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【前編】心に灯をともす伝え方 |人を動かすのは”熱量×弱さ”

あなたがもし、
「もっと伝わる話し方をしたい」
「説明の仕方を変えてみたい」
「坂田さんみたいに“聞きたくなる空気”をつくりたい」
そんな気持ちを、ほんの一度でも抱いたことがあるなら——

このコラムは、まさにあなたのためのものです。
私のセミナーを受講された方からは、内容に対する感想とは別に、こんな声をよくいただきます。
「話し方そのものが勉強になった。」
「テンポや間の取り方をマネしたい。」
「説明の仕方、質問の投げ方…どれも学びたい。」
「どうしてあんなに“聞きたくなる講義”がつくれるんですか?」

実は、“伝わる話し方”には共通する“脳の反応パターン”があります。
テンポ、声、間、弱さの見せ方、ストーリー、言語パターン、そして空気のつくり方——
これらはすべて、再現可能な“技術”なのです。

もしあなたが、
「伝え方を武器にしたい」
そう思っているのなら、このコラムには、その第一歩になるヒントが必ずあります。
あなたの言葉が、誰かの心にちゃんと届く未来のために。

 

なぜ、多くの講義は眠くなるのか

講義をしていると、“空気の変わる瞬間”というものが存在します。
私の中ではその瞬間を、密かに「分岐点」と呼んでいます。

始まって10分ほど経った頃でしょうか。
人は無意識に、その日の講義が“聞く価値があるか/眠ってもいいか”を判断します。
それは、ほんの小さな表情の変化で分かります。 

例えば、視線。

顔はこちらを向いているのに、心が向いていないときの目は、どこか遠くの一点をぼんやり見ています。
会議室では、壁に貼られた「今月のスローガン」あたりを眺めていたり、デスクでは、ペン立ての影を見ていたり。
オンラインでは、画面越しの“別の世界”をのぞいているような視線です。

職種や業界に関係はありません。
企画でも、事務でも、製造でも、営業でも、管理でも、あの「心ここにあらず」の目は、誰でも同じ方向に向きます。
そして私は、その瞬間に気づいてしまうのです。
——あ、このままだと眠くなる。

眠くなる講義は、内容が悪いわけではありません。
ましてや、受講者にやる気がないからでもない。
実はもっとシンプルで、もっと深いところに理由があります。
それは、「心が揺れていない」からです。 

心が揺れない話は、脳が“聞く必要なし”と判断します。
すると、どんなに面白い内容でも、どんなに必要な内容でも、どんなに工夫して作った資料でも、すべてが“音のない映像”のように滑り落ちていく。 

それでも、受講者の心が動かなければ、それは「ただの言葉」で終わってしまうんです。
講師として、あれほどむなしい瞬間はありません。 

講義を始めた頃の私は、「正しさ」に頼っていました。
「正しい内容さえ伝えれば、きっと伝わる」
「知識は力だ」
「理屈が分かれば、人は動く」
そう信じていたのです。 

しかし、正しい説明だけでは、心は揺れない。
正論は、時に眠気すら誘います。
そこで私は、ある問いを持つようになりました。 

“人が眠くならずに、心の奥で『聞きたい』と思う講義とは何だろう?”

この問いを抱えてから、私の研修スタイルは、大きく変わりました。
私は、人の“脳と心のリズム”を、観察するようになったのです。

会話のテンポ。
声の高さと低さ。
ゆっくり話す時と、テンポを速くする時の違い。
笑いの入れ方。
ボケのタイミングと、そこから戻る“揺らぎ”。
質問を投げて、相手の“心の位置”を読み取る技術。
その日のメンバーの理解速度に合わせて、説明の深さとスピードを変えること。 

