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掲載:2020.03.04

HRコンソーシアムレポート

2020年1月30日開催「HRコンソーシアム」新年懇親会 レポート
いま、目指すべき「人事リーダー」のあり方を考える
――不確定な時代を生き抜くため、持つべき視座・志とは?

髙倉千春氏 藤間美樹氏 伊達洋駆氏 photo

先の見えないVUCAといわれる不確定な時代、企業人事には次代を生き抜く「強い組織づくり」が求められている。今、人事リーダーにはどのような視座や志が必要なのか。これまで人事リーダーとして数々の困難を乗り越え、豊富なキャリアを積んできた味の素・髙倉氏、参天製薬・藤間氏を招き、ビジネスリサーチラボ・伊達氏がファシリテーターとなってディスカッションが行われた。

プロフィール
髙倉千春氏(たかくら ちはる)
髙倉千春氏(たかくら ちはる)
味の素株式会社 理事 グローバル人事部長

1983年、農林水産省入省。1990年にフルブライト奨学生として米国Georgetown 大学へ留学し、MBAを取得。1993年からはコンサルティング会社にて、組織再編、新規事業実施などにともなう組織構築、人材開発などに関するコンサルティングを担当。その後、人事に転じ、1999年ファイザー株式会社、2004年日本べクトン・ディキンソン株式会社、2006年ノバルティスファーマ株式会社の人事部長を歴任。2014年7月に味の素株式会社へ入社し、2018年4月から現職。味の素グローバル戦略推進に向けた、グローバル人事制度の構築と実施をリードしている。

藤間美樹氏(ふじま みき)
藤間美樹氏(ふじま みき)
参天製薬株式会社 執行役員 人事本部長

1985年神戸大学卒業。同年藤沢薬品工業(現アステラス製薬)に入社、営業、労働組合、人事、事業企画を経験。人事部では米国駐在を含め主に海外人事を担当。2005年にバイエルメディカルに人事総務部長として入社。2007年に武田薬品工業に入社し、本社部門の戦略的人事ビジネスパートナーをグローバルに統括するグローバルHRBPコーポレートヘッドなどを歴任。2018年7月より参天製薬に人材組織開発本部副本部長として入社し、2019年4月より現職。参天製薬のグローバル化を推進。M&Aは米国と欧州の海外案件を中心に10件以上経験し、米国駐在は3回、計6年となる。グローバル化の流れを日米欧の3大拠点で経験し、グローバルに通用する経営に資する戦略人事を探究。人と組織の活性化研究会「APO研」メンバー。

伊達洋駆氏(だて ようく)
伊達洋駆氏(だて ようく)
株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役

神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、人事領域を中心に民間企業を対象に調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」サービスを提供している。共著に『「最高の人材」が入社する 採用の絶対ルール』(ナツメ社)

髙倉氏によるプレゼンテーション:組織の未来を創る ~私の人事キャリアと、これからの人事パーソンに求められること~

味の素は世界130ヵ国で事業を展開。従業員数は約3万5000人で、ノンジャパニーズが2万人以上を占める。髙倉氏はまず、現在の人事課題から語った。

「食品ビジネスとしては、国によって好まれる味が違い、商品も異なりますから、事業展開の上では各国のノンジャパニーズの皆さんに頑張ってもらわなければいけません。この人財の多様性をどうマネジメントしていくかが、人事の課題となっています」

髙倉氏は味の素に入社して6年目。これまで考えてきたのは、ダイバーシティマネジメントにおいて何を行うべきか、ということだ。

「具体的には、二つのことを考えてきました。一つ目は、何をもってチームを形成するか。そこには求心力になるような価値観が必要です。そこで、味の素の企業バリューを求心力に据えました。もう一つは、適所に適財を充てていくこと。企業戦略からいえば、そこにどういうポジションが必要であり、どんなタレントが育てばいいのかという順序で発想してきました」

次に髙倉氏は、自身のキャリアを紹介した。20代で農林水産省に入省し、米国への留学を経て、外資系のコンサルティング会社に転職。「戦略を推し進めるのは人である」という気付きから、外資系医薬品メーカーで初めて人事の世界に入った。

「ここでは経営戦略を押し上げ、利益をきちんとあげることが至上命題でした。そのために人事が何をやればいいのかを考え、毎日現場に伝えることが私のミッションです。そこで毎日MRに同行し、彼らがどうすれば営業活動がやりやすくなるのかを考えました。この行動を通じて、人事とビジネスの距離を近づけることの大切さを知りました」

