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人事マネジメント「解体新書」第102回
これからの組織を支える「ミドルマネジャー」を育成する
期待される役割を見直し、ミドルマネジャーを活性化させる方法とは?(後編)[前編を読む]

経営を取り巻く環境の変化とともに、職場における多様性、複雑性が高まっている。そうした中、「ミドルマネジャー」に求められる「役割」が、これまでとは大きく異なるようになってきた。強固なリーダーシップを発揮するよりも、現場目線で周囲とコミュニケーションを取りながら、組織全体に協力・支援し合える「関係性」を作り出すミドルマネジャーが求められているのだ。そのようなリーダーの存在が、これからの人と組織を活性化させていくのではないだろうか。では、今日的なミドルマネジャーを育成していくためには、どのような取り組みを行っていけばいいのか。「後編」では具体的なケースを元に、そのポイントを探っていく。

事例A社:日々の経験をお互いに学び合う「体感型研修」でミドルマネジャーを育成

A社は、基幹ソフトからアプリケーションまでのソフトウエア開発、システム構築などを中心に事業を展開、これらの技術を元にソリューション・サービスを提供している。人材育成に関しては、経営層や若手社員と比べると、現場をリードするミドルマネジャーにに対する研修プログラムが質・量とも少なく、ソリューション・サービスを積極的に展開していく上で、大きな人事課題となっていた。

◆ソリューション・ビジネスへの転換の中、ミドルマネジャーの強化が大きな人事課題に

A社はソフトウエア開発を専業としており、仕事の多くはグループ関連会社からの発注で、相応の技術力さえあれば経営が成り立つという組織構造だった。そのため技術教育に比べると、マネジメント教育には、これまであまり力を入れてこなかった。しかし近年は、ソリューション・ビジネスへの転換が迫られるようになり、仕事のやり方自体も変化。チームで対応していかなければならなくなっていたが、技術本位の仕組みに慣れ親しんだ多くの社員にとってはこれまでの仕事スタイルを変えることが難しく、マネジメントに対する意識も低かった。そこで同社では、組織の中心に位置するミドルマネジャーに、「変革の推進者」としての役割を果たしてもらうことが重要だと考え、ミドルマネジャー研修に力を入れることになった。

◆実践と学びをリンクさせた研修を実施

ミドルマネジャー育成に取り組むに当たり、社内の慣れ親しんだ人たちだけでは緊張感を欠くのではないか、という懸念があった。そこで、関連会社のミドルマネジャーにも参加を求め、赤裸々な経験をさらけ出しながら、お互いに学びを得ていく研修とした。

【研修のコンセプト:現実の体験について熟考する】
  • 形式は、マネジャーが自分自身をコーチし、また互いにコーチし合う「セルフコーチング」と「相互コーチング」とする
  • 集まったマネジャーたちは、これまで蓄積してきた長年の経験を活用する
  • セッションのテーマは、マネジャーたちの経験に基づき、直面している個々の課題に合わせて設定する
「実践と学びをリンクさせた研修をきっかけとして、ミドルマネジャーが直面する課題について対応できるマネジメント力を蓄えていくことができれば、メンバーの持つ潜在的な力を顕在化していき、組織として強くなれるように考えました」(人材開発室リーダー)

◆プログラムの特徴と学習のステップ

参加するマネジャーは40代が中心で、誰にも一定のマネジメント経験がある。研修は土曜日の午前中に2時間、月に3回ペースで実施した。プログラムの特徴は「共感の連鎖をつなぐ」と「自らの経験に学ぶ」である。

「共感の連鎖をつなぐ」は、ミドルマネジャーの喜びと悩みを共に感じ合うことのできる「仲間」を作ること。ソリューション・ビジネスへの転換が進む中、求められる役割と責任は日々増しているが、ミドルマネジャーたちがその悩みを共有・共感するための「場」がなかった。そこで、一部の選抜された人だけでなく、多くのミドルマネジャーが悩みを共感し合い、ミドルマネジャーとしての真の喜びを発見し、広めていく「場」が重要であると考えたのだ。