これらを一つずつ試しながら、私は“伝え方の研究者”になりました。

そして、ある出来事が、私の背中を強く押しました。
とある企業で、安全教育を実施した数日後のことです。

担当のリーダーの方から、長いメールをいただいたのです。
メールには、不思議な話が書かれていました。 

——研修のあと、職場で“ある言葉”が静かに広がり始めた、と。
その言葉は、挨拶のような、ちょっとした一言。
誰が決めたわけでもない、軽いフレーズです。 

最初に使い出したのは、あるベテラン社員。
冗談の中で、ぽろっと口にしたことが、きっかけだったそうです。

すると、周りの人が笑いながら返すようになった。
「それ、いいですね」
と面白がる人が出てきて、別の部署の人も使い始めた。
 いつの間にか、朝のやりとりにも出てくるようになり、ついには総務のメールの末尾に、その言葉がつくようになった。

メールにはこう書かれていました。 
大げさかもしれませんが、

職場の空気が、少しあたたかくなった気がします。
研修の数日後から、みんなの表情がやわらいでいます。
“何かが変わった”というのは、こういうことなのかもしれません。

私は、この文章を読んだ瞬間、胸が熱くなり、こみ上げてくるものを抑えられませんでした。
講義の中で伝えたのは、理論ではありません。

講義が眠くならない理由は、決してスライドの作り方でも、話し方のテクニックでもなく——
相手の“変わりたい本能”を温めているから。 

心が動くと、集中が生まれる。
集中が生まれると、眠気は消える。
意欲が湧けば、行動が生まれる。 

眠い講義とは、“心が揺れていない講義”。
眠くならない講義とは、“心に小さな火が灯る講義”なのです。

私は今日も、その火を灯したいと思っています。

 

テンポは“感情の波”である

話し方のテンポというのは、単なるスピードのことではありません。
私はいつも、“波”のようなものだと感じています。

海岸に立つと、波は大きいものもあれば、小さいものもある。
早く寄せてくる波もあれば、ゆっくりふわりと近づいてくる波もある。
しかし、一つだけ共通していることがあります。
——どんな波も必ず、リズムを持っている。

人の心も同じです。
喜び、退屈、緊張、安心、不安、好奇心。
いずれにも、独特のリズムがあります。
そして、講義や説明というのは、目の前の人の“感情の波”に、話し手がどれだけ合わせられるかで決まります。

テンポが合っているとき、相手は深く“聞きたい”と思う。
テンポがズレているとき、相手は無意識に“聞きたくない”と感じてしまう。
このテンポの一致/不一致こそが、眠くなる講義と、眠くならない講義の決定的な違いなのです。

たとえば、こんな出来事がありました。
ある研修で、私は「危険予知の感性」について話す予定でした。
比較的まじめな内容です。

会場に入ると、受講者の表情は少し硬かった。
広報部の人もいれば、事務の人もいる。
製造部門の方もいる。
立場も経験もバラバラ。

その空気はまるで、浅い呼吸をしているような状態でした。
開始5分。
私は、すぐに分かりました。
——このまま普通に話しても、絶対に響かない。

そこで私は、予定していた流れをいったん脇に置き、こんな話を始めました。
「皆さん、朝出勤したときに“今日は良い日だなぁ”って根拠もなく思った経験、ありません?」
会場が少しざわつきました。
“まさかそんな話から始まるのか?”という表情。

しかし、私は続けました。
「実はあれ、脳の“誤作動”なんですが、あの感覚をうまく使うと、危険予知がものすごくうまくなるんですよ。」
すると、会場の波が変わったのが分かりました。
硬さが少し解け、人の視線が私に集まり始めた。

そのときの感覚は、まるで海面の波が「スッ」と寄せてきた瞬間のようでした。
そこに言葉を乗せると、波が大きく動き出す。
私は、テンポを少し速くし、軽い冗談をひとつ挟んだ。

“私は朝、意味もなく『今日はモテる』と思う日があります。なぜでしょう?
…その日、私は確実に調子に乗っています。”
会場の笑い声が広がりました。
ここで、波は完全に私の方へ寄ってきたのです。
私は、そのタイミングで少し声を落とし、ゆっくりと話し始めました。

