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ホームページ、掲示板、ブログ……、会社を誹謗中傷するネット上の書込みへの対応

1.増加する誹謗中傷の書込み

ネット上において、会社に対する誹謗中傷記事が匿名掲示板あるいはブログなどに掲載される例が増えています。誹謗中傷の書込みを行う人々の意識には、プロバイダに課せられた通信の秘密義務および個人情報保護に守られた情報発信者の匿名性に基づく安心感、表現の自由に基づく権利意識、あるいは個々人の価値観に基づく企業への批判意識等があります。

●「A社は自社の製品に重大な欠陥があることを知りつつ隠しており、明るみに出れば倒産は間違いない」●「B社は経営状態が火の車で、いつ倒産してもおかしくない状態であるから、取引先は取引をやめたほうが良い」●「C社のサービスの提供内容が契約と異なるのでクレームしたところ、事実を否定された上罵倒された」

上記のように書き込まれた場合、それが事実に基づく告発なのか根拠の無い誹謗中傷なのか、ネットを閲覧している人々は、多くの場合、見分けがつきません。これは、当該企業の社員あるいはリストラされた元社員など、企業の内部関係者でなければ知りえない情報が流出している場合も含まれていることから、多少なりとも事実に基づいている可能性があるためです。

また、インターネット上では、書込みの容易さや匿名性、低コスト等の要因が相まって、情報の伝達が容易かつ即時に行われ、またその伝播力も大きいため、信用性の乏しい情報が大量に流通する結果、文書等に比して、被害企業の名誉、信用をより大きく損なう危険性もあります。

その結果、誹謗中傷記事を放置すると、その内容・掲載されたウェブの信用度等によっては、その風評が大きくなり、場合によっては株価や売上への悪影響、さらには株主からの責任追及の可能性すら生じてしまいます。

本稿では、ネット上に誹謗中傷が掲載された場合の企業の対応策、および常日頃よりネットに誹謗中傷が掲載されないようにするために考えられる企業の対応策をまとめてみました。

2.誹謗中傷記事が掲載された場合の対処策

1.考えられる対処のパターン

誹謗中傷記事が掲載された場合、企業としてはどのような対処方法があるのでしょうか。

これには、(1)企業としての説明責任を果たし、誹謗中傷への対抗言論により対処する方法、(2)誹謗中傷記事の発信を停止するようプロバイダないしサイト管理者に要請する方法、(3)発信者を突き止めて損害賠償を請求する方法、(4)発信者が社員である可能性がある場合に、社内において調査を実施し、懲戒処分を検討する方法、(5)名誉毀損、信用毀損、業務妨害となるような場合に刑事告訴する方法等が考えられます。

2.企業の説明責任を果たす方法

まず、企業としては、ステークホルダー(企業を取り巻く利害関係者)に対し、誹謗中傷に対する企業の立場を説明することを検討すべきでしょう。

ネット上で誹謗中傷の書込みをする者は、匿名性に隠れており、書込みを裏付ける事実を証明する意思も無い例が多いので、企業側からすると、適正な反論を行使する場としては適切ではありません。そこで、書込みがなされた掲示板等の上で反論することは避け、企業としてオフィシャルに説明責任を果たすため、自社のホームページ上で、公正に調査した結果を公表することにより、いわれの無い誹謗中傷に対し適切に反論するべきでしょう。

なお、調査に際しては、内部のリソースだけで解決させず、必要に応じて外部の客観性および公正性の担保された第三者(監査法人、弁護士など)を含めて調査し、結果を公表することが望ましいでしょう。

3.記事の発信を停止するようプロバイダ等に要請する方法

1)考えられる問題点
ネット上の書込みが誹謗中傷である場合には、第一にネット上の掲載の削除を求め、第二に加害者を特定し、その者を相手に訴訟を提起することが考えられます。