真のミドルマネジャーは「座学」だけでも、「実務」だけでも育たない。「学び」と「実践」をリンクさせる必要あるため、研修では「自らの経験に学ぶ」ことを重要視した。経営学の理論を支柱に、参加したミドルマネジャーの「経験を題材」にして進めていったのだ。具体的には、「リフレクション(自己の振り返り)」と「ラウンドテーブル(相互コーチング)」という手法を用い、ここでは、ミドルマネジャーたちがこれまで蓄積した長年の経験を活用していく。

学習は「内省(マネジメントスタイル・メンタリングなど)」→「分析(ケーススタディ・戦略的思考など)」→「ビジネス観(世界観・ダイバーシティなど)」→「協働(対話・サーバントリーダーシップなど)」→「変革(チェンジマネジメント・総括など)」という五つの単位(モジュール)で構成され、それぞれに六つのテーマを設け、合計で30回のセッションを行う。セッションはまず、参加するミドルマネジャーが自分の経験を話すことからスタート。参加者全員がその経験を共有する。次に、セッションごとにテーマ(マネジメントに対する考え方)が提供される。これに対して、参加者は一人で、あるいは他の参加者とともにテーマに関連する自分自身の経験について熟考し、それをグループで共有する。これらの演習を通じて、テーマを深く理解してもらうのだ。また最後は、その日に何を考え、議論したことが自分にとってどんな意味があったのかを総括する。

新しい体験から得られた「洞察」は、次のセッションでも取り上げられる。連動性・関連性のある流れの下、参加者同士がなじんでくると、職場での経験や出来事を話す時間はお互いにとって、非常に有意義なものとなる。また、ここで学んだことは日々の業務に反映され、影響を与えていく。その結果、ミドルマネジャー自身が日々のマネジメントから学ぼうとする意識が醸成されていくようになる。これがとても大切な点である。

◆研修で振り返ることの意味と効果

日々の業務に忙しいミドルマネジャーは、仮に気づきがあってもなかなか行動に結び付かないことが多い。しかし、このような研修の場で一度立ち止まり、自分自身を振り返れば、いろいろな問題が見えてくる。

「優秀な人が多くいれば、それで良い仕事ができるというわけではありません。上司や部下との関係性が良くて、初めて良い仕事ができるということを、今回研修を実施して改めて思いました。まさに、マネジメントにおけるコミュニケーションの重要性が証明されたと言えます」(人材開発室リーダー)

事実、体験の分かち合いや実践を重視し、現実の仕事をテーマに教育を展開している点が参加者には好評だ。研修を終えた後のアンケート結果を見ても、予想以上の効果が上がっていることがわかる。

【研修後の感想】
  • 部下、チームに対して自分が取った行動を、深く振り返るようになった
  • 部下の育成を強く意識し、話を最後までしっかり聴こうと努力するようになった
  • 最近の出来事を思い出し、整理し、取り組むべき課題を抽出するようになった
  • 互いの経験披露のセッションに備え、日常のマネジメントについて深く考え、行動するようになった
  • 研修で得たポイントを、日々のマネジメントの中で反すうし、知見として蓄積することができた
  • 仲間を助けられるように、自分の引き出しを増やしていきたいと思った
  • お互いに自分自身で考えながら、個性を尊重できる非常に良い空気(雰囲気)が生まれた
「半年間、研修を継続して行ったことで、ミドルマネジャー自身が経験から学ぶことができるようになりつつあります。日々のマネジメントの中で気づきが生まれ、それを意識した行動を取れるようになったことは大きな成果と言えます。そして、参加者がお互いに率直に意見を話していく中で、参加者同士に一体感が生まれ、仲間意識が強固になったことは非常に大きな財産です」(人材開発室リーダー)

今後は、「体感型研修」をもう一回りスケールアップさせ、そこで得たチームの関係性を社内全体に広げていくことが課題である。そのためにも、研修の参加者がファシリテーターとなって、独自で社内展開していくことを目指している。実際、既に自部署の部下を集め、同様の取り組みを試みようとする動きが出ているという。

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