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人事マネジメント「解体新書」

社員に気づきと成長を促す「キャリア開発支援」(後編)
「キャリア開発支援」を積極的にサポートする2社の事例 (1/2ページ)

2016/04/20

前編」では、「キャリア開発支援」が求められる背景と、その対応(施策)と運用のポイントについて解説した。「後編」では、積極的に社員の「キャリア開発支援」を行っている2社の事例を取り上げ、キャリア開発支援をどのように推進しているのか、具体的な取り組み内容を紹介する。

事例A社:「育成面談」「キャリアデザイン研修」で、自律的な成長を促す
A社は大手精密機器メーカー。国内から海外へと成長戦略の方向がシフトする中、求められる人材像を新たに五つのタイプに設定。成長戦略を実現するために必要な人材を育成するため、教育体系の整備、資格・処遇制度の見直しを図った。それと共に、一人ひとりのキャリア意識(ありたい姿)に向けた成長意欲を原動力に、各人にとって最適なキャリア形成と最大の価値創造を実現できるよう、「育成面談」や節目の「キャリアデザイン研修」などを実施。自律的なキャリア開発を推進している。
◆求める人材が変化したことで、処遇の見直しとキャリア開発支援を強化

近年、A社を取り巻く事業環境は大きく変化した。グローバル事業の拡大により、国内・海外の売上比率が逆転すると同時に、顧客の価値基準がモノからサービスに比重を移したため、ソリューションに関する取り組みが拡大したのである。このような状況で成長戦略を実現していくには、これまでとは異なるタイプの人材が必要になる。そこでA社では新たに五つの人材タイプを設定し、その育成のために教育体制の整備と処遇体系の見直しを行った。併せて、社員自らがキャリアパスを描き、チャレンジしていくためのキャリア開発支援に力を入れることにした。

【五つの人材タイプ】
ビジネスリーダー 経営的視点を持ち、事業を成功に導く人材
イノベーター 新たなビジネスのシーズ・ニーズを発見し、事業を創造する人材
プロフェッショナル 自らの専門能力を商品やビジネスモデルに展開し、価値を創出する人材
プロジェクトマネジャー 組織横断的なプロジェクトで、チームをまとめ目的を達成する人材
マネジャー 組織長として、目標達成と人材育成を実現する人材

キャリア開発支援を重視するようになったのは、技術革新や情報の複雑化・高度化、グローバル化、顧客ニーズの多様化など、変化のスピードが加速している現在、社員一人ひとりに環境変化を素早く察知し、問題を発見して解決策を導き出すことのできる「変化対応力」が不可欠になっているからだ。そのためには自分自身で気づき、能力・スキルを高めて付加価値を作り出し、成果につなげるという「キャリア意識」、ありたい姿に向けた「成長意欲」が欠かせない。そこでA社は、社員一人ひとりの最適なキャリア形成と価値創造の実現を目的に、自律的なキャリア開発支援を推進することにしたのである。

◆キャリア開発支援を進める三つの施策

上記のような目的の下、A社では三つの方向性で社員の自律的なキャリア開発を支援している。

「育成面談と目標面談、そして部下育成研修、人事ローテーションを綿密に連携させ、能力開発を進めていく。それをキャリアデザイン研修が下支えして、キャリアコンサルタントが補完する、という形を考えました」(人事担当者)
(1)育成面談、部下育成研修の実施 キャリアの方向性を踏まえた、能力開発計画の立案・振り返り。社員のキャリア、育成を重視したマネジメントの推進を図る
(2)世代別キャリアデザイン研修の実施 30歳、40歳、50歳時に実施。世代ごとの特性に応じた社員のキャリア意識の向上を図る
(3)キャリアコンサルタント(個別相談)の設置 一人ひとりのキャリア開発を支援する環境整備を図る。
(1)育成面談、部下育成研修の実施

半期ごとに成果を問う目標面接に加え、年に2回、育成面談を導入した。社員の自律的キャリア意識を向上させると共に、社員と上司のコミュニケーションを高め、社員のキャリア・育成を意識したマネジメントを推進するためだ。育成面談では、以下のような取り組みを行っている。

育成面談申告書への記入 社員本人が育成面談申告書に、「現在の職務・業務、現職の勤務年数」「ありたい姿(中長期的なキャリアプラン)と自分の現状(強み・弱み)を比べ、必要となる能力開発は何か」「今後、どういう役割・職務に就きたいか」を記入し、育成面談に臨む。
面談の内容、上司が心掛けること 目標面接とは位置づけが異なるため、別の日時に一人1時間程度で行う。上司は育成面談によって部下の現状を知ることで、本人が考える専門性や強み、将来のありたい姿などを明確にし、能力・スキル向上のために今後取り組むこと、自らの将来のために今やるべきことを面談の中で明確にする。面談の結果を受けて、部下の業務や役割を見直し、育成ローテーションとつなげることにより、組織能力の向上・活性化を図る。
好事例集の作成・配布 育成面談を効果的に実施するために、育成面談で部下をうまく育てている好事例集を作成し、管理職層に配布している。好事例集には、部下のタイプ別にさまざまな事例を掲載している。

