日本の人事部 LEADERS(リーダーズ)2016 Vol.4
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柔軟に組み上げていくパズルのようなもの。そのパズルを組み上げる主導権と責任は自分自身にあるのだ、というのが「ライフパズル」の考え方です。イケア発祥の地であるスウェーデンでよく使われる言葉ですが、私も大好きな言葉なので、こうして取材や講演があると、いつも使うようにしています。ーー従来型の雇用システムや給与体系では、多様で複雑になる一方の「ライフパズル」に対応していけないということですか。 特に日本の多くの職場では、ダイバーシティが大切と言いながら、その基本中の基本であるジェンダーの部分さえ、まだ遅れています。企業で活躍するのは「男性も、女性も」ではなく、「男性か、女性か」どちらかという風潮が根強いですよね。女性の大半はパートタイマーという“身分”に固定され、豊かな能力を持っているのに、会社のシステムがそれに伴っていなかったり、いわゆる“103万円の壁”を意識して自ら働くことを制限したり、せっかくの能力や経験が生かされているとは言い難いのが現状です。子供を産んだら会社を辞めるしかなく、育児が一段落しても再就職をためらってしまう――そんな社会ではとても、自分の人生のパズルを主体的に組み上げていくことなどできません。こうした状況を打開するには、同一労働・同一賃金に基づく“すべての雇用者の正社員化”が一つの突破口になるのではないか。弊社が導入することで、日本に何かしらインパクトを与えられるのではないか。そんな思いは、人事として強くありましたね。ーー働く人一人ひとりの「ライフパズル」を、そこまで尊重するのはなぜですか。 イケアという会社では、人間こそがすべての起点だからです。「人を大事にする」ということが単なるスローガンではなく、企業のカルチャーとして組織全体に浸透しているからです。 私自身、人事としてのキャリアが長く、弊社の前にもいろいろな会社で働いてきたので、スローガンでは「人が財産」みたいな立派なことをうたっているけれど、「現実はどうなの?」と思うことがありました。そんな私がイケアに入って一番驚かされたのが、“言行一致”の企業であるということです。入社前に話で聞いていた「うちはとにかく人を大事にする会社です」ということと、実際に行われていることとが、「100%」というとウソになってしまうのですが、99%は一致していたんですよ。国内で約2800人、全世界では約15万人が働く、これだけの規模の組織で、言っていることとやっていることが一致するというのは、会社が「人を大事にする」施策をどれだけ本気で徹底してきたか、その表れでしょう。 では、イケアにとって「人を大事にする」とはどういうことか。弊社の基本理念、図の三角形の頂点に記されている「より快適な毎日を、より多くの方々に」。これがイケアの理想、ビジョンです。そして、このビジョンを実現するために必要なのが、ビジネス理念と人事理念。イケアという企業は、これら三つの理念が支え合って成り立っているのだという関係性を、トライアングルの形で表しています。その人事理念では、「真摯で前向きな方にプロフェッショナルとして、人間として成長する機会を与えたい。そして社員全員が協力してお客様はもちろん自分たちのためにもより快適な毎日を創り出していきたい」と述べています。つまり、お客様により快適な毎日をお届けできるように、働き手もまた、自分たち自身のために、より快適な毎日を求めていってほしい。そのためにプロフェッショナルとしても、個人としても、成長できる機会はどんどん提供しますよ、というのが会社の基本的な方針なのです。ーーイケアのビジョンや理念を叶えるためには、何が必要なのか。今回の人事改革で重視したポイントを教えてください。 イケアでは、すべての従業員を“ともに働く人”という意味で「コワーカー(Co-worker)」と呼んでいますが、先ほど申し上げたように、弊社は人が起点の会社ですから、何より必要なのはコワーカーの力です。私たちは“We believe in people”という言葉をよく使うのですが、イケアは、人の力を信じています。人の力を信じているからこそ、すべてのコワーカーの成長を願い、その成長をサポートするための変革や努力を惜しみはしません。そしてコワーカーの力でビジネスを発展させていくのです。そしてもうひとつ、大切にしているのが“Everybody has a talent”。「誰もがタレント(才能)を持っている」という言葉です。私たちには、欠点や悪いところがたくさんありますが、いいところもそれぞれ必ず持っています。それを見つけて、伸ばして、集めれば、組織全体としてすごくいいものが生まれるに違いない。そういう考え方です。 そして今回の人事改革では、コワーカーの力を信じて、その成長に寄与するために、施策の柱を大きく三つ設けました。一番目はダイバーシティ&インクルージョン(Diversity & Inclusion)――多様な人材の受容と活用です。イケアビジョン、ビジネス理念、人事理念――支え合う三つの理念53

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