髙倉千春氏 photo

現在所属する味の素は、髙倉氏にとって初の日本企業。新たなグローバル人事制度の導入を行うことになったがが、変革の難しさも痛感することになる。

「どの企業でも変革を推進し新しいことを行うときに反対する勢力は必ずいますが、その人たちの考えにも耳を傾ける必要がある。今までの成功があったのはそういった人たちの貢献のおかげだったりするわけです。では、彼らに納得感をもってもらい、新しい世界に向かうにはどうすればいいのか。大事なのは、今までの経緯への傾聴と尊重、そして将来への大義とストーリーの明確化です。相手をリスペクトしながら、なぜ変わらないといけないのかを一緒に対話できる人事にならなければいけません」

人事は組織と個人の成長に関わるが、髙倉氏は、これからは個人が主人公となり組織をけん引する時代になるという。

「これからは個の尊重が大事です。『これをしたい』という個に対して、組織がどうアプローチしていくかを考えなければいけません。人事としては、多様な個、多様な価値観をどう理解し、まとめていくかが重要になります」

日本企業の多くはこれまで、決めたことをしっかりこなすウォーターフォール型だったが、変化の激しい時代にはそれでは対応できない。これからの人事は、プロジェクトの途中でも仕様を変更し、早期に対応するアジャイル型が求められていると髙倉氏は語る。

「これからの人事リーダーの要件は二つ。一つ目は、変化する外部環境を見据えて、あるべき方向性を示せることです。人の育成には時間がかかりますから、人事はビジネスリーダーよりも半歩前に出ないといけません。経営視点をもって主体的にアクションを起こし、結果にこだわる必要があります。もう一つは、個を尊重して一人ひとりを鼓舞し、各自がいきいきと活躍できる職場風土を醸成できること。これからは人が真ん中にある経営になると言われますが、そこで人事が何をできるのかが大いに注目されています」

藤間氏によるプレゼンテーション:人事として成長できた三つの貴重な経験

藤間氏は自身のキャリアの紹介から話を始めた。キャリアのスタートは藤沢薬品(現アステラス製薬)での15年間のMR経験だ。

「営業は人を動かして買っていただく仕事なので、ここでの経験は今の人事という仕事にも大いに生きていると感じます。次に労働組合の委員を8年、同時に後半は大阪営業支部長を4年経験しました。ここでよかったのは、大変苦労もしましたが、人事権のないリーダーの経験です。その後、人事部に異動し、R&D人事を担当。米国に駐在し、米国の人事制度と文化を学びました。ここで感じたのは、人事の仕組みはその国のカルチャーそのものだ、ということです」

その後、医療関連事業部のBDへの事業譲渡があり、藤間氏は全所属員の解雇を自身で行うという厳しい経験をする。実は髙倉氏は、このときの譲渡先の人事だ。その後、藤間氏はバイエルメディカルに人事総務部長として入社し、欧米リーダーのロールモデルを学ぶ。武田薬品工業に入社してからは、海外人事、グローバル化を経験。その後、参天製薬に入社し、グローバル化推進を担当。藤間氏は人事として、これまでで一皮むけた思える経験が三つあると語る。一つ目はやはり、アステラス製薬の医療関連事業部の事業譲渡だ。

「58名の部署でしたが、入社2年目の人までも解雇することになりました。私は腹をくくり、誰にも言いませんでしたが自分も辞める覚悟を決めてから、この仕事に臨みました。当時は誰も辞めることになるとは思っていなかったので、大いに荒れて、極限状態での人の本音を見ました。しかし、私が逃げるわけにはいきません。譲渡先の人事の髙倉さんと一緒に、一つずつ答えを見つけていきました」

藤間美樹氏 photo

二つ目の経験は、武田薬品工業時代のボストンでのM&Aだ。ここで藤間氏は、一人で使命をやり抜く。米国で交渉する際には日本と時差があるため、人事部長から権限移譲を受ける必要があった。そこで、どこまで自分に判断させてもらえるかを毎日確認するという、厳しい日々が続いた。

「ここでアメリカ人エリートの本気を知りました。いざ交渉相手になると非常に手ごわい。また、交渉相手との信頼関係の構築も大変でした。実はこのときの事案は、スタンフォードのMBAのケーススタディになっています」