また、上司が育成面談の場を有効に活用し、部下一人ひとりの能力・スキルを最大限に引き出すため、部下育成研修を実施している。対象は、部下を持つ管理者全員。研修は1泊2日で実施し、面談スキルを強化すると共に、目標設定や目標達成度評価を部下育成につなげていくための育成スキルを指導する。

「面談・育成スキルを向上させ、部下のありたい姿を明確にし、中長期における“やる気の芽”を育てていくことを目指しています」(人事担当者)
(2)世代別キャリアデザイン研修の実施

育成面談を側面から支えるのが、30歳、40歳、50歳という節目に世代別に実施するキャリアデザイン研修。ここでは、自分がやりたいこと(価値観、動機、興味・関心)、自分がやれること(能力・スキル、強み)を明確にし、会社からは何を期待されているのか(役割、責任、課題、能力開発)を理解した上で、各社員が今後のキャリア目標や具体的なアクションプランを作成する。各世代のキャリアデザイン研修の内容は、以下の通り。

30歳のキャリアデザイン研修 大卒後10年近く経過した30歳の時点で、1回50人程度を集め、二日間をかけて行う。キャリアという視点から自己を再認識し、将来のキャリアをより充実した内容にするための手法を身に付けてもらうことを目的としている。研修を通して、専門性を高めて自分が組織にどう貢献するかという貢献領域を自分なりに作り込むこと、将来に向けて飛躍する時期にすること、自律的なキャリア意識を持ってチャレンジしてほしいことなどを伝える。
40歳のキャリアデザイン研修 1回20人程度と人数を絞り込み、二日間をかけて行う。参加者には、事前に「今までの経験」「取り巻く環境」「職場での役割」「組織からの期待」を洗い出した上で、研修に臨んでもらう。自分の性格や価値観、それまでの経験や成果、専門能力やビジネススキルを確認。自社、他社、社会など周囲の環境と照らしあわせ、将来実現したい姿をベースに、キャリアデザインシートを使って今後のキャリアプランをまとめる。
50歳のキャリアデザイン研修 1回50人程度で、二日間をかけて行う。一日目は、これまでの自分のキャリアを振り返り、自分のしたいこと、自分のできること(職務経験、業績、強み、専門性)、会社や周囲からの期待を理解した上で、今後のライフキャリアをデザインする。50代には、これまでの経験・ノウハウをよりいっそう活かしてもらうと同時に、後継者の育成、技術・技能・ノウハウを次世代に継承することが期待されている。二日目は、ライフプラン研修を実施し、定年後を見据えた人生設計のための情報提供・交換を行う。
「参加者からは『これからのキャリアをどうしようかと悩んでいたのでちょうど良かった』『自分の強み・弱みや適性を客観的に把握でき、今後に活かせると感じた』などの声が聞かれ、キャリアデザイン研修の評判は良いようです。会社の視点ではなく、個人の視点で研修を行っていることが大きいのだと思います」(人事担当者)
(3)キャリアコンサルタント(個別相談)の設置

キャリアコンサルタントは、自分のキャリアや将来像に不安や疑問を感じている社員に対して、専門家がより踏み込んだ相談に乗るもので、キャリア開発支援における環境整備の一環で実施している。当初はキャリアデザイン研修のフォロー面談的な位置づけで行われていたが、現在は、キャリアコンサルタントの有資格者が増えたこともあり、いつでも誰でも相談が受けられる体制になっている。

◆キャリアデザイン研修の内製化が今後の課題

今後の課題は、キャリアデザイン研修の内製化。というのも同研修は毎年、該当する年齢の全社員が受講するため、数百人規模で開催することになるからだ。社内のキャリアコンサルタントが講師を務めるなど、現在も内製化を行っているが、その比率を今後、高めていきたいと考えている。また、キャリア開発支援を推進していくためには、管理職に対する働き掛けがとても重要であるとも考えていると言う。

「管理職には、キャリア開発の意味とそれが会社にもたらすメリットを十分に理解してもらい、積極的な協力を得る必要があります。そのためにもアンケート結果などを用いて、キャリア開発が組織の活性化や生産性向上にどう貢献していくのかをはっきりさせていくことが人事として重要なテーマになっています」(人事担当者)

 


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1件中 11件を表示

1. ekさん その他業種 東京都
難しいと感じているのが、1.メンターや目標となるモデルの有無(尊敬される先輩) 2.「転職に有利なスキルを身に着けたい」と自分個人を優先する社員。

※コメントのほか、ニックネーム、業種、所在地(都道府県まで)がサイト上に公開されます。

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