このうち第一の削除については当該掲載ウェブサイトの運営者の協力が必要であり、また第二については加害者を特定するためにその者の住所および氏名を知る必要があります。

しかし、第一の点については、ウェブサイト運営者が安易に削除に応じた場合、発信者との関係で責任を追及される恐れがあるため、従来は削除の可否の判断基準が不明確でした。

また、第二の点については、プロバイダが電気通信事業法上の通信事業者として通信の秘密を保持する義務を負担している(電気通信事業法4条2項)ことから、被害者から要請されても安易に開示するわけにはいかないという問題がありました。

(2)法律等の整備

このような問題に対処するため、匿名性の高いインターネットにおける情報発信による誹謗中傷が発生した場合に、プロバイダないしウェブサイト運営者に対し、第一に削除に応ずる場合の免責基準を明確にするとともに、第二に一定の要件のもとに通信の秘密保持義務を免除し、その発信者に関する情報を開示させることで、被害者が加害者の身元を特定し、法的救済を求める道を確保する必要が生じました。

そこで「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」(略称「プロバイダ責任法」)が2002年5月27日に施行されました。また、社団法人テレコムサービス協会では、同法を受けて迅速な対応を実現するためのガイドラインを公表しましたので、被害が生じた場合、まずは当該ガイドラインに従ってプロバイダに削除を求めることが可能となりました。

とはいえ、プロバイダ責任法は、プロバイダがガイドラインを遵守することによってプロバイダが免責される効果をもたらすことを定め、その反射的ないし副次的作用として、一定範囲の権利侵害についてプロバイダが取る対応により被害者の救済も図られることを狙うという構造であるため、被害者の救済手段としては必ずしも十分ではありません。

(注)アクセスプロバイダは発信者との間でインターネット接続サービス契約を締結しており、その課金の都合上、発信者の住所・氏名情報を保有している。これに対しコンテンツプロバイダは単にアクセスプロバイダのサーバー経由でデータの書込みを受けただけの存在であり、直接に発信者情報を保有しているわけではない。

(3)被害者の削除要求について 

誹謗データの削除要求の方法としては、アップロードにより権利を侵害された企業またはその代理人が、書面であれば実印を押印して印鑑証明をつけて、電子メールであれば電子署名をつけて、コンテンツプロバイダに対して行うことになります。この通知により、コンテンツプロバイダは違法情報として削除するか、または適法な情報(の可能性がある)として放置するか、選択しなければなりません。その場合、いずれを選択しても、コンテンツプロバイダは賠償請求を受けるリスク(削除すれば発信者から請求されるリスク、放置すれば被害者から請求されるリスク)を負担することになります。

そこでプロバイダ責任法は、(1)コンテンツプロバイダにおいて権利侵害があると信じるに足る相当の理由がある(3条2項1号)か、または(2)被害者より侵害情報(侵害された権利および侵害された理由)を示してコンテンツプロバイダに送信防止措置の申出があり、これに同意するかどうかコンテンツプロバイダから情報発信者に照会し、発信者が照会日から7日以内に削除を拒絶する申出がなかったとき(3条2項2号)に限り、削除しても発信者から責任を追及されないことを定めました。

そうすると、コンテンツプロバイダは、まず発信者に照会を出すこととし、発信者より削除同意の通知があるかまたは何ら回答がない場合には削除することになりますが、発信者より削除拒絶通知がある場合には、コンテンツプロバイダとして権利侵害があると信じるに足りる相当の理由があるかどうか、という点を審査して、削除するか否かを判断することになります。

そこで、被害者としては被害の事実を基礎付ける十分な資料を添付して削除を要求する必要があります。具体的な削除要求の様式等については、社団法人テレコムサービス協会のホームページを参照してください。近時の判例では、コンテンツプロバイダは、被害者より通知がなされることにより、自己の管理するウェブサイト掲示板に、他人の名誉を毀損する発言がなされたことを知り、または、知り得た場合には、直ちに削除するなどの措置を講ずべき条理上の義務を負っているものというべき、という取扱いがほぼ確立しつつあります。例えば東京地裁平14.6.262ちゃんねる事件では、コンテンツプロバイダが削除に応じない場合、被害者のコンテンツプロバイダに対する損害賠償請求が認められました。

