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人事マネジメント「解体新書」

仕事と介護の「両立支援」を考える
手遅れになる前に、企業はどんな対策を講じておくべきなのか(後編)

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高齢化社会が到来する中、多くの企業では仕事と介護の両立が大きな課題として顕在化してきている。介護への対応は、単に制度を整備・拡充すればいいというわけではない。運用の仕方や、従業員の意識啓発など、ハード面とソフト面の両方が必要となるからだ。「後編」では、独自の工夫を凝らしている先進企業2社の事例を紹介する。

事例A社:「介護」を軸に据え、長時間労働など働き方の見直しを図る

A社は大手建設会社。これまでの男性中心とした働き方の見直しを進める中で、「介護」をその軸に置き、情報提供と施策を展開した。その際、介護休業を分割して取得可能にするなど、運用面に工夫した対応を行い、社員からの理解と賛同を得ている。

◆社員の立場・視点に重きを置いた制度とその運用

「男性組織」の典型と言われる、建設業界。A社では長時間労働など、働き方の見直しを進める中で、男性を巻き込むための施策として「介護」をその中心に置いた。男性社員が働き方の見直しに向けて当事者意識を持つようになるには、介護への対応が重要なカギを握ると考えたからだ。

A社の介護に関連する主な制度は、以下の表の通りである。

【介護に関する主な制度】

介護休業制度 190日。分割、半日単位での取得も可能
介護休暇制度 要介護者一人につき、年7日。半日単位での取得も可能
勤務時間の繰り上げ・繰り下げ 1日の総労働時間を変えずに運用することができる
時間単位の有休制度 年5日。時間単位での取得が可能
復活休暇制度 繰越期間満了によって消滅する有給休暇を、介護に利用できるようにした。半日単位での取得も可能
勤務地変更制度 勤務地限定社員に対して、希望勤務地への異動を可能とした
再雇用制度 介護を理由に退職した人の再雇用
時間短縮制度 介護を理由にした労働時間の短縮

働き方の見直しに伴い、制度をより充実した内容にしたわけだが、その中でも特徴的と言えるのが介護休業制度である。介護休業の取得日数を最大180日から190日に増やしただけでなく、分割での取得、半日単位での取得も可能としたことが注目される。計算上だが、半日で取得した場合は最大で380回、分割取得ができるようになった。また、各制度同士を組み合わせて使用することもできる。例えば、半日単位の介護休業を取得し、勤務時間の繰り下げを行った場合は、11時~15時の間だけ働くといった使い方も可能となる。もっとも、その分だけ労働時間管理は煩雑となるわけだが、働き方を見直し、皆が安心して介護に従事するためには、さまざまなケースに対応したほうがいいと判断した。

「介護と仕事を両立しようとする社員が不利益を被らないよう、人事担当者が手分けをしてアドバイスを行っています。例えば、介護に直面した社員が各制度の有効的な利用の仕方を知らずに、休業を申し出るケースがよくあります。そのような場合、有休制度や復活休暇制度などをうまく組み合わせて対応するなど、できるだけ当該社員が介護をするに当たって損をしないようなプランを提案し、アドバイスしています」(人事責任者)

このようにA社の両立支援制度の中身や運用は、社員の立場・視点に重きを置いているわけだが、実際に利用されなければ意味がない。そこで、介護休業の分割取得・半日単位の取得が可能となったことを機に、制度の周知徹底を図ることにした。労働組合とタッグを組み、会社の介護に対する考え方と、介護休業規定がどのように変わるのかなどをまとめた冊子を作成。組合員が各職場に配布した。また、その内容を社内イントラネットに掲載し、全員が必修のeラーニングのテキストとした。また、介護に関する相談相手として一番多いのが上司であるという実態を踏まえ、管理職研修では、介護に関する相談を受けた時の心構えとアドバイス方法をプログラムに盛り込んだ。介護に関連する制度を学び、これからの働き方を考えるという一連の流れを上司が知ることは、組織運営上とても大切だと考えたからだ。

◆仕事と介護の両立に関するセミナーをリニューアル

A社はこれまでも仕事と介護の両立に関するセミナーを継続的に実施してきたが、働き方の見直しに伴い、介護に関する制度が変更になったことを踏まえ、セミナーの内容もより深めることにした。当初は女性活躍推進や職場環境の整備を契機に、社員に介護に関する情報を提供していたが、介護は誰もが係わる可能性があると啓発する内容を盛り込んだのだ。その結果、仕事が第一ではなく、介護やワークライフバランスの重要性について考え直すようになった男性社員も多数見られたという。そして、今回リニューアルしたセミナーはさらに細かく、具体的な内容へと落とし込んだ。プログラムの内容は「介護全般」「介護保険制度」「介護施設」「認知症」。参加は原則自由で、社内にセミナーの開催を告知し、参加者を募る形式にした。制度の改正もあって多くの社員が参加し、関心度の高さがうかがえる結果となった。

リニューアルしたセミナーは、いざ介護が始まった時にどう対応すればいいのか、座学だけではなく参加者同士で話し合うワークショップ形式にした。既に介護に関わっている社員が、体験談を積極的に話してくれるからだ。介護はプライバシーに関わる内容を含むため、人事部からは必要以上の働きかけはしなかったが、セミナーではこうした各人の「経験知」を知ることのできる場として、大きく機能している。

◆社員の声を施策へと反映

またA社では、40代、50代の男女から300人を抽出し、介護に関するアンケートを実施した。その結果から、介護に関する不安を抱えている社員が多いことを再確認し、各施策のブラッシュアップを図った。さらに、介護休業者に対して、ヒアリングを行った。ヒアリングでは、仕事と介護を両立するためにどんなことを希望するのか、介護を行う上での悩み、相談先などを聞いた。

「もう少し、こんなふうにしてもらうと使いやすくなる、といった話が参考になります。介護と仕事を両立している人と話し合うことで、人事としても分かったことがとても多かったように思います。今回、さまざまな要望や改善案を聞くことができましたが、これらの意見や要望に対して、新たなアドバイスをしたり、実際に制度を改正したりと、次の一手につなげていきました」(人事責任者)
◆今後の課題:仕事と介護を両立する社員が増え、個人のニーズに対応し切れるかどうか

現在A社では、介護をしている社員が希望する勤務地に可能な限り転勤させたり、一時的に特定の役割を解除したりして対応している。しかし、これらは介護をする社員が少数だからこそできることである。今後、社員の過半数が仕事と介護を両立しなければならない状況になったら、現在のようにはいかないだろう。ただ、両立しなければならない社員が一気に増えるわけではないので、徐々に対策を練って、個別のニーズに対応していくしかないと考えている。

そういう意味でも、これからの介護と仕事の両立支援のポイントは、情報提供を早い段階から行うことである。会社に制度があることは何となく知っているが、詳しくは知らないという社員が7~8割を占めている。会社の制度を知らなければ、そもそも両立の計画を立てることもできない。結局、身近な問題として介護が迫ってこなければ、行動しない人が多いのだ。いざという時にどこにアクセスすればいいかを知っているかどうかで、初動対応とその後の取り組みのスムーズ差は大きく違ってくる。この点を忘れてはならないだろう。

「目に見えない部分ですが、職場の風土作りも重要です。普段からコミュニケーションを取っていれば、たとえ長期間休んでも、時間的制約のある働き方をしても、お互いに支え合うことができます。介護を軸に、みんなで支え合う風土を醸成していくことが、今後、とても重要になってくると考えています」(人事責任者)

 


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