林 明文(ハヤシ アキフミ)
株式会社トランストラクチャ 代表取締役シニアパートナー


林 明文

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労働市場的メリハリ

近年労働市場が高度に発達をしています。いまや転職するということは、特別なことでは無くなったということになります。そもそも日本の労働市場は中堅中小企業に勤務する社員は比較的勤続年数が短く平均で8年程度です。8年程度というのは短期間で転職する期間であり、この傾向はこの何十年間あまり変化がありません。労働市場の発達と言っているのは、今まで平均勤続年数が長かった大企業やその系列の企業に勤務する社員が転職するようになったということです。大企業の平均勤続年数は長期的にみると低下傾向にありますが、現時点でも12~15年程度であると想定されます。中堅中小企業に比較すると倍にはなりませんが長期雇用です。


労働市場が発達すると企業にとっては、メリットとデメリットがあります。メリットは優秀な人材や、社内にいないタイプの人材を中途で採用できるということです。企業の人員管理という観点からは、中途採用は非常に有用な手段です。特に成長期にある企業は、中途採用をしなければ成長することができないといえるでしょう。逆にデメリットもあります。まずデメリットの第一は、社員が労働市場に流出してしまうということです。企業側が一生懸命育成努力した社員が退職してしまうということで、その社員がローパフォーマーでない限り、企業として大きな損失です。さらにデメリットはもう一つあります。労働市場が発達すると、自社の社員の給与水準を自社で決定できなくなるということです。特に情報産業や小売業、飲食業、一部の金融業などの労働流動性の高い業種では、労働市場での価格が決まっています。役職や職務によってほぼ労働市場でいくらという価格が決まっているということです。このことは企業の人事管理に大きな影響を与えます。労働市場価格に連動した給与水準を要求されるということです。労働市場価格に比して非常に高い給与水準の企業では、給与という観点では社員の流出のリスクはありません。しかし逆に労働市場に比較して低い水準の企業では、社員の流出リスクは高まります。また年功的な給与制度の企業などでは、若手は労働市場よりも安く、中高年社員は労働市場よりも高いということも多く目にします。


さらに最近では優秀な社員は労働市場リスクから防衛し、優秀でない社員は流出させるという給与の配分が望ましいという構造を求められます。よく企業内で“メリハリ”について議論することがあります。この社内でのメリハリ議論は、評価によっての適正な給与差についての議論ということになりますが、この適正な給与差については、個人の感覚に依存する議論になってしまいます。1円でも差が付いていれば差と認識する人もいますし、年収で10万円の差を大きいと感じる人もいます。逆に年収で100万200万の差でも小さいと感じる人もいるということです。このような社内的メリハリ論には個人の感覚差という限界があります。


労働市場の発達とともに、給与のメリハリについては大きく理論が発達しはじめています。優秀な社員には労働市場より明らかに高い給与、優秀でない社員には市場よりも安い給与を支給する構造が理論的に妥当であるということです。このように“メリハリ”の議論は労働市場価格を軸に議論されるようになり、このことは給与制度を合理的に設計運用するきわめて重要な視点となっています。適正な給与差、メリハリとは何かという考え方が大きく変わろうとしています。

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