三つ目の経験は、武田薬品工業でのグローバルコーポレートHRBP(HRビジネスパートナー)コーポレートヘッドの経験だ。完全なる欧米式マネジメントで、世界水準のグローバルリーダーを育成することを経験した。

「仕事をするうちに、武田薬品工業の人事から日本の人事へと意識が移っていきました。人事として日本企業のあるべき姿について考えるようになったので、よい経験だったと思っています」

伊達氏によるプレゼンテーション:困難に立ち向かうとき、人には何が必要なのか

伊達氏は、2011年にビジネスリサーチラボを創業。人事領域を中心に調査・コンサルティング事業を行い、研究知と実践知の両方を活用したピープルアナリティクスのサービスを提供している。まず伊達氏は、二人のプレゼンテーションについて感想を述べた。

「お二人に共通していると感じたのは、対立する利害関係者をうまく調整するなど、非常に高度で困難な経験をされていることです。表面化していく葛藤をうまく統合していくという、難しい経験をされています」

伊達氏はここで、日本のリーダーに自分が一皮むけた経験について聞いた調査を紹介した。出てきたのは「人事異動の経験」「初期の仕事経験」「海外勤務の経験」「管理職になる経験」といったものだ。

伊達洋駆氏 photo

「今までの能力では解決できないものに出会ったとき、リーダーとしての学びがあるのだと思います。実際、定量的にも、ハードな仕事、高度・先進的な仕事を経験すると、高い学習成果に結びつくことがわかっています。リーダーになる人には、成長できる機会を自ら求めに行くのかもしれません」

しかし一方で、人が困難に立ち向かうときには「自分にできるのか」「自分はつぶれてしまうのではないか」という不安も生まれる。ここで困難に向き合うために必要になる能力として、レジリエンス、熟達目標、自己効力感があると伊達氏は語った。

「一つ目のレジリエンスは、逆境状態にあっても、それにうまく適応することです。誰もが後から獲得していくことが可能な能力で、特に、問題解決志向、自己理解、他者心理といった構成要素については育成可能性が高いことが知られています」

二つ目の熟達目標とは、自分の能力を高めたいと考えていくマインドセットであり、自分の能力を評価されたいと考える遂行目標とは異なるものだ。

「例えば失敗した際も、熟達目標の志向性が高い人は、違うやり方が必要だと考えて再度挑戦しようとしますが、遂行目標の志向性が高い人の場合、自分の低い能力を露呈してしまったと気持ちが落ち込んでしまいます」

三つ目の自己効力感は、ある行動をうまくできるだろうと思える自信を指す。これがあればストレスフルな場面でも脅威を感じにくく、挑戦しようとする気持ちを持続できる。自己効力感を高めるには「小さな成功体験を積む」「ロールモデルをもつ」「人にやれると言ってもらう」などの方法が有効だ。

「これらの点において、お二人は困難な経験の中で、大変豊かな学びを得ています。そのことが人事としての強さにつながっているのだと思います」

ディスカッション:人事が困難な状況を乗り越えるときに必要なものとは

伊達:仕事をする中で「学びになった」「成長できた」と感じた経験をお聞かせください。

髙倉:私は当初、農林水産省で秘書のような仕事をしていましたが、自分でおもしろい仕事を取っていこうと考えるようになり、最終的には日米通商交渉を担当しました。そこで感じたのは、やりたい仕事があれば、それを戦略的に取っていくことのおもしろさです。20代のことですが、その後の仕事に対する姿勢の原点となっています。また当時、仕事をスムーズに行うために、意図的に行っていたのは自分のフォロワーをつくることです。上司に対しては信頼されるだけの仕事をこなす。同僚には「この人と仕事をしてみたい」と思わせる。特に女性の場合、同性のフォロワーがすごく大事です。子どもが生まれたときにつくづく感じたのですが、同性の同僚によるサポートは非常に大きかった。

また、味の素に入ったときは三つのタイプをイメージして、フォロワーづくりを行いました。一つ目は、外から入った新人という立場。二つ目は、変化を面白いと感じ、私の新しい提案を「味の素流」の言葉に変換してくれる人たち。三つ目は、きちんと進めてくれる、堅実な人たち。自分でやることのゴールを決めたら、これらの人たちを掛け合わせ、手伝ってもらうようにして物事を進めてきました。

