キーパーソンが語る“人と組織”

ただ「健康増進」を唱えるだけでは届かない
健康経営を従業員のやる気につなげる「ウェルビーイング経営」の考え方(前編)

森永 雄太さん
(武蔵大学 経済学部経営学科 准教授)

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森永雄太さん 武蔵大学 経済学部経営学科 准教授
禁煙や運動習慣の推進、食生活の見直し……。従業員の健康増進につながる施策に会社を挙げて取り組む「健康経営」の考え方が定着しつつあります。少子化が加速し、労働人口が減り続ける中、一人ひとりが長く働き続けられるようにするための支援が重要であることは論をまたないところです。一方で、健康経営の取り組みが従業員の「やる気」や「働きがい」にプラスに作用しているのかどうかについては、なかなか手応えを感じられていない、という企業も多いのではないでしょうか。こうした課題を経営学の視点から考えるための検証を行ったのが、カルビー、ルネサンス、ロート製薬の3社が発起人となって2016年に発足した「HHH(スリーエイチ)の会」。本会の副座長を務めた武蔵大学 経済学部経営学科准教授の森永雄太先生は、「健康増進に向けた施策がモチベーション向上や会社へのコミットメント向上にもつながった」と手応えを振り返ります。健康経営は、組織をどのように変えていくのか。森永先生にお話をうかがいました。
Profile

もりなが・ゆうた●神戸大学大学院経営学研究科博士後期課程修了。2014年4月より現職。経営学の中でも経営管理論、組織行動論を専門としている。これまで産学連携を通じて大学生の社会人基礎力やリーダーシップを育成するプログラムを担当。また、企業や団体を対象とした講演や研修活動にも取り組んでいる。著書に『職場のポジティブメンタルヘルス―現場で活かせる最新理論』(誠信書房)、『日本のキャリア研究—専門技能とキャリア』(白桃書房)など。

「健康×経営学」の観点で100日間のプログラムに挑戦

―― まずは、森永先生がこれまで研究されてきたことからお聞かせいただけますか。

私は大学院時代、働く人のモチベーションや、従業員がやる気を自己調整することについて研究していたんです。人はどのようにやる気を自己調整しているのか、その方法についてヒアリングすると、MBAを取得しようとするような、もともとやる気があって優秀なビジネスパーソンすら、やる気が下がることがあると感じていることがわかりました。そしてそういった人たちの中には「面白くない仕事にアサインされても、やる気を感じられる仕事に変えるように自分で工夫している」と述べる人がいました。こうした考え方を積極的な自己調整方法として面白いと感じ、文献にあたっていくうちに、アメリカなどでは関連する研究が学会で発表されていることを知りました。「ジョブ・クラフティング」という考え方です。これを日本の文脈に当てはめて研究していくとどうなるだろうかと考えたのが、私が「ジョブ・クラフティング」を研究するようになったきっかけです。

―― もともとの専門領域から健康経営の研究へと、どのようにつながっていったのでしょうか。

2013年に、ドイツで開催されたヨーロッパの産業組織心理学会に参加しました。その際に驚いたのは、もともと経営学の考え方だったジョブ・クラフティングをイキイキと働くための研究として公衆衛生の専門家が熱心に取り組んでいたことです。これまでメンタルヘルスの研究では「ストレスを減らす」ことに主眼を置いていましたが、そうではなく、「イキイキと働ける状況であるかどうかが重要である」という考え方が出てきました。そのために必要なことは何かを考える中で、従業員が自発的に新たな仕事の領域に取り込んでいく「ジョブ・クラフティング」の重要性が注目されるようになった、という流れです。日本では、公衆衛生の専門家と経営学の研究者が協働するような動きはほとんどありませんでした。「今後は、このような動きが日本でも必要になるのではないか」と考えるきっかけになりましたね。

その後は、ポジティブな側面からメンタルヘルスをとらえる「ワーク・エンゲイジメント」を提唱する島津明人先生(北里大学教授)と一緒にお仕事をする機会を得て、「公衆衛生と経営学の学際領域」が重要である、との認識をますます深めていきました。そんなときに「経営学的視点で健康を考えていきたい」という「HHHの会」の趣旨を聞き、私も参加することにしたんです。

―― 「HHHの会」の名称は「Health(健康施策)×Human(従業員)=Happiness(企業と従業員の幸福)」の頭文字を示しているということですが、どのような取り組みを行っていたのでしょうか。

「HHHの会」はカルビー、ルネサンス、ロート製薬の3社が発起企業となり、その他にも14社が参画して、経営視点から健康経営推進の意義を発信するために設立されました。座長は金井壽宏先生(神戸大学大学院 経営学研究科 教授)です。2016年の単年度の事業として、チームで取り組む健康経営施策である「100日プロジェクト」を実施し、従業員の意識や行動にどのような変化が現れるのかを調査しました。参画企業の多くは、健康経営の取り組みの第1歩としてこのプロジェクトを進めていきました。

まず質問表調査に回答してもらい、100日プロジェクトに参加した後、効果を測定するために再度、質問に回答してもらいました。このほかにも、プロジェクト期間中はチーム内で健康習慣の実施状況などを共有してもらっています。

1週間ほどの短期間であれば、参加者も高い集中力を保てますが、100日となるとどんな人でも、必ず途中で「だれてしまう」期間があります。しかし、このプロジェクトでは各企業内でチームを組んでいたので、少しだれてしまっても、他のメンバーに励まされたり、相互に声かけをしたりすることで、持ち直すことができます。自分で決めた健康習慣を実施するともらえる「ポイント」数を社内のチーム間で競争しているので、競争心から頑張った人も多かったようです。参加企業の多くは「何から始めればいいのか分からない」という状態だったので、まずは小規模なプログラムからスタート。「この取り組みはそもそも自社に合っているのか」などと、根源的な見直しもできるような形で進めました。


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森永雄太さん:
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