HRのオピニオンリーダー100人が提言、日本の人事を考える情報誌 「日本の人事部 LEADERS(リーダーズ)」

「日本の人事部 LEADERS(リーダーズ)」TOP  >  2016 Vol.4  >  金井壽宏さんインタビュー
「人・組織・経営」研究の第一人者が語る

ビジネスで力を発揮できる人事リーダーはいかに生まれるのか
戦略・変革に関わることができる人事が人と組織を活性化する

金井 壽宏さん(神戸大学大学院経営学研究科 教授)

神戸大学大学院経営学研究科 教授 金井壽宏さん

近年はビジネスのグローバル化やIT化など、環境の変化が激しく、企業間の競争が厳しさを増しています。このような状況の中で企業が勝ち抜いていくためには、人材の持つ能力を最大限に発揮しなければなりません。当然、人事部にかけられる期待は大きくなっていますが、いま企業の人事部には、何が求められているのでしょうか。リーダーシップ、キャリア、モティベーションなどに関する研究の第一人者として、人事部の方にファンも多い神戸大学大学院経営学研究科教授の金井壽宏先生は、「戦略のパートナー」「変革のエージェント」として、ビジネスで力を発揮できる人事部が求められているとおっしゃいます。その背景には何があるのでしょうか。金井先生に詳しいお話をうかがいました。

Profile

かない・としひろ/1954年神戸市生まれ。78年京都大学教育学部卒業。80年神戸大学大学院経営学研究科修士課程を修了。89年MIT(マサチューセッツ工科大学)でPh.D.(マネジメント)を取得。92年神戸大学で博士(経営学)を取得。変革型のリーダーシップ、創造性となじむマネジメント、働くひとのキャリア発達、次期経営幹部の育成、これからの人事部の役割、研究とつながる教育・研修のあり方(リサーチ・ベースト・エデュケーション)を主たるテーマとしている。「よい理論ほど実践的なものはない」というクルト・レヴィンの信念を尊重して、モティベーションやリーダーシップについては、実践に役立つ持論も重視してきた。これらにかかわる論文や著作が多数。『変革型ミドルの探求』(白桃書房、1991年)、『リーダーシップ入門』(日経文庫、2005年)、『働くみんなのモティベーション論』(NTT出版、2006年)、『「人勢塾」ポジティブ心理学が人と組織を変える』(小学館、2010年)、『組織エスノグラフィー』(有斐閣、共著、2010年)など、著書は50冊以上。

社員にどういう価値を提供できるのかを考える

近年は企業間の競争が激化していますが、この状況下、人事部には何が求められているとお考えでしょうか。

まず、「HR」という言葉について改めて考えることから始めましょう。「HR」は人事部の皆さんにとって、大変聞き慣れた言葉だと思います。多くの人は“Human Resources(ヒューマン・リソース=人的資源)”と捉えていて、“Human Relations(ヒューマン・リレーション=人間関係)”だと認識している人はきっと少ないと思います。しかし、“Human Resources”と聞くと、「無機質」だという人もきっといるでしょうね。「人的資源」だなんて、何だか地下資源みたいで変じゃないかと。でも私は「資源」というのは、うまく使ってこそのものだと捉えています。その人の才能を見極めて、良いチームの中に入れて、良い機会を与えて、さらに上司や経営者に恵まれていれば、その人がどんどん良くなっていく……。「磨けば光る人材」というイメージが“Human Resources”という言葉にはあります。

一方の“Human Relations”ももちろん大事で、周囲の人たちのおかげで人が元気になったり成長したりするのは、素晴らしいことです。しかし、それは同時に、相手に依存するモデルになってしまうこともあります。「誰かに助けてほしい」「人との関係で救われた」といったことが古くさくなることは絶対にないけれど、人とビジネスとのつながりや、人と戦略との関係を見ようとしたときに、“Human Resources”という言葉が生まれてきた。このことをまず、重要なポイントとしておさえてください。

上司と部下が互いにもたれ合っていたり、部下が上司に依存していたりするような関係では困ります。本当にいいリーダーは会社の上層部に対して影響力があり、また、部下たちに対する配慮も格別のものがあります。例えば、部下たちが働きやすい職場にしたいと考えていて、そのために必要なリソースを部下たちのために上からとってくるのは、パワフルで頼もしい、いい上司と言えます。部下たちも言うことはないでしょう。実際、私が長く親しんできたリーダーシップ論の文献、例えばドナルド・ペルツの古典的研究などでも、上に対して影響力のあるリーダーは部下からの信望が厚いとしています。兄弟げんかをすることがあっても、親から適切なリソースを弟のためにとってくる兄なら、やはり弟はついてくる。このように、人事部は会社で働く人たちのためにいい意味での「お届け物」ができているでしょうか。

この続きは「日本の人事部 LEADERS(リーダーズ) Vol.4」でご覧になれます。

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