4.発信者を突き止めて損害賠償を請求する方法

(1)発信者情報の開示を求めるには原則裁判手続で   

プロバイダ責任法によれば、(1)発信者情報の開示を請求する者の権利が侵害されたことが明らかであり、かつ(2)発信者情報の開示請求をする者の損害賠償請求権の行使のために必要である場合その他発信者情報の開示を受けるべき正当な理由がある場合に、被害者による開示請求権が認められます(第4条1項)。ここでは、権利侵害の事実が「明らか」であることが明記されており、削除要求時における3条の「相当な理由」よりも厳格な要件と解釈されます。しかも、プロバイダは、被害者から開示請求を受けた場合には、開示するかどうかについて発信者に意見を聞かなければならないこととされています(第4条2項)。

加えて、総務省によるプロバイダ責任法逐条解説では、被害者の救済の必要性を認めつつも、「他方、発信者情報は、発信者のプライバシーおよび匿名表現の自由、場合によっては通信の秘密として保護されるべき情報であるから、正当な理由もないのに発信者の意思に反して情報の開示がなされることがあってはならない」とし、かつ注釈において「プロバイダ等が任意に(発信者情報を)開示した場合、要件判断を誤ったときには、通信の秘密侵害罪を構成する場合があるほか、発信者からの責任追及を受ける事にもなるので、裁判所の判断に基づく場合以外に開示を行うケースは例外的であろう」と明記していることから、被害者が発信者情報の開示を求めるためには裁判手続によることが原則と解されます。

(2)対処の手順   

そこで、対処措置の順序としては、次の通りとなります。

第一に、コンテンツプロバイダに対し、違法情報が継続する電子掲示板を特定のうえ、アクセスログの保存を要請し、さらに発信者からのアクセスログ(接続記録)に含まれる情報(IPアドレス・タイムスタンプ)を開示するよう求めます(これによりアクセスプロバイダがわかります)(第一段階)。

第二に、アクセスプロバイダに対し、発信者の氏名・住所の情報開示を求めます(第二段階)。

第三に、発信者に対して損害賠償請求などを提訴することになります(第三段階)。ただし、例えば名誉毀損の不法行為に基づく損害賠償請求では、問題とされる表現が、人の人格的価値について社会から受ける客観的評価を低下させるものであっても、当該行為が公共の利害に関する事実に係り、専ら公益を図る目的に出た場合において、摘示された事実が真実であると証明されるか、その事実が真実であると信じるについて相当な理由があるなどの事由が主張立証されれば、違法性を欠き名誉毀損の不法行為とはならない点に注意が必要です。

(3)判例では「被害者保護」の流れ   

判例の流れを見ると、第一段階の判例としては、東京地裁平15.3.31ヤフー掲示板事件などにおいて、コンテンツプロバイダに対する発信者情報の開示請求が認容されています。次に、第二段階の判例としては、東京地裁判決平15.9.17でアクセスプロバイダに対する開示請求が認容された事例があります。次に、第三段階の判例としては、東京地裁判決平14.9.2で、「被告が、インターネット上に本件書き込みを行った結果、原告らの名誉、信用等について社会から受ける客観的評価が低下したことは明らかであり、原告会社の信用及び名誉並びに原告の名誉が毀損されたと認められ、被告の前記行為は、不法行為に当たると解すべき」として被告の責任を認め、被害企業による100万円の損害賠償請求を認めた事例があります。

