日本の人事部 LEADERS(リーダーズ)2016 Vol.4
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出世しないとミジメになる文化を作ってきた。しかし今はその逆で、プロフェッショナル的な働き方が求められています」 次に高橋氏は、自律組織をつくるポイントについて語った。それは、序列固定の組織から、役割柔軟の組織への転換だ。序列固定の組織は、雇用の安定と出世重視での求心力を強みとしてきた。仕事の中身そのものは二次的で求心力至上主義であり、仕事はジェネラリスト発想。それが今、崩壊しつつある。「日本では社員に組織にコミットすることを求めてきましたが、最近ようやく、高い専門性の仕事が増えてきました。それぞれの分野が高度に専門化し、想定外な変化が多発する状況になりつつあります。そうなると、内向き序列価値観や意思決定権限が単純に序列に結びついた組織では、対応できません」 自律組織になるには、個々が意思決定を行わなければならない。だからといって、ただ権限を委譲すれば問題が解決するわけではない。意思決定には情報、能力、権限の一致が求められる。「第一線での個別性が高い仕事や想定外事態への対応、専門性が高い仕事は、意思決定だけでなく、情報と能力の分散化が求められます。そこで私たちは自律組織としてどのような形を目指すべきか。私は序列より役割を重視し、かつ役割を柔軟化する『サッカー型』の組織だと思っています。例えば、序列重視で役割が柔軟な組織『相撲型』では、納得のいく序列の実現は難しい。序列ではなく役割重視の『野球型』では、その役割がかなり固定的になってしまう。サッカー型であればディフェンダーもシュートするし、フォワードも守りに回ります。序列より役割を重視し、役割を柔軟化することが自律組織の肝となります」 自律組織では、どのようなリーダーシップが必要となるのか。過去、ピラミッド組織では、命令を単純化し、タテの関係でやる気を鼓舞する「タテ型リーダーシップ」が非常に重要だった。「要するに、頑張りが求められていたわけです。リーダーには部下を鼓舞してモチベーションを上げることが求められました。一方、自律組織で重要とされるのは、意味の伝達であり、考え方を伝授すること。そして、内省を促す問いかけを行うフィードバックによる、行動のポジティブリインフォースメント(褒めによる補強)。また、ヨコの関係から人を巻き込む力も必要です」 自律組織では、叱咤激励型のリーダーシップやマニュアル的マネジメントに依存すると、大きな問題を起こすようになる。「何でもやる気に収れんさせることは危険です。そもそも十分な能力がなければ、役割は果たせません。あくまでも必要とされる能力開発が先にあるべきで、モチベーションから入るべきではない。マニュアルとやる気だけでは対応できない仕事が増え、そこからコンピテンシー、成果を上げる行動特性という概念が生まれました。自律組織における意味の伝達は、昔からある朝礼の唱和といったものでは役割を果たせません。具体例をきちんと説明し、自身の体験談を自分の言葉で伝え、最後に『わかっているか』と質問して確認する。そこまでしないと、相手に腹落ちさせることはできません」 言葉で伝えることを面倒に思うリーダーもいるが、寡黙ではこれからのリーダーは務まらない。何事も話さなければわからないし、理解させられないからだ。また、「ヨコのリーダーシップ」も重要だという。それは他部門の協力を得たり、顧客からの協力を得る力だ。ここで重要になるのは、観察の習慣化だと高橋氏は語る。多様性への感受性を高める必要があるからだ。「意識することで観察する力は身につきます。そして相手の言葉に着目し、相手が大事にする価値観に合わせ、相手が使う言葉を使って説得する。ここで、いかに気持ちに刺さる言葉を使えるようになるか。自分の思いを語るだけではヨコのリーダーシップは生まれません。人の力を借りる必要があるからです。私はこれを『感じよく図々しくなる能力』と言っていますが、いかに人を巻き込んで助けてもらうかが重要なのです」 これまで日本企業では、企業内人材育成重視、それもOJT重視の戦略をとってきた。その背景にあるのは、長期雇用に基づく世代継承性の連鎖による強みだ。しかし、その一方で日本では、大学・大学院の社会人入学率が低く、企業研修も少ない。日本では個人の新たな学びや学び直しが軽視されているのだ。高橋氏はこの先、日本型タテ型の人材育成が続けば、イノベーションは起きなくなると危惧する。「日本型の人材育成は、ビジネスの急速な変化やデジタル化、グローバル化、働き方の多様化に弱い。理論化、体系化、見える化の力が弱くなりやすく、応用力が付かないため、変化に対応できないのです。より問題なのは、タテ型OJTではイノベーションが起きないこと。ある意味当然ですが、物事を伝承するからイノベーションが起きにくくなります。将来の雇用の不安定化以上に、キャリアの不安定化と不十分な学び直しは大きな問題です。日本が得意の伝承型OJTだけでは、ビジネスで必要とされる人材は育ちません。では、どうしたらいいのかというと、組織内でタテに学ぶのではなく、ヨコに相互に学び合う『ヨコ型開放型人材育成』を取り入れることです。上司、先輩の教えよりも、相互に学びあうこと、刺激しあうことが重要なのです。実際、データを見ても、ヨコの学び合いのほうがその効果は高いことがわかります」 自律組織には、育てる側と育てられる側があるのではなく、互いに学び合う関係性が求められる。部下から上司が学ぶこともある。「まさに『寄って、たかって育てる』、そういった関係性が生まれることが、自律組織を作る上では重要です」いま求められる、人を巻き込む「ヨコのリーダーシップ」23

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