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『日本の人事部』HRクラブ 開催レポート

【第18回テーマ】

若手人材育成の新しい方法論を考える
~ソーシャル時代の採用・育成の新しい取り組みを事例に~

2012年7月19日(木)に、第18回『日本の人事部』HRクラブを開催いたしました。

今回のゲストは、アイティメディア株式会社 総務人事部担当部長の浦野平也氏。前半は、アイティメディアが実際に行っている採用・育成戦略についてご説明いただき、後半は浦野氏と参加者全員によるディスカッションを実施。活発な意見交換が行われました。本レポートでは、当日の模様をダイジェスト形式でご紹介いたします。

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【第18回 開催概要】

■ テーマ
若手人材育成の新しい方法論を考える
~ソーシャル時代の採用・育成の新しい取り組みを事例に~
■ 開催日時
2012年7月19日(木) 18:30~20:30
■ 場所
アイティメディア株式会社 セミナールーム
■ ゲストスピーカー
アイティメディア株式会社 総務人事部担当部長 浦野平也氏

<浦野 平也氏プロフィール>(うらの・へいや)1972年生まれ。早稲田大学卒業後、ソフトバンク入社。広報部、人事部を経てソフトバンクBBの設立、人事部門の設立に参画。アイティメディアに移籍 し、2006年より現職。アイティメディアはIT関連分野を中心とした情報やサービスを提供する、インターネット専業のメディア企業。IT総合情報ポータ ル「ITmedia」、ITエキスパートのための問題解決メディア「@IT」をはじめ、ターゲット別に数多くのウェブサイトを運営している。

価値を提供できる組織に向けて

アイティメディアでは、2009年から採用の手段を「ソーシャルリクルーティング」に切り替え、ナビサイトは一切使わなくなったそうです。経費の削減にも繋がりますが、何よりも、情報感度の高い優秀な人材と出会い、採用するための手段として適していると言います。

「シェア研修」について説明する前に、今後はどのような組織が社会やユーザー、社員に価値を提供できるのか。また、人事はそのために何を果たさなければならないのかについて、同社の考えをお話しいただきました。

まず、「これからはどのような組織が価値を提供できるのか」について。同社では、今後組織を大きくしていこうとは考えていないそうです。大きな組織を志向して、上が詰まった状態を生み、若手にはなかなかチャンスがない状況を避けたいとの意識があります。また、組織が大き過ぎると、往々にして競合する小さな組織や個人に対して、スピードやコストで対応することができません。同社では、小さな組織をフラットに増やし、それぞれのチームに権限を委譲していかなければ、生産性は向上しないと考えていると言います。

小さなチームのトップを務める人材には、「経営者」としての役割(権限)が求められます。今後はそういった「経営人材」が大量に求められることになりますが、そういう人材は、壁を越えて他者と共同する能力が前提でなければならないとのこと。自分や自社だけでなく全体の利益を考えたり、社内・社外の小さな組織と価値観を共有して繋がったり――。企業はいろいろな手を打つ際、自社・自部門にとって最適なものを考えがちですが、このような環境変化を踏まえれば、社内だけに閉じこもらないオープン化された「キャリア形成」「成長支援」の視点が必要だと、浦野氏は言います。

いつでも自社を飛び出すことができ、また、他社でも成果を出せるような人材を育てていくこと。それが、結果的には同社の成長にも繋がると考えているそうです。優秀な人材が流出するのではないかと、懸念する企業も多いことでしょう。実際、社員にソーシャルメディアでの情報発信を禁止するなど、社員がマーケットに出て行く機会を防ごうとする企業もあります。しかし、同社では、むしろ社員にソーシャルメディアの利用を推奨しているとのこと。情報を発信することで、個人のプレゼンスが上がっていくことのメリットは企業にとっても大きいという考えがあるからです。

「社内システム」と「Webシステム」これまで、多くの組織では「社内システム」を強化してきました。しかし、浦野氏は、今後はもっとオープンにネットワーク化された「Webシステム」にすべての指向を変えていかなければならないと言います。採用・育成といった人事施策も、「Webシステム」という考えに基づくようにしていくとのこと。

そこで、同社での採用は「ソーシャルリクルーティング」になりました。また、オープン化を促進する成長環境を創ろうという考えから、新人研修は「シェア研修」というスタイルになっていったのです。

シェアされる研修と育成環境の創造

浦野氏は、若手育成のゴールは、「Webシステムで成功する組織のトップ(リーダー)の輩出」「価値観を共有する小さな組織を率いることが出来るリーダーへの成長」だと言いますが、そのための環境を創造する最適な施策として「シェア研修」が設計されたとのこと。