以上のように、法律および判例としては、全体として被害者保護の流れが整いつつあります。

(4)この方法の限界   

しかしこの方法については次のような限界があります。第一に、インターネットカフェ等公共の場所から匿名でアクセスし、また無料のメールアドレス等を利用することにより、完全な匿名で誹謗中傷記事を掲載したり投書したりすることが可能です。そのため、コストと手間をかけて裁判したとしても、必ずしも発信者を突き止めることができる保証はありません。

第二に、海外のサーバーを経由して誹謗中傷記事が掲載されたような場合には、プロバイダ責任法を含めた日本の司法手続きが及ばないこととなりますので、この場合も発信者を突き止めることは困難となります。

第三に、プロバイダには、現時点では、ログの保存義務がありません。そのため、司法手続が終了した時点では、すでにプロバイダの手元に情報発信者に関するログが存在しておらず、発信者を突き止められない可能性も高いことになります。

そのため、これらの限界があることを知った上で対策を考えるべきことになるでしょう。

5.発信者が社員である可能性がある場合に社内調査する方法

社員による会社でのネットの私的利用において、自社に対する誹謗中傷が書き込まれ、公表される可能性もあり得ます。これを阻止するためには、社内ネットの不正私的利用の監視のためのモニタリングを実施することが考えられますが、この問題は従業員のプライバシー侵害との批判を招来する恐れがあります。では、企業はどのような場合に、従業員による社内ネットの利用を監視できるのでしょうか。

この点、メールの私的利用が問題とされた事例として、東京地裁判決平13.12.3F社事件判決があります。判旨は、プライバシー侵害について、「会社のネットワークシステムを用いた電子メールの私的使用に関する問題は、通常の電話装置におけるいわゆる私用電話の制限の問題とほぼ同様に考えることができる。すなわち、勤労者として社会生活を送る以上、日常の社会生活を営む上で通常必要な外部との連絡の着信先として会社の電話装置を用いることが許容されるのはもちろんのこと、さらに、会社における職務の遂行の妨げとならず、会社の経済的負担も極めて軽微なものである場合には、これらの外部からの連絡に適宜即応するために必要かつ合理的な限度の範囲内において、会社の電子装置を発信に用いることも社会通念上許容されていると解するべきであり、このことは、会社のネットワークシステムを用いた私的電子メールの送受信に関しても基本的に妥当するというべきで(中略)社員の電子メールの私的使用が前記(中略)範囲に止まるものである限り、その社員に一切のプライバシー権がないとはいえない」とし、電子メールに関してもプライバシー保護が及ぶことを指摘しつつ、「通信内容等が社内ネットワークシステムのサーバーコンピューターや端末内に記録されるものであること、社内ネットワークシステムには当該会社の管理者が存在し、ネットワーク全体を適宜監視しながら保守を行なっているのが通常であることに照らすと、利用者において、通常の電話装置の場合とまったく同程度のプライバシー保護を期待することはできず、当該システムの具体的状況に応じた合理的な範囲での保護を期待し得るに止まる。」とし、社内ネットにおけるプライバシー保護には限界があることを指摘しました。

また、もう1つの事例として、従業員のパソコンから誹謗中傷メールが発信されていたため、就業規則違反の疑いに基づき社員のメールファイルのデータを調査したことが社員のプライバシーを侵害するものかどうか争われた事件があります。東京地裁判決平14.6.26日経クイック事件では、社員である原告が、原告に対して行われた事情聴取が名誉毀損に当たるとして会社および被告社員に対して慰謝料の支払いと調査の際に入手した原告の個人データなどの返還を求めたものです。かかる事情聴取は社内の原告のパソコンから誹謗中傷メールが発信されていたことから、就業規則違反の合理的疑いがあり、会社としては発信者を特定して防止措置を講じる必要があること、および就業規則違反として懲戒処分をする必要性があるため速やかに調査する必要があること、その犯人の特定につながる情報が原告のメールファイルに記載されている可能性があること等の事情から、裁判所は被告会社がファイルサーバー上のデータを調査することについて適法と認めました。