藤間:リーダーには、周囲に対する自分の見せ方も問われると思います。どう見せるかは人それぞれですが、私は負けず嫌いなので「持久戦に持ち込んででも、勝つまでやる」という姿勢を見せていました。ただ、海外のリーダーを見ていると、「リーダーだな」と意図的に思わせる瞬間が必ずあります。例えば、女性のリーダーの下で働いていたとき、この人は大変要求の厳しい人だったのですが、どんなに怒っていても帰るときには、にっこりと笑って帰ります。その顔を見ただけでやる気が出る。少し笑うだけでも、印象はガラリと変わります。

ディスカッションの様子

伊達:ポジティブな感情で仕事に向き合い続けることは難しいことですね。でもお二人は、人事リーダーとして、日々何らかの楽しみを見出したり、頭の中を切り替えたりしながら、ポジティブな姿を日々周囲に見せている。それは大事なことだと思いました。では次に、困難な状況に出会ったとき、それを乗り越えるためのマインドをどのように保っているのか。何か気をつけていることはありますか。

藤間:物事の一点に集中すること、いらないことを考えないようにすることです。私は困難があっても、あまりストレスを感じないほうなのですが、自分がやりたいようにやって「クビだ」と言われたら、それは「相性が合わなかった」と割り切るしかない。そして、何があっても厳しい顔は自分一人のときだけにしておき、外ではにっこりとしているようにしています。

髙倉:人事リーダーがあるレベルの立場になったとき、やらなければならないことが二つあると思っています。一つ目は、常にポジティブであること。これは使命というか、世の中へのサービスだと思っています。人事という立場は、思った以上に周囲から見られているんですね。私は会社の最寄りの駅に着いたら、いくらか口角を上げるように気をつけています。なぜそう思うようになったかというと、農林水産省にいたとき、ソニー創業者の盛田昭夫さんと話をする機会があって、そこで言われたことが印象に残っているからです。「僕はマネジャーに昇格した人に、二つのことを言う。一つは、マネジャーなんだから明るくいてくれ、ポジティブでいてくれ、ということ。もう一つは、相手の目線に降りていくことが大事だということ。いろいろな立場の人がいるから、リーダーは相手の目線に立って話ができないとダメだ」と。この言葉は人事になってから、大変参考になっています。

人事という仕事に必要な要素を考えると、理論は6割くらい。つくづく大事だと思うのは、3割の感情のコントロールです。新しいことを伝えようとして、相手に話を聞こうと思わせるのは感情です。そして残りの1割は「この人だから話を聞こう」と思わせる人間性。人としてどうあるべきかが仕事に生かせる点は、人事という仕事をしていく上での役得だと思っています。

ディスカッションの様子

ここで「人事リーダーのあり方」をテーマに、参加者がグループに分かれてディスカッションを実施。最後に三人から参加者にメッセージが送られた。

藤間:これからの人事は、会社という枠に閉じこもっていてはいけないと思います。日本企業の人事は、「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と持ち上げられた時代もありましたが、結果として、組織・チームとしての成果は出せていません。これは、人事がこれまで組織風土の改革ができていないことが原因だと思います。ただ、風土の問題は一つの会社だけで行っても、なかなか解決できません。これからの人事は「日本をよくしよう」と考えるくらいでなければならない。「令和の時代に日本を復活させたのは人事だ」と言われるよう、皆で一緒にこの問題を考えていきましょう。

髙倉:企業には、組織と個人という要素に加えて、社会をどのように考えているのかが問われる時代になったと思います。これまでの企業は「どうやって稼ぐか」が至上命題でしたが、これからは社会にどういう価値を提供できるかが問われます。投資家の皆さんも、社会のことを考える企業に投資をしたいと考えています。また、社会に対して、企業が仕事をクリエイトしていくことが問われているとも感じます。企業が新しい事業を提言できなければいけません。最終的には、我々が「働くことは楽しい」という思いを次世代へとつなげていく、架け橋になることが重要だと思います。

伊達:今日のセッションで印象に残ったのは、お二人が「日本」や「社会」という言葉を何度も使われていたことです。自社だけでなく社会のことも考える、視座の高さが必要だということです。それと同時に、自分の感情や周囲への配慮など、極めてミクロな内容も話されていました。このような両極に目配せをしながら仕事をしていくことが、これからの人事リーダーには求められているのだと感じました。本日は、どうもありがとうございました。

ディスカッションの様子

ディスカッションのあとは会場を換えて懇親会が開催され、参加者同士による名刺交換や意見交換、ネットワークづくりが行われた。

懇親会の様子
懇親会の様子
懇親会の様子
懇親会の様子