研修をシェアする際には、大切なポイントがあるそうです。受講者が自社だけではなく、他社の新入社員と共に研修を受けることで、多様なフィードバックを受けられたり、新たな競争意識が生まれたりする機会を意識的に設計することなど。もちろん、シェア研修を行う場合には、課題や目的が共通している企業と実施しなければなりません。そうでなければ、継続性が生まれず、シェアもオープン化も限定的な単なる一つの施策で終わってしまい、本来求めるはずの効果もなかったということになりかねないからです。

もちろん、同社では他社とうまく協働し、プログラムを進めています。それぞれの企業が得意としている研修を提供し合うので、それまでは研修の仕事に10の労力をかけていたとしたら、シェア後は実感値で2にまで減少したそうです。また、参加する新入社員たちは、会社の壁を越えて自分たちがやりたいことを自発的に集まってやり始めていると言います。人事は、そういった新たな場(=成長する環境)をいかに提供するかを大切にしたいとのこと。人事同士の活動範囲も拡大したそうです。

Webシステムの組織や社会で力を発揮できる人材だから「ソーシャルリクルーティング」で採用し、「シェア研修」で育成していく――。同社の採用・育成に関する方針は、今回参加された方々にとって新たな気づきとなったことでしょう。また、自社の採用・研修を見つめ直す機会にもなったことと思います。

人事の役割はどう変わっていくのか

Photo最後は、ソーシャル化する時代に「人事の役割はどう変わっていくのか」について、浦野氏の考えをお聞きし、参加者の皆さんからの質問に浦野氏が答える質疑応答や、参加者同士がざっくばらんに語り合うディスカッションを実施。活発な意見交換が行われました。

浦野氏は「採用-育成-評価/組織」を、一人の人事が全て計画・実行していくことは、これからの組織では十分にありうると言います。業務分担の発想を転換し、人事の役割を大きく変えていかなければならないとのこと。さらには、広報やマーケティングなども、採用活動と繋げて一人でマネジメントしていくような動きも出てくるのではないかと言います。人事もソーシャルの場でさまざまな人と交流しているので、企業におけるコミュニケーションリーダーとなる可能性は十分にあるという考えでした。

*    *    *

今回はIT業界の企業が連動した「シェア研修」という取り組みを中心に説明紹介いただきましたが、業界が異なる企業にお勤めの皆さまには、とても新鮮な話題だったようです。企業によってさまざまな取り組みがあることを、改めて認識できたのではないでしょうか。

日本の人事部「HRクラブ」では、今後も、さまざまな企業の事例を取り上げて参ります。次回もどうぞご期待ください。

【参加者の声】

≪講演の感想≫

  • お話が大変わかりやすく、内容も共感できるところがたくさんありました。(三幸製菓株式会社/杉浦 二郎様)
  • 「気づき」となるお話をうかがうことができました。人事として何をすべきかについて考える良いきっかけとなり、大変良かったと思います。(情報サービス・インターネット関連/採用・雇用、賃金・社会保険担当)
  • 当社はまだ「社内システム型」の企業なので、「オープン化」していくという発想自体がとても新鮮でした。(運輸・倉庫・輸送/採用・雇用、人材開発・キャリアデザイン担当)
  • 採用、育成、評価と、同じ人が関わっていても、別物として考えていました。奥が深いお話で、大変刺激になりました。(情報処理・ソフトウェア/採用・雇用、人材開発・キャリアデザイン担当)
  • 研修の目的について考え直す、良い機会になりました。(情報サービス・インターネット関連/人事担当)

≪ディスカッションの感想≫

  • 課題が共通している部分のほか、当社にない取り組みや考え方についても聞くことができました。(三幸製菓株式会社/杉浦 二郎様)
  • 経営視点で判断できる人事の必要性を、改めて感じました。行動を起こすことが必要ですね。私もがんばります。(情報サービス・インターネット関連/採用・雇用、福利厚生、安全衛生担当)
  • さまざまな考え方を知ることができ、有益でした。できれば、もう少し時間が欲しかったと思います。(運輸・倉庫・輸送/採用・雇用、人材開発・キャリアデザイン担当)
  • 経営的視点をどれだけ持てるか、また、組織からその役割を期待してもらえるかどうかが、キーになるのだと感じました。(情報サービス・インターネット関連/人事担当)

【第19回『日本の人事部』HRクラブ 開催のご案内】

第19回は、2012年9月7日(金)18:30から、ゲストに三井物産人材開発株式会社 人材開発第一室 室長の小林陽一氏をお迎えして開催する予定です。テーマは『三井物産の経営理念を浸透させる人材育成 ~「良い仕事」実現に向けた取り組みとは~』。参加ご希望の方は、下記から開催概要をご確認の上、お申込みください。皆さまのご参加をお待ちしております!