これらの判例からすると、社内ネットの私的利用は、社内で就業規則があれば当該規定により、また規則が無くても就業規則中の企業施設の私的利用禁止規定に基づき、懲戒処分の対象になり得る行為であることから、私的利用が明らかに濫用に至った場合、あるいは、セクハラや、企業への誹謗中傷に使用されている合理的疑いがある場合等には、企業としてモニタリングを実施することも、違反の有無に関する必要な調査として合理性があり、適法とされるものと考えられます。

そうすると、企業としては、まず社内ネット利用に関する管理規程を設けることが望ましいと考えられます。かかる管理規程を設ける場合、「労働者の個人情報保護に関する行動指針」(労働省平12.12.20)が参考になります。当該指針では、モニタリングについて、第2の6の(4)で、以下の通りとしました。

使用者は、職場において、労働者に関しビデオカメラ、コンピュータ等によりモニタリング(以下「ビデオ等によるモニタリング」という。)を行う場合には、労働者に対し、実施理由、実施時間帯、収集される情報内容等を事前に通知するとともに、個人情報の保護に関する権利を侵害しないよう配慮するものとする。ただし、次に掲げる場合にはこの限りでない。(イ)   法令に定めがある場合(ロ)   犯罪その他の重要な不正行為があるとするに足りる相当の理由があると認められる場合

そして(5)で、

職場において、労働者に対して常時...モニタリングを行うことは、労働者の健康及び安全の確保又は業務上の財産の保全に必要な場合に限り認められるものとする

とし、その解説において

最近話題になることが多い電子メールやインターネットの接続状況のモニタリングについては、私用の防止や企業等の機密情報の漏洩による損害防止、企業内の情報システムの安全確保等の目的で行われるものについては、『業務上の財産の保全』のために行われるものに当たると考えられる。電子メール等のモニタリングのあり方については、なお今後の議論に待つところもあるが、その実施に当たっては、電子メール等の利用規則にその旨を明示すること等により、あらかじめその概要を労働者に知らせた上で行うことが適当と考えられる。具体的な運用に当たっては、例えば、電子メールのモニタリングでは原則として送受信記録あるいはこれにメールの件名を加えた範囲について行うこととし、必要やむを得ない場合を除いてはメールの内容にまでは立ち入らないようにするなど、あくまでも目的の達成に必要不可欠な範囲内で行い労働者等の権利利益を侵害しないよう十分配慮することが望ましい。

との見解を示しました。

企業としては、就業規則等で、社内ネットの利用に関して、不正アクセス、プライバシー侵害、企業への誹謗中傷、セクハラその他の違法目的での利用禁止、業務外利用禁止、また企業も違反の合理的疑いが生じた場合にはモニタリングを実施することがあること、これらの規則に違反した場合に懲戒することもあること等を明記することが強く望まれるでしょう。

6.刑事告訴する方法

ネット上での誹謗中傷がなされた場合、それにより害されるのが個人のプライバシーや社会的な信用・名誉自体であれば名誉毀損罪が問題となりますし、また個人ないし企業の経済的・財産的な信用が害された場合には信用毀損罪「信用毀損及び業務妨害罪」(「虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損し、又はその業務を妨害した者は、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する」刑法233条)への該当性がまず検討されるべきでしょう。その他、株価操作目的などの風説流布は証券取引法158条違反となりますので、必要に応じて検討すべきでしょう。

企業に対する誹謗中傷により最初に検討するのは信用毀損罪です。信用毀損罪における信用とは、人(法人を含む)の経済面における社会的評価、すなわち支払い能力または支払い意思に対する社会的信頼をいいます。

規制される行為は、虚偽の風説を流布し、または偽計を用いて人の信用を毀損することです。ここで人の信用を「毀損する」とは、他人の信用の低下する恐れのある状態を生じさせることをいい、必ずしも現実に信用の低下したことを必要としません。