「実は、“根拠のない感覚”というのは、危険を察知するときにも働くんです。そのサインを無視すると、ヒヤリハットに気づけなくなってしまう。」

場が一気に静まる。
波が引いて、深い凪が生まれる。

この凪に言葉を落とすと、そのまま沈み込み、心の底で音を立てるのです。
テンポは、この波と凪の交互のデザインです。 

私はよく、話しながらテンポを変えます。

笑いを入れるとき、テンポは少し速く。(勢いが必要だからです)
速いテンポは「軽さ」を生む。
軽さは安心感につながる。

ストーリーテリングの時
波に乗せるように、流れるテンポ。
感情のうねりに合わせて、言葉を滑らせる。
少し速い→ややゆっくり→再び速く
そんなカーブを描くことも多い。

大切なポイントの時
声を低くし、ゆっくり話す。
脳は「ゆっくり・低音」を“重要情報”として自動で認識します。
だから、この瞬間は急がない。

考えてほしい時
“間”を置く。
脳が動き出すまでの、静かな時間。
ここで話してしまうと、相手の思考が育たない。

話を逸らす瞬間
意図的にテンポを変えることで、脳に“小さな驚き”を生む。
この驚きが、注意力を引き戻す。

テンポを変えるというのは、言い換えれば、相手の感情の波に寄り添っているということです。
波が高いときにゆっくり話せば、相手は退屈する。
凪のときに速く話せば、言葉が耳の奥にぶつかるだけ。

講師がテンポを選ぶのではないんです。
“相手がテンポを決めている”んです。
私は、それに従っているだけなんですね。 

人は“自分の波に合うもの”に惹かれる生き物です。
恋愛だって、友情だって、
スポーツの調子だって、
仕事の相性だって、
全部“リズムが合うかどうか”で決まる。

講義も、全く同じ。
テンポは、言葉のスピードではない。
相手の感情に触れるためのリズムなんです。
そのリズムが合った瞬間、人は話を“聞きたい”と思い、心が前に動き出す。

私は今日も、受講者の“波”に耳を澄ませながら話しています。
そこに寄り添えたとき——
講義は眠気から、集中へと変わっていく。
テンポとは、相手の心の波に乗る技術なのです。 

 

問いは“スキャン”である

人前で話すとき、私は必ず最初の10分間で、受講者に小さな質問を投げます。
内容そのものに、意味があるわけではありません。

「今日はどこから来ました?」とか、
「最近、気になっていることってあります?」とか、
「なるほど、ではここで一つ意見を聞かせてもらっていいですか?」とか。

一見、ただの雑談のような問いです。
ところが、これこそが私の講義の“核心”とも言える工程です。
私にとって問いとは、
相手の頭の中をのぞくためのものでは、ありません。
相手の“今の状態”を立体的に読み取るスキャナーなんです。

医療の世界には、MRIがありますね。
人の身体を輪切りにして、内部の状態を可視化する機械です。

私にとっての問いは、まさにそれと同じ。

相手の言葉のトーン
答える速度
沈黙の長さ
ちょっとした視線の泳ぎ
言葉の選び方
息の深さ
声の張り——

そういったものを一つずつ読み取り、その人の“学びの準備状態”を測っているのです。

ある日、こんな出来事がありました。
私は、20人ほどの班長クラスを相手に、講義をしていました。
開始5分で、ある違和感に気づきました。
グループの中央に座る男性が、ずっと腕を組んでこちらを見ているのです。

表情は固く、少し険しい。
何かに不満を持っているようにも見える。
私はそこで、ふと一つ質問を投げました。
「皆さんの現場で、最近“ちょっと気になるな”と思ったこと、ありますか?」

すると、その男性が手を挙げました。
予想していなかったので、少し驚きました。
彼は、こう言いました。
「気になるというか…仕事の量が多すぎて、正直に言うと、こういう研修に時間を取られるのが苦しいと感じる日もあります。」

