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人事マネジメント「解体新書」

「健康経営」の時代
~健康を「経営課題」と位置付け、社員の健康増進図る企業例(後編)

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「健康経営」とは、従業員の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践することに他ならない。経営の視点から従業員個々人の健康に介入することによって、利益効率の高い職場集団を形成し、かつ日本特有の労働法規の遵守、安全配慮義務の遂行、健康保険組合の財政の安定化などを通して、企業と従業員に利益をもたらすことをゴールとしている。「後編」では、このような観点から健康を重要な「経営課題」と位置付け、社員の健康増進を図っている2社(大企業・中堅企業)の事例を紹介する。

A社:「賞与減額制度」「宿泊型保健指導」「ヘルスケアポイント付与」で、健康・生活習慣の改善・意識付けを促進

A社(大手小売業)は、高齢化社会におけるニーズ変化を見据え、顧客の健康生活をサポートするとともに、グループ企業で働く社員の健康増進に取り組む方針を打ち出した。社員自身の健康状態を改善する必要性が強く意識されたことに加え、短時間労働者を対象とした社会保険制度の適用拡大に向けて、健保組合の財政健全化が課題となっていたからである。

◆「健康経営」への取り組みを始めた背景とは?

A社では社員の健康を企業の重要課題の一つと位置付け、健康増進を支援する制度を広く推進。経済産業省・東証が認定する「健康経営銘柄」にも選定されている。このような取り組みを始めたのは、全国展開を図る大手小売業として、社員にとって働きやすく、その能力を発揮できる体制づくりが求められていたから。また、社員が健康に過ごすことによって生産性が向上し、コストと認識される「医療費」も抑制することができる、という狙いもある。具体的には、以下のような三つの背景があった。

【取り組みを始めた三つの背景】

SVの健康状態が不良 A社では、社員の約3分の1に当たるSV(スーパーバイザー)の健康状態が良好ではなかった。小売業の要となるSVは地域ごとの担当制で、自動車での移動が多く、運動不足になりがち。多忙のため、車中で食事を簡単に済ませることも多かった。また、業務の特性上、勤務時間が不規則であることも、健康面でのリスクを高める原因となっていた。
管理職の病気による長期離脱 組織の長である管理職が体調を崩し、現場から長期離脱する事態が発生したことで、社員の健康が組織運営に大きな影響を与えることが強く認識された。こうした事態を回避するためには、社員の健康状態を把握し、生活習慣の改善を促すことで、重篤化を未然に防ぐ必要がある、とトップが判断した。
健保組合の財政悪化 後期高齢者医療制度の開始を機に、健保組合の財政が悪化。さらに短時間労働者の社会保険が適用されるなど、今後は保険料の負担増加が見込まれていた。そのため、慢性疾患につながる健康状態の悪化を事前に予防することで、健保組合の財政を健全化することが重要な課題となっていた。
◆「健康経営」に向けた具体的な施策

「健康経営」を進めていくには、トップからのメッセージが不可欠である。A社では、社長自らが「最高健康責任者(CHO:チーフ・ヘルス・オフィサー)に就任し、「健康経営宣言」を制定。統括産業医と健保組合理事長をCHO補佐に任命した。また、人事部内には「社員健康チーム」を設置。健保組合、労働組合と連携して、「肥満」「脂質」「血圧」「血糖値」などを重点項目とし、中長期的な視点から各種施策を展開することになった。また、「定期健康診断」の結果を基に、社員を「正常域」~「就労制限(休職含む)」までの7段階に振り分け、そのレベルに応じて、会社・健保組合が行う施策へ誘導し、リスクレベルの改善につなげている。A社の施策は多岐に渡るが、ここではポイントとなる三つの施策を紹介する。

(1)「定期健康診断」未受診者に対する「賞与減額制度」

会社が実施する「定期健康診断」を受診しなかった社員に対して、再受診を促す通知を年3回行う。それにもかかわらず、年度内に受診しなかった社員には「賞与減額制度」が適用され、翌年度の上期賞与から15%減額、直属上司も10%減額となる。また、「定期健康診断」の結果、再検査を勧められたのに受診しなかった場合も、本人の賞与が減額される。

本人だけでなく、上司まで対象にしたのは、制度の実効性を高めるためです。受診を妨げない職場風土を醸成するために、あえてインパクトのある賞与を減額する、という制度としました(人事部担当者)

(2)宿泊型の「保健指導」

「精密検査」以上のリスクがある社員に対して、1泊2日の宿泊研修による「保健指導」を実施。人事部から一人がコーディネーターとして参加し、外部委託した医師、保健師、管理栄養士、インストラクターが指導役となる。研修のメニューは健康管理に関する座学からスタートし、ウォーキングなどのレクリエーション、運動法や食事の改善法など、詳細な指導を受ける。このような内容としたのも、A社では「肥満」「脂質」「血圧」「血糖値」を重視しているからで、これらは脳梗塞や心筋梗塞、糖尿病など重篤な疾患につながるリスクが高いためである。

精密検査に該当する社員にとって、類似のリスクを抱える同僚とともに日常を離れ、生活習慣を根底から見直す機会を得られる効果は大きいと言えます。参加者も、来てよかったという声がほとんどです(人事部担当者)

(3)「ヘルスケアポイント」の導入

疾病リスクがそれほど高くない社員に対して、社員各人の「健康活動の目標設定」と「その達成度合い」に応じてポイントが付与される「ヘルスケアポイント」を導入した。まず、「定期健康診断」の結果から、各自が取り組むべき三つの「健康課題(目標)」を設定する。目標は「毎日10000歩以上歩く」「毎日体重を測り、記録する」など、それぞれの判断に任せている。設定した目標は、健保組合のポータルサイトに登録。目標達成に向けて90日間、毎日の行動をサイトに入力する。スマホでも入力できるので、ゲーム感覚で手軽に取り組むことができるのが特徴だ。期間が終了すると、「ヘルスケアポイント」が付与されるが、当初の目標を達成していれば、ポイントが上乗せされる。健保組合が実施するeラーニングを受講したり、イベントに参加したりすれば、さらにポイントが加算。獲得したポイントは、A社グループの各店舗で使用できる共通ポイントと交換できるので、モチベーション向上にもつながる。

◆今後の展開

これまでの取り組みは、社員には非常に好評である。会社として重視している項目の中では特に、「血圧」に関して着実に改善傾向が見られる。また予防だけではなく、現病歴への対応も行う。例えば、既に糖尿病の治療を行っているのに「血糖値」の数値が改善していない社員がいれば、いろいろな対策を講じている。面談を通じて数値が改善しない理由をともに考え、場合によっては専門医療機関を紹介し、転院させることもある。さらに今後は、メンタル面の対応も厚くしていく予定だ。

今後は社員だけでなく、フランチャイズ店舗のオーナーや従業員に向けた施策も行うという。店舗で行える「立ち仕事エクササイズビデオ」の作成・配布や、オーナーの多くが加入している国民健康保険が実施する人間ドックの費用補助などを計画している。これもA社グループに関わる全員が健康で働くことを、第一に考えているからだ。

そのためにも、人事部が常に現場の社員に働きかけ、健康に対する意識を高めてもらうこと。また、健保組合が医療や生活習慣について、積極的に介入することが大切です。そうしたアプローチを徹底することが、成果を出すことの第一歩だと思います(人事部担当者)

また、健康状態に問題を抱えている社員が多い部署には、管理職に声を掛け、必要に応じてサポートしていくという。そのような手厚い対応が、「健康経営」を生む職場風土の醸成につながっていくのだろう。

 


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