「虚偽の風説を流布」するとは、事実と異なった内容の風説を、不特定または多数人に伝播することをいいます。「風説」とは噂であり、行為者自身の創造したものであることを要しません。「虚偽」は流布された事項の一部分に存すれば足ります。また「偽計を用いる」とは、他人の錯誤または不知を利用し、または欺罔、誘惑の手段によることをいいます。

よって、例えば、インターネット上の掲示板やブログなどに、全部であると一部であるとを問わず虚偽の事項を書き込み、企業の信用の低下する恐れのある状態をもたらせば、同罪に該当する可能性が高いと考えられます。このようなネット上の誹謗中傷は、その内容により企業の社会的評価に明らかに悪影響をもたらすような場合には、速やかに刑事告訴することも有効な手段と考えられます。

本来、信用毀損罪は、名誉毀損や侮辱罪と違い、親告罪(被害者が告訴することで犯罪として認められる)ではなく、告訴がなくても警察は捜査を開始するはずなのですが、実際に警察に動いてもらうためには実務上は告訴が必要となりますので、弁護士と相談し適切な証拠保全を行い、その上で警察に行くべきでしょう。証拠保全に際しては、掲載内容を保存しておくほか、当該サイトの管理者に対してログの保存をしておくように依頼しましょう。

3.誹謗中傷されないための予防策

1.より重要な予防策

以上、実際に誹謗中傷記事が掲載された後の段階における対処方法を検討してきましたが、企業としてより望ましいのは、日頃より、誹謗中傷記事が掲載されにくい体質を作って予防策を確立しておくことでしょう。

予防策は、書込みをする理由や背景に即して検討する必要があります。誹謗中傷を行うケースとして典型的な原因は、社員による内部告発、リストラされた元社員による恨み、ユーザー・取引先による企業の顧客対処への不満などが考えられますので、それぞれについて予防策を考える必要があります。

2.事態の迅速な把握

第一に、予防策の前提として、ネット上において誹謗中傷がなされていることを迅速に把握する必要があります。現在ではそのようなサービスもありますので、必要に応じて外注することも考えて良いでしょう。

3.コンプライアンス体制の確立

第二に、社員による内部情報を利用した誹謗中傷への対策として、社内コンプライアンス体制を確立し、社内において問題が生じた場合には、企業の社会的責任に基づき、自浄するシステムを確立するべきでしょう。このような社内コンプライアンス体制の確立は、大和銀行株主代表訴訟において、取締役の責務であることが明言されています。また、内部告発者を保護するために平成18年4月1日から公益通報者保護法が施行されますので、参考のためにご説明します。

(1)大和銀行株主代表訴訟コンプライアンス体制を確立すべき取締役の責任として、大阪地方裁判所平12.9.20大和銀行株主代表訴訟判決では、「健全な会社経営を行うためには(中略)各種リスク(中略)の状況を正確に把握し、適切に制御すること、すなわちリスク管理が欠かせず、会社が営む事業の規模、特性等に応じたリスク管理体制(いわゆる内部統制システム)を整備することを要する。そして、重要な業務執行については、取締役会が決定することを要するから(商法260条2項)、会社経営の根幹にかかわるリスク管理体制の大綱については、取締役会で決定することを要し、業務執行を担当する代表取締役および業務担当取締役は、大綱を踏まえ、担当する部門におけるリスク管理体制を具体的に決定すべき義務を負う。どのような内容のリスク管理体制を整備すべきかは経営判断の問題であり、会社経営の専門家である取締役に広い裁量が与えられているが(中略)商法266条1項5号により、取締役は自ら法令を遵守するだけでは十分ではなく、従業員が会社の業務を遂行する際に違法な行為に及ぶことを未然に防止し、会社全体として法令順守経営を実現しなければならない。(中略)取締役は、従業員が職務を執行する際、違法な行為に及ぶことを未然に防止するための法令遵守体制を確立すべき義務があり、これもまた、取締役の善管注意義務および忠実義務の内容をなすものと言うべきである。この意味において、事務リスクの管理体制の整備は、同時に法令遵守体制の整備を意味しており、取締役に与えられた裁量も法令に違反しない限りにおいてのものであって、取締役に対し(中略)法令に従うか否かの裁量が与えられているものではない。」と述べ、コンプライアンス体制の確立が取締役の法的責務であることを明らかにしました。このように、コンプライアンス体制の確立および維持を誠実に実施することが企業経営者の法的な義務である以上、適切なコンプライアンス体制を確立し維持することを通じて会社の社会的責任を果たし、社員による企業への信頼感を醸成することが、社員による誹謗中傷に対する強い予防策となるものと考えられます。

