ギャップ」が明らかになった。

例えば、社員側の意識では、「健康だと感じている」が半数を占めていましたが、実際の健診結果を見ると、「異状なし」はわずか6%。両者に相当のギャップがあると分かり、できるだけ早く具体的な施策を打たなくてはならないと、強い問題意識を持ちました(管理本部課長)

管理本部はアンケート結果を用いて細かく現状分析を行い、課題を抽出。その結果を見た経営トップは早急に対応することを決断し、「社員自身の意識を高めるセミナーや、健康に関する情報提供と生活習慣改善の取り組みを支援する」という取り組み方針が決定した。

◆「健康経営」に向けた具体的な施策

施策は、かけられる予算などの都合もあって、「健康づくりプラン」「長時間労働削減」「休暇取得推進」の三つのテーマに絞られた。

(1)健康づくりプラン

まず、40歳以上の社員を対象に、会社が全額を負担して人間ドックの受診を義務化。さらに、社員食堂ではカロリー調整を行うために、小鉢を選ぶメニューやサラダバーイベントなどを導入した。また、会議室をコミュニティールームとして活用し、軽食の自動販売機や健康器具を設置したり、疲労回復セミナーを開催したりするなど、社員一人ひとりが健康を身近なものとして意識できる環境の整備からスタートした。

アンケート結果から、夕食時間が遅いこと、メタボ該当者が多いことが分かったので、人間ドックの受診の義務化は必須でした。また、コミュニティールームをつくり、仕事が遅くなっても軽食を取れるよう自動販売機を設置したり、業務の合間や休憩時間に健康器具に触れながら、社員同士が健康に関して会話できる場を設けました(管理本部課長)

さらに、社員一人ひとりが自分自身の健康について考える機会が必要であると考え、「健康塾」をスタートさせた。「健康測定」「運動」「食」「メタボ」など、毎月、身近なテーマを取り上げ、生活習慣改善に働きかけを行う社員参加型の講座(セミナー)だ。参加は自由で、社内のイントラネットから申し込むことができる。就業時間内に行われ、全国の各拠点にはWebで同時中継を行っている。原則として参加は強制しないが、メタボ該当者やその予備軍に対しては、将来の重大な病気に関わることから、受講を必須としている。

経営の最重要課題として社員の健康づくりに取り組んでおり、必ず就業時間内に実施します。経営トップの強力なリーダーシップにより、現場の上司からも理解が得られています(管理本部課長)

(2)長時間労働削減

長時間労働の削減に関しては、具体的な数値を掲げることが不可欠と判断。部署ごとに具体的な数値目標を設定した。各々の目標に関して定期的な報告と社内公表を行うことで、職場での労働時間を管理する上司の意識改革を図った。

また個人だけではなく、組織として取り組むことが目標達成には不可欠であるため、執行役員が委員長となり、各部署の課長級以上で構成される「残業削減委員会」を設置。部署ごとに、例えば「会議の時間を短くする」といった目標を掲げ、その達成度を管理した。さらに3ヵ月に一度、報告する場を設けて部署ごとの取り組み状況を開示、見える化を図った。目標が達成できていなければ、何が問題なのかを委員会で議論し、長時間労働の少ない部署の働き方の事例を共有するなど、実効性のある改善を推進。本部長会議では長時間労働者をチェックし、直属の上司へ是正指導を行った。

目標設定と達成度評価を行うことによって、残業削減を促すわけです。実際、全部署の結果を可視化すると、労働時間管理への大きな意識付けとなります(管理本部課長)

(3)休暇取得推進

B社では「健康経営」をより推進していくために、年次有給休暇の取得推進が重要だと判断。これまでの対応を改め、有休の取得促進に向けて、「1次目標:全社員が必ず5日間取得」「2次目標:3か年中期計画の有休取得率20%アップに当たる平均11日間取得」という2段階の数値目標を掲げた。

ただし、いくら呼びかけても、職場の上司が自ら有休を取得する風土がなければ、部下は休暇が取りづらい。また職種や部門によっては、社員間に不公平感が出る可能性もある。そこで、連続休暇や半日休暇の有効活用、業務の複数担当制などを提案し、休暇取得促進を仕組み化して対応を進めていった。

休暇取得中は、周囲の人たちがフォローしなくてはなりません。そのため、誰かが休暇を取る人の仕事を分かっている必要があります。そうすると、仕事が属人化せず、業務の見直しにもつながります。そうした効果・効用も見逃せません。いずれにしても、休みやすい雰囲気をつくるには、上司が率先して休暇を取得することが大切であることは間違いありません(管理本部課長)

◆今後の展開

B社のような中堅・中小企業では、大手企業のように必ずしも専任部門があるわけではない。通常業務と兼務しながら、少人数で運営していくケースが多いのが一般的だろう。コストをそれほどかけられないという事情もある。

まずは、できるところからスタートさせることです。当社も、他社の事例を見たり、付き合いのある関係者に相談したりするなど、外部の力を借りながら、試行錯誤でやってきました。ただし、やるからにはコストではなく、投資という考え方が欠かせません。そうした前向きな意識がないと、活動が継続していかないからです(管理部門課長)

事実、ここまでのB社の「健康経営」に対する社員の反応は好意的なものが多く、「健康塾」の後に行ったアンケートを見ても、継続参加を希望する者がほとんどで、健康意識の向上、行動目標の設定など、「健康経営」への取り組み前とは、相当な意識・行動の変化が見られる。このように参加する社員も運営する側も、前向きに楽しんで続けられることが、会社全体の健康づくりの気運を高めていく秘訣かもしれない。

*               *

A社、B社に共通しているのは、従業員の健康に配慮することが経営面で大きな効果を期待できる、と明らかにしている点。従業員の健康管理、健康づくりの推進は、医療費という「経費の節減」だけでなく、「従業員の生産性や創造性の向上」さらには「企業イメージの向上」といった効果が得られ、企業におけるリスクマネジメントとしても重要だと言えるだろう。健康な従業員がいるからこそ、企業は成長、発展していくのだ。

解説:福田敦之(HRMプランナー/株式会社アール・ティー・エフ代表取締役)

 


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