会場の空気が、少し重くなる。
本来なら、この瞬間こそ避けたい。
普通なら流したい話です。
しかし、私は彼の言葉の“揺れ”を感じました。

不満ではなく、助けを求める揺れだったのです。
だから私は、声を少し落とし、ゆっくりこう返しました。

「正直に話してくださって、ありがとうございます。その言葉、大切に扱わせてくださいね。」

彼の表情が、その瞬間だけほんの少しだけ揺らぎました。
目の奥の硬さが取れるような、そんな表情。
その後の彼は、驚くほど積極的に講義に参加し、ワークでは誰よりも熱心に話し合いをリードしていました。

私は、あの瞬間に確信しました。
問いとは、ただ意見を聞く行為ではない。
相手の“心のドアの位置”を探す行為なのだと。

問いを投げるとき、私は同時にこんなことを見ています。

相手は何を知りたいのか?
求めているのは知識か、安心か、方法か、答えか、それとも共感なのか。

学ぶエンジンがどこにあるのか?
承認欲求なのか、不安なのか、責任感なのか、好奇心なのか。

いま抱えている“言葉にならない課題”は何か?
迷いなのか、苛立ちなのか、焦りなのか、あきらめなのか。

私の話に違和感を持っていないか?
スライドは理解しやすいか、説明がその人の世界観に合っているか、専門性と日常のつながりが見えているか。

眠気があるときには正直に扱う
「眠いですよね?」とストレートに問い、笑いに変えて空気を緩めることもある。

相手の言語パターン(LAB)を読み取る
主体的か、反映型か、
プロセス志向か、オプション志向か、
タスク型か、人間型か。
言葉の選び方に、そのまま現れます。

思考パターン(NLP)を読み取る
結論が欲しいタイプか、
順序立てて理解したいタイプか、
感情を先に扱いたいタイプか、
イメージで捉えるタイプか。

これも、短い問いと返答の中で全部見える。
こうして得た情報をもとに、私はその場で講義の“形”を変えます。

講義は、受講者と一緒につくる“生き物”です。
だから私は、問いを投げながら、常にその生き物の体温を測っています。

問いは試験ではない。
知識を引き出すためのものでもない。
ましてや、人を困らせるためのものでもない。

問いの目的は、相手の状態を“やさしくスキャンすること”です。
そして——
そのスキャンが正確であればあるほど、伝え方は驚くほど相手にフィットします。

質問をした瞬間に、場の空気がそっと変わる。
答えようとする受講者の目がわずかに動く。
その小さな変化から、私は“次にどう話すか”を決めているのです。

講義が終わったあと、ある受講者の方から
「坂田さんの質問って、まるで私の心を見ているみたいですね」
と言われたことがあります。

私は笑って、こう答えました。
「いえいえ、見ているのは心じゃなくて、あなたの“今”のリズムなんですよ。」
人の心は読めません。
でも、その瞬間の“波”は読める。
その波に合わせて話を変えれば、人は必ず耳を傾け、学びのスイッチを自分から入れてくれます。

問いとは、相手を理解するための道具であり、心を開くための鍵であり、講義のリズムを整えるための羅針盤。
そして何より——

相手の未来を見つけに行く行為でもあるのです。
私は今日も、問いを使って受講者の心の現在地を探し続けています。 

 

このコラムは【後編】に続きます。是非そちらもご参照ください。

このコラムを書いたプロフェッショナル

坂田 和則

坂田 和則
マネジメントコンサルティング2部 部長 改善ファシリテーター・マスタートレーナー

問題/課題解決を現場目線から見つめ、クライアントが気付いている原因はもちろん、その背景にある奥深い原因やメンタルモデルも意識させ、問題/課題改善モチベーションを高めます。
その先の未来には、改善レジリエンスの高い人材が活躍します。

問題/課題解決を現場目線から見つめ、クライアントが気付いている原因はもちろん、その背景にある奥深い原因やメンタルモデルも意識させ、問題/課題改善モチベーションを高めます。
その先の未来には、改善レジリエンスの高い人材が活躍します。

得意分野 モチベーション・組織活性化、リーダーシップ、コーチング・ファシリテーション、コミュニケーション、ロジカルシンキング・課題解決
対応エリア 全国
所在地 港区

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