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「日本の人事部 LEADERS(リーダーズ)」TOP  >  2015 Vol.3  >  宮城まり子さんインタビュー
「人・組織・経営」研究の大家に聞く

健康で強い組織はリーダーがつくる
── 眠れる人的資源を活かす「ポジティブ・メンタルヘルス」の極意とは

宮城 まり子さん(法政大学 キャリアデザイン学部教授、臨床心理士)

法政大学 キャリアデザイン学部教授、臨床心理士 宮城まり子さん

「ポジティブ心理学」という新しい学問領域をご存じでしょうか。従来の心理学は主に心のマイナス部分を取りあげ、いかにゼロに戻すかを研究してきましたが、ポジティブ心理学はどうすればもっと人は幸福になれるか、より充実した人生を送れるかを研究する学問。その発想をメンタルヘルス問題の解決に活かそうと考えられているのが、「ポジティブ・メンタルヘルス」の手法です。個々に不調者を治すより不調者を出さないような職場をつくるため、一人ひとりがもつ強みを最大限活かすためのキャリア支援を進め、人と組織を活性化していく――。なぜ、いまポジティブ・メンタルヘルスなのでしょうか。また、現場のリーダーは具体的にどのような支援を行えばいいのでしょうか。法政大学の宮城まり子教授に詳しくうかがいました。

Profile

みやぎ・まりこ/慶応義塾大学文学部心理学科卒業、早稲田大学大学院文学研究科心理学専攻修士課程修了。臨床心理士として病院臨床(精神科、小児科)等を経て、産能大学経営情報学部助教授となる。1997年よりカリフォルニア州立大学大学院キャリアカウンセリングコースに研究留学。立正大学心理学部教授を経て、2008 年4 月から現職。専門は臨床心理学(産業臨床、メンタルヘルス)、生涯発達心理学、キャリア開発・キャリアカウンセリング。他方、講演活動や企業のキャリア研修などの講師、キャリアカウンセリングのスーパーバイザーとしても精力的に活躍している。著書には、『キャリアカウンセリング』(駿河台出版社)、『産業心理学』(培風館)、『7つの心理学』(生産性出版)、『聴く技術』(永岡書店)などがある。

治療から予防へ──キャリア支援とメンタルヘルスを統合する

メンタルヘルス不調の問題が深刻化するなか、社会が企業に求める役割は大きくなる一方ですが、その期待とは裏腹に、企業の対策は働く人の“こころの現実”に追いついていないとの指摘もあります。宮城先生はどうご覧になっていますか。

企業のメンタルヘルス支援というと、これまでは“マイナスをゼロに戻す”取り組みが主流でした。職場に誰か不調者が出たら、個別に対応して治療を受けさせる。休養や投薬により症状が回復すれば、つまりマイナスの状態がゼロになれば、それでOKだったんです。早期発見・早期治療によるメディカルケアが、これまでの職場のメンタルヘルス支援の基本であり、また“限界”だったとも言えるでしょう。あくまでゼロに戻すだけですからね。そもそもメディカルケアを実際に担うのは、産業医や保健師、臨床心理士といった医療分野のスタッフ。会社側は支援と言いながら、不調者が出たら専門家に任せて治してもらえばいいんだ、というスタンスだったのです。きびしい言い方ですが、“丸投げ”のそしりは免れません。

企業自体に、もっとできること、やるべきことがあるということですか。

働く人たちにとっては、マイナスがゼロになれば、つまりうつなどのつらい症状が治まれば、それでOKというわけではありません。メンタルヘルス不調の陰には、キャリアに関するストレスの問題が潜んでいることが多いからです。

例えば変化の激しい昨今、メンタルヘルス不調で長期休職を余儀なくされると、その間に持っていた知識やスキルが陳腐化してしまい、復帰しても“浦島太郎”状態。復職後キャリアをどう立て直せばいいのか、不安や葛藤を抱くことが珍しくありません。しかしそういう人たちにも、何かしら強みやこれまで培った得意分野があります。会社がそれを活かし今後のキャリア形成の見通しを一緒に考えてあげないと、仮にうつが治ってマイナスからゼロに戻ったとしても、本人を前向きに動機づけることは難しいでしょう。

つまり個々のキャリア支援がなければ、真の意味での職場のメンタルヘルス対策にはつながらないわけです。働く人たちは、人材として活かされてはじめてやりがいを感じ、成長し、アウトプットの面でも生産性を高めて組織に貢献できるようになるのですから。そこを支援するのが会社の役割です。ゼロに戻すだけでは、もうダメなんですよ。

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