(2)公益通報者保護法の施行従前、法令違反などの不正が内部関係者からの告発によって明らかになる場合に、告発した内部関係者を守る法律がありませんでした。しかし、組織におけるコンプライアンス体制強化のためには、不正を告発する内部関係者がそのことによって組織内で不利益を被らないように法律で保護する必要があります。そのため、公益に資する告発をした者が事業者による解雇など不利益を受けることのないように保護する法律として、公益通報者保護法が平成18年4月1日から施行されることとなりました。同法では、同法所定の法律(刑法、食品衛生法、証券取引法等)に違反する犯罪行為が事業者内で行われ、または、行われようとしている場合において、労働者が事業者内部、監督権限ある行政機関、マスコミなどの外部機関に通報した場合、事業者は公益通報者を解雇しても無効であり、その他、降格等の不利益処分もできないことを定めました。ただし、マスコミ等の第三者への公表は、内部通報制度が存在しない場合や、内部通報制度が機能しない場合、さらに企業の自浄に期待することができない場合など、極めて限定された場合のみ認められています。よって、企業としては、施行日までに、社内における内部通報制度を確立し、無用にネット上などに内部情報が流出しないよう管理すべきでしょう。

4.退職者向けプログラムの充実・誓約書の取り付け

第三に、元社員による内部情報を含んだ誹謗中傷への対策として、退職者向けプログラムを充実させ、適切な転職支援を行うなど、企業に対する無用な恨みによる誹謗中傷を抑制する方策を採るべきでしょう。また、企業から秘密情報あるいは個人情報を持ち出さないこととともに、企業に対する誹謗中傷をしないよう、誓約書を取り付けることも考えてよいでしょう。

5.顧客満足度の向上

第四に、ユーザーあるいは取引先からのクレームに起因する誹謗中傷への対策として、顧客満足度を向上させるような会社の体制作りが不可欠でしょう。コンプライアンス体制の一環として、クレームに対するきちんとした窓口の設置、および透明度の高い問題解決体制を整備するべきでしょう。

日本法令発行の『ビジネスガイド』は、1965年5月創刊の人事・労務を中心とした実務雑誌です。労働・社会保険、労働法などの法改正情報をいち早く提供、また人事・賃金制度、最新労働裁判例やADR、公的年金・企業年金、税務、登記などの潮流や実務上の問題点についても最新かつ正確な情報をもとに解説しています。ここでは、同誌の許可を得て、同誌2005年11月号の記事「会社を誹謗中傷するネット上の書込みへの対応」を掲載します。『ビジネスガイド』の詳細は日本法令ホームページhttp://www.horei.co.jp/へ。

【執筆者略歴】
●萬幸男(よろず・ゆきお)
弁護士。萬法律事務所代表。IT産業を中心に、情報処理サービス関連の契約管理、コンサルタント・SE等プロフェッショナル雇用の管理、会社運営に関する各種コーポレートマター等を専門とする。主な著書に「職場のトラブルシューティング」(共著、日本法令刊)などがある。

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【用語解説 人事辞典】
公益通報者保護法
企業内弁護士
バイトテロ
産業医